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【MTG】表現の変更①
※自分が他ブログで執筆していたものを加筆修正したものです。
2020年6月10日にwotcから禁止改定が出された。
人種差別を想起させるということで、計7枚のカードが全フォーマットで禁止カードに設定された。
#Blacklivesmatter などの社会情勢上、事前に手を打っておくといったところか。
日本人である自分にとって、禁止の理由についてはピンとこないものが多かった。
不勉強もよくないし、何より大好きなMTGの長い歴史の中でも大きな出来事だと思うのでまとめてみようと思う。
興味深くタメになるtweetが回ってきたのこれを参考にまとめてみた。
【Invoke Prejudice】
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対戦相手1人が、あなたがコントロールするクリーチャーと共通する色を持たないクリーチャー呪文を唱えるたび、そのプレイヤーが(X)を支払わないかぎり、その呪文を打ち消す。Xはそれのマナ総量である。
翻訳すると「偏見の扇動」となる。
自分のコントロールするクリーチャー色と合わない時、相手のクリーチャー呪文のコストが倍になるといったところ。
強くも弱くもないが、青マナ4色を要求するクァドラブルシンボル呪文としては珍しい。
カード名と効果のイメージとしては「色が違う存在は偏見によって生きづらくなる」といったところか。
このカードの問題点は3つ。
①白人至上主義団体であるKKKことクー・クラックス・クランの姿が描かれている
②カード名や効果が人種差別を想起させる
③この絵を描いたHarold McNeillさんはネオナチ的主張をしている(現在は削除)
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※他にも偶然だと思われるが、このカードの識別番号が1488であることも問題らしい。
「14」は14 Wordsと呼ばれる、人種差別者たちのスローガンを意味し「88」はアルファベットの8番目がHであり、HHは「Heil Hitler」の略語であるようだ。すごい偶然。偶然にしては差別のオンパレード。
逆にここまでヤバイカードが今までよく問題視されずに残っていたというのが率直な感想ではあるが、上記の理由があっての禁止らしい。妥当。
【Cleanse】
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すべての黒のクリーチャーを破壊する。
翻訳すると「清める」「浄化する」となる。
黒のクリーチャーのみを破壊する、対策カードかつ神の怒りの亜種。
サイドボードにも居場所があるか怪しいカード。
しかも黒のクリーチャーは再生やらリアニメイトが当たり前だから、破壊しかしないのはイマイチ。
カード名と効果のイメージとしては「黒(汚れ)を消し去る」といったところか。
このカードの問題点は2つ。
①「Cleanse」は日本でもクレンジングという言葉で定着しているが「Cleansing」は「Racial Cleansing(人種浄化)」「Ethnic Cleansing(民族浄化)」の意味が強い。
②フレーバーテキスト
The clouds broke and the sun's rays burst forth; each foul beast in its turn faltered, and was gone.
雲が割れ、太陽の光が射し込んできた。汚らわしい獣どもはつぎつぎに力を失い、やがて消えていった。
このフレーバーテキストが示す「beast(獣)」は効果にある破壊される「Black(黒人)」のことであるため、民族浄化のイメージとも合わさりよろしくない。
※日本でもそのままの意味では使われない言葉(炎上とかは炎が燃える様子よりもネットで使われることのほうが多いよね的な)があるように、海外特有の感覚なので勉強になった。
【Stone-Throwing Devils】
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アラビアンナイトより黒のコモン。
翻訳すると「石投げの悪魔」である。
先制攻撃を持つ1マナ1/1のデビルクリーチャー。
当時のクリーチャーとしてはデメリットなしで優秀な能力を持っている。今なら飛行までついているだろうが。
カード名と効果のイメージとしては「悪魔が石を投げるから先制攻撃を持っている」ってところか
このカードの問題点は2点
①イラストでモスク(イスラム教の寺院)が描かれており、そのモスク側から悪魔が石を投げている。つまり、モスクの向こう側にいる人たちは悪魔であることを暗示している。
また、イスラム教では「悪魔への投石(Stoning of Devil)」と呼ばれる、石の柱を悪魔に見立て、石を投げる儀式がある。このことからも、石を投げる悪魔=イスラム教徒のような意味を含ませている事がわかる。
②フレーバーテキストを見てみよう。
Sometimes those with the most sin cast the first stones.
翻訳すると
時として、最も罪が深いものが最初に石を投げる。
このフレーバーテキストは聖書にある
「He that is without sin among you, let him first cast a stone at her.」
「あなたたちの中で罪のない人が、まず最初に彼女へ石を投げましょう」
のオマージュである。(罪の女)
このフレーバーテキストから読み解くならば、モスクにいるのは罪深いものであることを意味している。
イスラム教に対する嘲笑がこれでもかと含まれているカードだ。
禁止もやむを得ないが、イラストとフレーバーテキストを変更すればいけるような気もする1枚。
【プラデッシュの漂泊民/Pradesh Gypsies】
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(1)(緑),(T):クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで-2/-0の修整を受ける。
このカードは日本語版もあるほど再録がされているカードだ。
コンバットトリックで生きる効果を持っているが、出すのに3マナ、起動に2マナタップではちょっと弱いかな。
このカードの問題点は1つ。
①「ジプシー」という言葉が差別的意味を持っているのが禁止事由。
ジプシーはヨーロッパにいる移動型民族のこと。エジプトから移動してきた「エジプシャン」が訛って「ジプシー」になったようだ。
まあ、見た目も生活様式も異なる人種が定住せずにそこら辺をウロウロしていたら、昔の差別や迫害の対象にはなることは想像に難くない。
当時と現代では言葉の重さが変わることはよくあるので、致し方ない部分もある禁止カードですね。
※日本でも「ジプシー」は差別用語や放送禁止用語になっているみたいで「ロマ」呼びが好ましいようだ。
【Jihad】
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Jihadが戦場に出るに際し、色1色と対戦相手1人を選ぶ。
選ばれたプレイヤーが選ばれた色のトークンでないパーマネントをコントロールしているかぎり、白のクリーチャーは+2/+1の修整を受ける。
選ばれたプレイヤーが選ばれた色のトークンでないパーマネントをコントロールしていないとき、Jihadを生け贄に捧げる。
翻訳すると「聖戦」またはそのまま「ジハード」と言われることも。
「神の道において努力する」ことが本来の意味であるようだ。
カード名と効果のイメージとしては「こいつは倒す!」って決めたら、それがいなくなるまで強化されるってところか。
このカードの問題点は1つ。
①現在、ジハードは戦争をイメージする言葉になってしまっており、本来の意味から離れてしまっている。このカードはその誤解を助長する可能性があると判断されたようだ。
wotcや開発者にイスラム圏の方がいるか分からないが、宗教用語として正しい使い方は非常に難しいので、使わない方が望ましいと思われる。妥当。
【Imprison】
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プレイヤーが、エンチャントされているクリーチャーの、その起動コストに(T)を含むマナ能力でない能力を起動するたび、あなたは(1)を支払ってもよい。そうした場合、その能力を打ち消す。そうしなかった場合、Imprisonを破壊する。
エンチャントされているクリーチャーが攻撃かブロックするたび、あなたは(1)を支払ってもよい。そうした場合、そのクリーチャーをタップし、戦闘から取り除く。この戦闘でそれによってのみブロックされていた、それがブロックしていたクリーチャーはブロックされていない状態になる。そうしなかった場合、Imprisonを破壊する。
翻訳すると「投獄」や「監禁」である。
カード名と効果のイメージとしては、投獄された人が何かしようとした時にそいつを拘束するために魔力を流す。魔力を流さないと拘束が外れる、といったところか。
このカードの問題点は1つ。
①イラストに描かれている人物の肌の色が浅黒く、黒人を想起させる。
また、鉄の仮面は黒人奴隷の拘束や拷問に使われた歴史があるように、黒人+鉄仮面は黒歴史の一つという認識が海外にはあるようだ。
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イラスト差し替えでも問題ないと思うけど、再録禁止なのも相まって修正が難しい。効果も現在の黒の役割からすると少し歪な感じもあるため禁止はやむ得ない印象。
【十字軍/Crusade】
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白のクリーチャーは+1/+1の修整を受ける。
何度も再録された、往年の名カードも禁止になってしまった。
カード名と効果のイメージとしては軍隊が協力して強くなる、といったところか。
このカードの問題点は2つ。
①十字軍が強化する対象が「白」であること「歴史上の十字軍がイスラム教徒を対象に戦争を行っていた」ことから白人がイスラム教徒を攻撃していたと想起させるのが問題であるようだ。
②イラストがまんま史実の十字軍であるところ。否が応でも現実の十字軍をイメージしてしまう。2022の記事であるが、十字軍はイスラム教徒の人たちにとって忌むべきものであるため、印象として良くない。
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まとめ
今回の禁止改定は今までのものとは異なり、禁止の理由や説明が不足していた。
MTGの白が「白人」を指すわけでも、黒が「黒人」を指すわけでもない。
しかし、そのような印象を持ってしまうことがあるのでカード名や効果、フレイバーテキストは十分に考える必要がある。
また、当時では理解が浅かった宗教への関心を深めることで、すべての人が楽しく安全に遊ぶ事ができる玩具になってくれるだろう。
次回の表現の変更②でまたお会いしましょう。
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