障害者雇用、法定雇用率の2倍を目指す
日本電気硝子(以下、NEG)グループの中でも異彩を放つ存在と言えば、障害者雇用の特例子会社である「電気硝子ユニバーサポート株式会社」(以下、ユニバーサポート)が挙げられます。2024年6月1日現在の従業員数は174名、そのうちの実に約41%に当たる72名が障害者です。彼らはNEGグループが持つ3つの事業場で健常者の従業員と一緒に働いています。今回はユニバーサポートの代表取締役専務 千坂 貴さん、業務本部長 鹿城 和彦さん、障害者雇用統括部長 中﨑 法子さんに話を伺い、同社の目指す障害者雇用を通じた地域貢献の姿についてレポートします。
製造業の現場で障害者が即戦力になれる仕事とは?
ユニバーサポートの従業員になった障害者は、一体どんな業務に従事しているのか…。読者が一番気になるのはそこではないしょうか。千坂さんは次のように語ります。
千坂「一番大きな職域は清掃業務です。人数も一番多く配属されています。工場のトイレや食堂、会議室、各部署の通路などの清掃を請け負っています。以前は外注していたワックス掛けも最近になって担うようになりました。また、製造現場で使用している従業員の作業服や無塵衣の洗濯も引き受けています」
清掃業務以外では、工場内の緑化も委託業務の1つです。構内や周辺の緑化作業のほか、3カ所の事業所がそれぞれ管理しているビニールハウスで花苗を育成し、地域の小中学校、幼稚園・保育園などにも地域貢献の観点で無償配布しています。ビニールハウスは高月事業所のものが最も大きく、そこではマリーゴールドやパンジー、サルビアなど、3万株を育成。応接室や役員室に飾る観葉植物のレンタルなども行っています。
このほか、工場内で使う軍手や保養所のシーツの縫製、社内メール便の運搬、環境プラントの水質管理・騒音や粉塵の測定、廃棄物の運搬処理、印刷業務や紙書類・ポジフィルムの電子化なども請け負っています。また、近年、構内や駐車場の白線引きも始めるなど、業務は多岐にわたります。
千坂「採用時には出身学校の選択授業で何を選択されているかなどを確認して、当社の作業内容とマッチングします。園芸や縫製などの科目を選択している方は、土の手入れや花や苗の植え方、ミシンの扱い方などに慣れているので即戦力になります」
採用の際には丁寧に仕事をしてくれる人かどうかを重視するそうです。
NEGグループ内の困りごとを発掘し、障害者が即戦力にもなる仕事に昇華する
事務仕事もさまざまあります。例えば、紙の書類やポジフィルムの電子化です。仕事の内容は、スキャナーで書類やポジフィルムをスキャンしてデジタル化し、書類ならPDF、フィルムなら画像データにして規則正しく名前を付けて保存するというもの。
ポジフィルムの電子化はNEGの総務部広報グループがユニバーサポートに依頼している仕事です。実はNEG広報グループの資料室には、デジカメがなかったころに撮影した会社や製品に関連する写真がポジフィルムの形で何万枚も保管されています。これらは貴重な資産で古くなったからと言って簡単には処分できません。デジタル化して保存する必要があります。
しかし、その業務は重要度が高いものの緊急性は低く、広報グループでは「いつかデジタル化しなきゃいけない」と分かっていながら、緊急性の高い業務を優先してなかなか手が付けられずにいました。外部委託するにも社外秘の情報もあり、予算の都合もあって難しかったのです。
NEG広報グループ「以前、ユニバーサポートに依頼できる仕事がないかという話が、NEGグループのコミュニケーションの中で出て、そういえばポジフィルムの電子化はお願いできるのではないかと考えました」
鹿城「障害者は健常者が飽きて手を抜いてしまいがちな根気の必要な仕事を、気分よく真面目にやってくれる人が多いのです。与えられた仕事を楽しむ傾向が強く、ともすると時間を忘れていつまでもやってしまうことさえあります」
こうして紙の書類やフィルムの電子化作業は、ユニバーサポートの障害者が社内の課題解決に貢献できた好例の1つになりました。
法定雇用率の2倍を目指す
近年、世界的な潮流となっているSDGsは17の目標を掲げ、その中には障害者の雇用創出やバリアフリーなどの環境整備に関する内容が含まれます。ユニバーサポートはSDGsという言葉が生まれる遥か以前、1980年に全国で6番目の特例子会社として設立されました。
日本の障害者雇用にまつわる法整備は歴史が古く、1960年に「障害者の雇用の促進等に関する法律(身体障害者雇用促進法)」が成立。このとき障害者法定雇用率は企業の努力義務でした。しかし、1976年には法改正により、法定雇用率は達成すべき義務として強制力を持つようになります。民間企業の法定雇用率は当初1.5%と定められました。その後、段階的に引き上げられ、2024年現在は2.5%になっています。
NEGはこのような社会的背景の中、前述のとおり1980年に特例子会社として電気硝子興産㈱(ユニバーサポートの前身)を設立しました。特例子会社は厚生労働大臣の認可を受けて、親会社の一事業所として障害者雇用率を算定できる日本特有の企業形態です。以来、ユニバーサポートは法定雇用率を大幅に上回る社員採用を続けてきました。以前は中途採用が多かったものの、近年は特別支援学校からの新卒採用を増やし、障害を持つ社員の若返りも進めています。
千坂「NEGグループの障害者雇用率は現在4.0%前後で推移しています。グループが目標として掲げているのは4.6%なのでもう少し頑張る必要があります。この4.6%という数字がどこから出てきたかと言うと、2024年3月末までの法定雇用率2.3%の「2倍」を目指そうというものです。現在の法定雇用率は2.5%で、その「2倍」となると5.0%なのですが、先に掲げた4.6%が達成できない内に5.0%を掲げるのは、目標達成に難があるとして、まずは4.6%をクリアしようと努力しています」
ユニバーサポートが法定雇用率の2倍という高い目標を目指すのには明確な理由があります。まず、障害者雇用は40年以上にわたる歴史があり、NEGグループのCSRの中でも特に誇れる分野だということです。そこで、この長年の経験と実績に恥じない意欲的な目標を立てようということになりました。さらに、近年、国がSDGsの施策を積極的に推進しています。社会の一員として、この重要な流れに遅れることなく貢献したいという思いがありました。これらを考慮し、法定雇用率の2倍という具体的かつ挑戦的な目標を設定することになりました。この目標は、NEGグループの障害者雇用に対する自負を表すとともに、持続可能な社会の実現に向けた決意を示すものです。
千坂「当社はNEGグループが果たす社会的使命の中の、いわゆるダイバーシティに関わる障害者雇用を一手に引き受け、グループ全体の企業価値の向上に努めています。国内で精神疾患の方が増えている情勢もあり、法定雇用率が引き上げられるなど、社会的要請も高まってきています。当社がこれらに積極的に対応していくことで、地域の皆さんを含む全てのステークホルダーの方々に安心感を与えられるのではないかと考えています」
業務や社会貢献を通じて障害者が成長や自信を得ていく環境作り
ユニバーサポートが障害者雇用を通じて推進する「地域や社会への貢献」とはどのようなものでしょうか。
たとえば、冒頭でも触れた花苗の寄贈は、地域の小中学校、保育園・幼稚園、特別支援学校、自治会などに無償で提供しているほか、NEGの高月事業場内にあるメモリアルパークに幼稚園児などを迎えた際のお土産としてプレゼントしています。後日、子どもたちからお礼の手紙が届くこともあり、とても励みになっているそうです。
また、年に3~4回ほど地域の特別支援学校などの依頼を受け、「社会人としての心構え」などをテーマに講演を行っています。その際、その学校の卒業生も先輩社員として同行し、大勢の前で近況報告しています。
鹿城「障害者の先輩社員が多くの聴衆の前で自己紹介と業務内容の説明をすることで、在校時の担任の先生方が非常に喜んでくださいます。本人にとっても、何人もの前に出て講演できたこと、恩師の喜ぶ姿を見られたことが自信とやり甲斐につながっています」
滋賀県が毎年7月の「びわ湖の日」前後に実施している「琵琶湖市民清掃」にも参加しています(2024年は6月30日に実施)。琵琶湖、湖岸、河川、道路、公園などの公共的な場所を清掃する催しで、担当するエリアの清掃を行っています。
鹿城「花苗の寄贈などで一人ひとりの社員が地域や社会に貢献していることはもちろんですが、当社が企業として障害者を後援することが、どんな地域貢献につながっているのかと考えたとき、一番に挙げられるのは地域の障害者の安定雇用だと思っています。当社は障害者の方を採用する際、有期雇用や非正規雇用ではなく、全て無期雇用の正社員として迎え入れています。障害を持つ社員は2024年6月1日の外部公表値で72名にのぼります。これだけの数の障害者を社員として受け入れるには、地域の特別支援学校やハローワーク、支援機関の理解や協力が欠かせません」
また、地域の他企業との交流も図っています。例えば、障害者雇用に積極的な県内の製薬系企業の特例子会社と互いのクリーニング部隊が訪問しあって障害者雇用のノウハウや知見、課題解決のヒントを共有し、障害者雇用の推進に役立てています。
「誰もが働き続けたい会社」となるための数々の取り組み
雇用した社員がすぐに離職すれば雇用率は上がらず、新人ばかりでベテランの育たない現場になってしまうのは、健常者も障害者も変わりません。
ユニバーサポートでは誰もが働き続けたい会社を目指して、チームワークの強化やコミュニケーションの促進に取り組んでいます。
2015年10月にジョブサポーター制度を設け、2018年にはユースエール認定制度の認定を取得、2020年には障害者雇用統括部を設置、2021年には後ほど詳しく説明するジョブサポーターキャリアアップ制度を導入、また並行して障害者の職域拡大を推進するなど、この10年ほどの間に急速に改革を進めてきました。
その中核を担ったのが、中﨑さんが部長を務める障害者雇用統括部です。それまでは障害者雇用統括部の業務は、ユニバーサポート社内の業務部の中の1つのグループが担当していました。法定雇用率が段階的に引き上げられるなか、NEGのグループ全体でしっかりと障害者雇用に取り組もうという機運の高まりを受け、専門部署として業務部から独立したのです。
障害者雇用統括部は、障害者の通院休暇、社外活動特別休暇、短時間勤務制度といった制度面の整備を主導。職場定着とチームワークの促進のため、アセスメントシートを使った3カ月に1回の面接などの比較的堅い内容から、「さん付け運動・あいさつ運動・ありがとう表彰」といった堅さをほぐす施策まで、さまざまな社内活動にも取り組みました。
「さん付け運動」は、部長や課長といった肩書で呼びかけるのではなく名前にさん付けして呼び合うことで、仕事が身近な関係性で円滑に進むことを狙ったもの。「あいさつ運動」は、毎日自分から率先して挨拶するようにという取り組みで、「ありがとう表彰」は従業員同士で気遣いやサポートをしてくれた人、あるいは誰もが嫌がる仕事を率先してやってくれた人などを、職場のメンバーの投票で選んで毎月表彰する制度です。これらは健常者と障害者に関係ない社内のコミュニケーション促進の一貫と言えるでしょう。
残業ゼロへの取り組みや、安全確保や作業指示の掲示などの「業務の見える化」も同様です。会社の共済会が主催する懇親会や慰安旅行、ボウリング大会なども定期的に実施してチームワークが養われるよう工夫しています。
一方、障害者に配慮した社内活動では、聴覚障害者への対応として手話勉強会を催したり、会話を音声認識と自動翻訳でリアルタイムに文字化するスマホアプリを採用したりといった事例が挙げられます。
中﨑「当社は障害者雇用を掲げる会社なので社内全体で社風や働き方をセンシティブに考えていく必要があります。毎月残業の実績を定例会議で報告することになっており、完全にゼロにはできていないもののかなり低いレベルまで抑えることができています」
今後の発展の鍵を握るジョブサポーターのキャリアアップ制度
障害者雇用統括部が主導した制度改革の中でも特に注目したいのが、先ほど少し触れたジョブサポーターのキャリアアップ制度です。ジョブサポーターは障害者の技能面や運営面を、キャリアを積んだ別の障害者が指導する社内資格(制度)です。指導する側が同じ障害者であるため相談しやすく、風通しが良いとのことからとてもスムーズに導入できました。
2015年に初めてこの制度を導入したときはある程度能力の高いメンバーを全社で8名選び出して、ジョブサポーターに認定しました。健常者のサポーターの補助から始まり、障害特性に合わせた指導方法をアドバイスするなど通常よりも込み入った相談にも応じられるようになっていきました。
「ジョブサポーターキャリアアップ制度」は、各地区でのジョブサポーターの位置づけを明確にし、成果が処遇に結びつくように評価を定量化して判定しようという目的で2021年4月に導入しました。年に1回、全社横断で定量化された獲得点数でジョブサポーターのグレードを決定する仕組みに改めたのです。チームリーダーが代表となって各地区のジョブサポーターを8つの判定項目で評価し、障害者雇用統括部の会議で検討して決定します。
判定項目は下記8項目となっています。
このうちの1つだけ秀でているのもそれはそれで素晴らしい存在です。しかし、他の障害者のメンバーが「この人なら頼れる」と思えるのは、これらの複数の要素をバランス良く兼ね備えている人物だと考えました。
ジョブサポーターはそれまでは同じ「ワッペン」を付けていましたが、キャリアアップ制度導入後は「バッジ」に仕様変更し、認定初回は無印のバッジから始まり、ランクアップするごとに1本線、2本線、3本線と線を増やしていくようにしました。(4段階)
ランクは一年間継続し、翌年再び審査されます。そこでさらにランクアップする人もいれば、残念ながらダウンする人もいます。厳しい措置にも感じますが、他の障害者の従業員から頼られる印であるため、判定はシビアにしなければ意味がありません。それだけに、ランクアップした従業員にとってはステータスとなり、特別感が増してやる気と責任感が高まります。他の障害者の従業員が目指すべきロールモデルとして位置付けられるようにもなりました。
ちなみに3本線を3年連続でキープすると、ジョブサポーターを卒業し、「ジョブマイスター」という更に上のランクから業務を見ることになります。現在、ジョブマイスターは全社で1名のみ。それだけ本当に頼れる人物なのだと周囲が認める存在と言えるでしょう。
中﨑「ジョブサポーター制度はまだまだ完成形ではありません。たとえば一口に障害者と言っても障害にはさまざまな種類があり、また障害の程度や特性もあるため、定量化して評価するにはセンシティブな側面がどうしても残ります。そこをどうやってクリアしていくかは今後の課題だと考えています」
障害者雇用という社会貢献で光り輝き続ける企業を目指す
ユニバーサポートのWebサイトでは企業理念が掲げられており、そこでは「和」の精神をモットーに、各従業員が能力・体力を精一杯発揮しながら社会の発展に貢献していきたいと書かれています。特に「障害者雇用という社会貢献に果敢にチャレンジするユニークな会社として常に光り輝き続けていきたい」の文言には心惹かれるものを感じました。
障害者雇用に40年以上も取り組み、法定雇用率の倍に迫る数字を実現しながら、数字を追うだけではなく、障害者自身の努力と成長を促し、社会や地域への貢献も考えていく。たゆまぬ努力を続ける同社のチャレンジ精神に共感する人も多いのではないでしょうか。
ユニバーサポートではやる気のある障害者の採用はもちろん、地域の特別支援学校や支援機関、障害者雇用のノウハウを共有できる企業等との連携を積極的に推進しています。ご興味やご関心のある方は、ぜひ下記までお問い合わせ下さい。
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