持続可能な開発・発展が可能な素材「ガラス」
マイクロプラスチックと何が違う?
SDGs(持続可能な開発目標)達成への課題として、海面を漂う大量のプラスチックごみの問題が取り上げられているのはみなさんもご存じのことと思います。陸や海で廃棄されたビニール袋やペットボトルなどの大きなプラスチックゴミはもとより、最近では、それらが細かく砕けたマイクロプラスチックの問題がクローズアップされています。
一方、海辺に遊びに行き、砂浜で様々な色のきれいなガラス片を拾った記憶はありませんか?「海の宝石」や「シーグラス」、「ビーチグラス」などと呼ばれ、子連れの家族が拾い集めたり、またそれらをアートに使う人がいたりします。もとは空き瓶や漁具のガラス浮き球などの割れたかけらが波にもまれ、岩や砂にさらされるうちに角が取れ、丸く削られた状態で砂浜に打ち上げられたものです。
地球との親和性
「マイクロプラスチックは大きな社会問題になっているのに、ガラスの場合は誰も問題にしないどころか、浜辺にある色とりどりのかけらを拾い集め、中でも珍しい形や色合いのガラスなどは宝物のように扱われていますよね。これは、ガラスが地球との親和性の高い素材だからなんです。一般的なガラスの成分は、地表を構成する成分とほとんど同じであり、それを高温で溶かして作られることから、環境汚染や生態系への影響が極めて小さい素材といえます。浜辺のガラス片も、波や砂によって削られ、やがて地球に還っていきます。長期間の使用に耐え、ほとんど変質しないガラス容器は特に環境意識の高い欧州などでは繰り返して使うことが当たり前とされ、リサイクルのシステムも確立しています」
そう語るのは日本電気硝子(NEG)の山崎博樹(やまざき ひろき)取締役常務執行役員。
リサイクルに関し、我々特殊ガラスメーカーにとっても同一の種類のガラスは貴重な原料として、溶融炉で溶かして再び製品に生まれ変わります。リサイクルガラスの使用は天然原料の使用量削減やエネルギー使用量削減に寄与していることからも、ガラスは環境との親和性が高い素材であることがうかがえます。
持続可能な開発・発展という点に目を向けると、人類の文明の発展においてガラスは重要な役割を果たしてきました。ガラスは、人工的に作られた材料の中では最も古い部類の材料とされており、社会のあらゆるシーンに使われ、豊かな暮らしを実現してきました。
参考:文部科学省配布の学習資料「一家に1枚 ガラス ~人類と歩んできた万能材料」
それでは、社会の発展に貢献してきたガラスの役割について触れてみたいと思います。
ガラスがなければ、エジソンの電球も生まれなかった
ガラスの歴史は紀元前4000~5000年頃から
ガラスの歴史は紀元前4000~5000年頃にまで遡り、メソポタミアやエジプトで作られ始めたとされています。紀元前1世紀頃には古代シリアで発明された吹きガラス技法により、ガラス容器の大量生産が可能になりました。ガラスの製造技術は時代とともに進化し、様々な形状や特質、機能を有したガラスが次々と登場し、そこから数々の用途が生まれています。
山崎 「例えば、人類が手に入れたガラス容器をつくる技術はその後医薬容器に、建物の窓ガラスは車や電車など移動体の窓へと進化しました。また、眼鏡のレンズは望遠鏡や顕微鏡へと進化して行き、天文学や生物学を発展させる礎になりました。エジソンが発明した電球はガラスがなければ実現できませんでしたし、それが後に真空管やブラウン管へと進化し、その後の様々な電子機器やディスプレイ装置の発展につながって行きました。現在では、スマホやタブレットのディスプレイをはじめ、インターネット通信に用いる光ファイバにもガラスが活躍しています。このように、例を挙げて行けばきりがないほど、社会の発展に対してガラスが果たしている役割はとても大きいといえます」
”文明の産物”を手掛けよ
NEG社内で現在も共通の認識となっている言葉があります。それは、NEGの実質的な創業者である3代目社長の長崎準一氏が役職員一人ひとりに常に語っていた「”文明の産物”といえるものを手掛けよ」というもの。”文明の産物”とは、時間の経過が我々に味方してくれるもの、文明の進歩とともに伸びていくものを指し、裏を返せば文明の流れに逆行するようなものは手がけてはならないとの戒めでもあります。
世の中が求める新しい機能を
山崎 「我々がやろうとしているのは、世の中が求める新しい機能を特殊ガラスで実現することです。例えば、人体に有害な放射線をさえぎるガラス、これは医療の現場でレントゲン撮影やCTスキャンの装置を操る技師さんの健康を守るために使われます。また、急に温度を上げても下げても割れないガラス、これはIHクッキングヒーターのトッププレートや公共施設が火事になった際にも割れずに安全に避難できる防火窓として使われています。当社は”こんなガラスがあったらいいな“という機能を生み出し、文明の産物の実現に寄与することを常に考えています。文明の進歩が求める機能は時代とともにどんどん変わっていきます。それを我々の開発したガラスが提供し、人々の生活を豊かにすることを目指しています。実際、普段の生活ではなかなか気づきづらいのですが、当社のガラスはあらゆる製品の、外からは見えないさまざまな部品に、いろんなかたちで使われています。つまり、皆さんが気付かないうちにほとんどの方が当社のガラスを”使っている“ことになると思います。」
SDGsにつながっているNEGの特殊ガラス
NEGのSDGsは、カーボンニュートラルやリサイクルなどの環境対策にとどまりません。世の中の様々なシーンで、当社のガラスが持続可能な社会の実現に貢献しています。いくつかの例についてご紹介しましょう。
軽量化によるエネルギー削減
例えば、自動車の軽量化にはガラス繊維で高機能樹脂を強化した複合材料(GFRP: Glass Fiber Rainforced Plastic)が貢献しています。金属部品をGFRPに置き換えることにより車体が軽量になり燃費が向上します。内燃機関自動車からのシフトが進んでいるEV(電気自動車)は、車体の重量が大きいことが課題になっています。EVのさらなる軽量化に対して今後ますますGFRPの役割が大きくなってゆくことが予想されます。
他にもディスプレイなどで使用されるガラスの強度を維持しながら薄くしていくことで、機器の外形寸法や重量を抑えることが可能となり、ユーザーの利便性を高めるだけでなく、物流コストや配送にかかるエネルギー削減にもつなげることが期待されています(超薄板ガラス)。
再生可能エネルギーの創出
創エネの分野でも、太陽光発電のパネルのカバーガラスや風力発電用のブレード(羽根車)にも当社のガラスが使われようとしています。
太陽光発電用のガラスでは特に軽量化が求められる人工衛星のソーラーパネルのカバーガラスとして、またペロブスカイト型太陽電池セルの基板ガラスとして当社の超薄板ガラスが用いられようとしています。風力発電用としては、風車ブレードの強化に用いられるガラス繊維も供給しています。ブレードにカーボン繊維を用いた場合、落雷による損傷や、風向きの急変によるねじれでブレードが折れるといったリスクがあります。ガラス繊維は電気絶縁性が高く、しなやかに伸びてくれる特性があるため、最大100mを超える風力発電用ブレードの強化にも適した素材といえます。
全固体ナトリウムイオン二次電池
また、生み出されたエネルギーを効率よく、安全に蓄電するものとして、正極、負極、固体電解質のすべてを当社独自の結晶化ガラス技術により構成し、これらを強固に一体化した「オール酸化物全固体ナトリウム(Na)イオン二次電池」を開発しています。すべての材料が「安定した酸化物」であるため、過酷な環境下(-40℃〜200℃)でも安定に作動し、発火や有毒ガス発生のリスクがありません。また、生産・まいぞうの片寄りが懸念されるLi(リチウム)を用いず、潤沢な供給が可能なNa(ナトリウム)による蓄電を実現した革新的な全固体二次電池です。
山崎 「NEGの企業理念は『ガラスの持つ無限の可能性を引き出し、モノづくりを通して、豊かな未来を切り拓きます。』としており、一般の方には全く計り知れないような機能をもつガラス製品をいろんな形で実現させることができるのがNEGの強みといえます」
SDGs達成に向け、新たな挑戦
今年、NEGは新たな中期経営計画“EGP2028”を策定し、将来にわたりSDGsの達成と持続的な成長を実現していくための新たな事業戦略として、人間が生きる上で基本的に必要となる「エネルギー」「環境」「医療」「食料」を今後注力していくべき事業分野に位置付け、カーボンニュートラルをはじめとするサステナビリティ戦略とともに、精力的な取り組みを推し進めています。
またNEGでは、「ガラスの無限の可能性を追求する」ために、新進気鋭の社員を集め、彼ら彼女らに「ガラスで何が出来ると思う?」と問い、革新的なアイデアを募る試みもされています。求められるのは『30年先にビジネスとして花開くもの』。未来を見据え、着実に歩みを進めています。
みなさんも、可能性に満ちた地球のサステナブル素材「ガラス」を使って、新しい可能性にチャレンジしてみませんか?
ガラスの歴史や利用用途、そしてとSDGsとの関係について詳しい解説や論文をNEGのWebサイト「ガラスについて語ろう」のこちらのリンクから読むことができますのでぜひご覧下さい。これまで知らなかったガラスの可能性に気づくことができると思いますよ。