変化する子ども食堂の存在意義、民間企業からの支援は必須のものに
日本電気硝子(以下、NEG)では、これまで様々な地域貢献活動を実施しています。コロナパンデミックをきっかけに地域のつながりの希薄化が懸念される中、滋賀県と滋賀県社会福祉協議会(以下、県社協)が協働ですすめる「子どもの笑顔はぐくみプロジェクト」に賛同し、新たに始めたのが子どもを真ん中においた地域づくり活動の1つである子ども食堂の支援です。関係者にお話を伺い、子ども食堂の現状と課題について考えます。
「孤食」から「共食」へ。広がる子ども食堂
子ども食堂は、2012年に東京都大田区にある八百屋の店主が、お店の一角で地域の子どもたちに低価格で食事の提供をスタートしたことが始まりと言われています。その後、全国に広がり、その数は全国の公立中学校数とならぶ9,000箇所以上に増えています。
その背景には、貧困問題だけでなく、虐待やネグレスト(育児放棄)、共働きやシングルの家庭の増加など、家庭内の様々な理由から家族と一緒にご飯を食べられない子どもが増えていることや、子ども食堂が子どもから大人まで参加できる開かれた場所であり、多世代が交流できる地域のみんなの居場所であるということがあります。
「孤食」から「共食」へ、様々な人と食事を共にするぬくもりのある場所を提供しようという思いから、子ども食堂は広がりをみせ、年間1,000万人以上の子ども達が子ども食堂を利用しています。
滋賀県では、子どもが自分で行ける距離にある小学校区に1つ以上、子ども食堂がある状態を目指し、県社協がすすめる「子どもの笑顔はぐくみプロジェクト(以下、はぐプロ)」※1を公私協働で展開、支援の輪を広げています。現在、県内には215箇所(2024年7月末)の「遊べる・学べる淡海子ども食堂(以下、淡海子ども食堂)」があり、みんなで囲むあったかいごはんや勉強、遊びを通して、子ども達が地域の中で大事にされていることを実感し、安心できる居場所をつくっています。
運営には地域住民や民間企業の協力が欠かせない
県社協の皆さんの話によると、子ども食堂の運営は、ボランティアグループ等の任意団体や、まちづくり協議会、自治会等の地域団体関係のグループが全体の約7割で、子ども食堂のために立ち上げたボランティアグループも多いといいます。開催は月1回のところが多く、子どもだけでも安全に参加できるように土日の昼間に開催されるところや、給食がない長期休暇中に集中的に開催されているところもあります。最近は、不登校の子ども達のために平日昼間に開催されるところも増えているとのこと。参加人数は10人程度のところから200人を超えるところまでその規模も様々とのこと。
ますます必要性の高まる子ども食堂ですが、運営を継続する上でいくつかの課題も挙げられています。地域によっては学校や住民からの理解や協力が得られにくい、来てほしい家庭に情報が届きにくいといった問題や、スタッフの確保、食事や怪我のリスク管理、会場の確保など、団体ごとに悩みも異なるため、県社協では「子ども食堂つながりネットワークSHIGA」※2を設立し、各子ども食堂の自主性を尊重しながら、研修会、交流会を通じて子ども食堂相互の交流や情報発信、地域間連携を図っています。また、各市町の社会福祉協議会においても、開設や運営への伴走支援を行っています。
子ども食堂を継続する上で最も大切な運営費については、「はぐプロ」を通じた企業・団体・個人からの寄付や、各市町の自治体・社会福祉協議会からの運営費補助、民間団体等が募集している助成金や参加費・協力金等によって調達しており、継続していくには地域住民や民間企業の協力が欠かせないといいます。
毎年、子ども食堂へ近江米と書籍を寄贈
NEGでは、令和3年から県内の子ども食堂への支援を始め、毎年、県社協を通じて、近江米1トンと書籍10セットを子ども食堂に寄贈しています。今年度の書籍の寄贈先である草津市内の「多文化子ども食堂」で行われた贈呈式に同行し、代表の喜久川さんにも話を伺うことができました。
「多文化子ども食堂」は、県内26番目の子ども食堂として2016年7月からスタート。開催場所はもともと、滋賀県で暮らす日系ブラジル人、ベトナム人などの外国人の方の相談業務を行っていた場所ということもあり、外国人、日本人、大人、子ども、シニア、障がいのある方など、誰もがほっとできる地域の居場所となっています。喜久川さんがつくる「ボスの特製カレー」が人気で、参加費は大人300円、中学生以下は100円となっています。
「始めた頃は周囲の理解を得にくい部分もありましたが、地域の小学校の校長先生から子ども食堂のチラシ配布の協力を申し出てもらえたことで一気に周知することができ、また、地域のお祭りに参加して、子ども食堂でつくるカレーを食べてもらうなどして、次第に地域に受け入れてもらえました」と喜久川さん。当初は月1回のみ、第4土曜の昼間の開催でしたが、子ども達のことを第一に考え、また毎週開催の要望もあったことから、今は毎週土曜日に開催しています。スタッフが足りない時はNPO団体やボランティアの大学生に来てもらい、昨年10月からは学習支援もスタート。外国籍の子どもたちに勉強を教えられるようにもなりました。
「ありがたいことに、企業や個人の方からも注目されるようになって、支援のお申し出が増えてきました。今年度はNEGさんから書籍の寄付を頂くことができ、本当に感謝しています。地域への恩返しのつもりで始めた子ども食堂ですが、利用者の親御さんから感謝の言葉を頂けたり、大きくなった子ども達が手伝いに来てくれたりするのがとても嬉しいですね」。
開始当初は色々と苦労されたという喜久川さんですが、地道かつ積極的な行動力で徐々に受け入れられ、「多文化子ども食堂」は今や地域に欠かせない子ども達の憩いの場となっています。
「子ども食堂フェスタ」でユニークな特殊ガラスを展示
そんな、子ども食堂の存在や意義を広く知ってもらい、子どもや大人、子ども食堂と企業・団体など様々な人が交流しつながり合う機会として、県社協では、「はぐプロ」の一環で「子ども食堂フェスタ」を毎年開催しています。
「子どもを真ん中においた地域づくり」のために
NEGは2021年から毎年参加し、「遊び・体験コーナー」に様々な体験ができるユニークな特殊ガラスを展示。鋼球を落下させても割れない化学強化ガラスや、超薄板ガラスの曲げ体験、宝飾ガラスで作製されたティアラ、見えないガラス®など、ガラスが社会の様々な場所で役立つとてもユニークな素材であることを知ってもらい、子どもたちに学習意欲を高めてもらえればと考えています。昨年7月に開催された「子ども食堂フェスタ」では、約350名が参加し賑わいました。
「NEGさんの展示コーナーはとても人気があって、子ども達も楽しそうにしていました。『子ども食堂フェスタ』は、地元の企業を知ってもらえるチャンスでもありますし、イベントに参加された社員の皆さんや参加者の皆さんには、ぜひ自分の住む地域の子ども食堂に行ってみて欲しいです。そういうきっかけにもなれば嬉しいですし、今後も子ども食堂等の活動について積極的に発信していきたいです」と三宮さん。
桒野さんは「子どもを真ん中においた地域づくり」のために、まずは地域の大人の皆さんに子ども食堂の存在意義を知ってもらいたいと言います。
「自分の暮らす地域にそのような場所があり、頑張っている人がいることを知って、自分のできる範囲で何か応援をしてもらいたい。NEGさんは、福祉に対しての人づくりを担う協力者であると感じています。できる限り活動を継続してもらって、今後も支援の輪を広げていっていただきたいです」。
「子どもが過ごしやすい地域は、誰にとっても過ごしやすい地域、やさしい社会だと思います。福祉は一人ひとりの普段の暮らしの幸せを皆で考え共に創っていく営みであり、暮らしのすべてが福祉につながっていると感じています。どうしたらみんなが幸せになっていけるかをベースに考えると、一人ひとりがやるべきことが見えてくるのではないかと思います。」と最後に熱く語ってくれたのは浅香さん。
NEGでは今後も滋賀県や県社協との対話を続け、子ども達の明るい未来を目指し、より効果的な活動を共にしていければと考えています。