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滋賀の森林が抱える不法投棄問題‐J-クレジット購入を通じて見えてきたものとは‐

滋賀県大津市に本社を置き、琵琶湖の周辺に複数の製造拠点を持つ日本電気硝子(以下、NEG)では、環境保全と地域貢献をCSR活動の最重点課題に位置付け、「地域社会とともに発展していくこと」を目指して様々な取り組みを行っています。

NEGでは、2018年からJ-クレジット(★参照)購入を開始して以来、地域に根ざした地域貢献や環境保全活動ができないか考えてきました。2024年には、J-クレジット購入を通じた地域の方々との交流から林道環境美化活動(通称:クリーン作戦)に参加しました。環境を守り、地域に喜ばれ、地域とともに発展するためにできることはなにか? この記事では、会社としての取り組みだけに留まらず、参加者がこの活動を通じて気づいたことを含めてご紹介します。

J-クレジット(★)とは、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度です。本制度により創出されたクレジットは、企業のカーボン・オフセットなど、様々な用途に活用できます。

森林を守ることは琵琶湖を守ること

森林を守ることが、琵琶湖の水を守ることにつながります

滋賀県と言えば多くの人が琵琶湖を思い浮かべるでしょう。琵琶湖の水は、滋賀に生きる私たちの暮らしに欠かすことのできないものであり、1,450万人以上もの人々が使っていると言われている琵琶湖の水を途切れさせることなく良い水質に保つには、県土の半分を占める森林を守らなければいけません。

森林は琵琶湖の水を育む水源かん養機能などの様々な役割を果たすことから、「植える→育てる→使う→植える」の循環利用が不可欠です。木を育てても使わずに放置すれば、森林は荒れてしまいます。そこで行われる森林保全の代表的な取り組みが、一本一本の木を大きく育てるために成長した木々を間引く「間伐」です。また、最近では国の推奨により、一定範囲の木々をすべて伐採する「皆伐(かいばつ)」も増えています。間伐は木をより大きな木にして維持させること、皆伐は次の50年、60年先の新しい森を創ることを目的としています。また、伐採した跡地に、新しい苗を植え、森林を更新、若い木が増えることで、CO2吸収量と酸素生成量が多くなります。

J-クレジットの購入を通じて森林保全に貢献

J-クレジット制度をはじめとする森林保全についてお話を伺った、金勝生産森林組合の組合長理事 澤 幸司さん

日本は国土の66%が森林ですが、木材自給率は40.7%(2022年)にとどまり、大半を輸入木材に頼る状況。木材価格の低迷、就業者の高齢化・減少・後継者不足などの問題も抱えており、森林経営は厳しい状況が続いています。J-クレジット制度は、CO2排出を削減したい企業が排出量に応じた権利を購入することで、森林経営における森林保全や運営の安定的かつ新たな収入源をもたらすものとして期待されています。

NEGは、滋賀県に本社を置き、琵琶湖の周辺に複数の製造拠点を持つメーカーとして、環境保全と地域貢献をCSR活動の最重点課題に位置付けています。2018年から栗東市の金勝(こんぜ)生産森林組合※1、2021年からは滋賀県造林公社が発行するJ-クレジットを、それぞれ毎年50トン(50万円分)購入しており、クレジット売買による収益は地元の森林保全に役立てられています。金勝生産森林組合は2017 年に滋賀県で初めて国からJ-クレジットの認証を受け、6年間で1,600トンのCO₂吸収量(所有林の約480ヘクタールの森林のうち80ヘクタールにあたる)を創出し、これまでに1,400トンを販売しています。※2024年3月取材当時。

※1 金勝(こんぜ)生産森林組合
栗東市の44%を占める森林の保全と、先進的かつ持続可能な林業経営をめざし、1982年に設立された森林組合。 2011年にはSGEC森林認証取得(滋賀県初)、2017年にはJ-クレジットを創出(滋賀県初)し、企業等のカーボンオフセットに寄与しています。「栗東きょうどう夢の森プロジェクト」に参画し、管内に立木を利用したアウトドアパーク「フォレストアドベンチャー」を誘致するなど、森林の付加価値を高めるために数々の取り組みにチャレンジしています。

クリーン作戦にボランティア参加!

クリーン作戦に参加するNEG社員

今回、金勝生産森林組合 組合長理事の澤さんにお話を伺うなかで、滋賀県の森林が抱える課題も見えてきました。そのひとつが「不法投棄」問題です。

産業廃棄物や大型ゴミの廃棄には費用がかかることから、誰も見ていない林道沿いへ捨てていく不法投棄が後を絶ちません。金勝の山で林道周辺に大量のゴミが捨てられていることから、金勝生産森林組合では年に一度、3月に「林道環境美化活動(通称クリーン作戦)」を実施しています。

不法投棄は、土壌汚染や水質汚濁などの環境面の影響はもちろん、原状回復費用などの経済的損失をもたらし、周辺の地域コミュニティも破壊するなど、社会的な影響も極めて大きい問題です。決して許される行為ではなく、このような状況を何とかしたいとの思いから、2024年度は、NEGから5名の社員がクリーン作戦にボランティア参加しました。

不法投棄を許すまじ!山の悲しい実態

当日は山に薄っすらと雪が積もり、時折、雪が舞うという悪天候の中での回収分別作業でしたが、金勝の山を愛する総勢53名の参加者により、2トン車2台分、軽トラック7台分のゴミを回収できました。

――どのようなものが捨てられていたのか?
「クリーン作戦と聞いて参加したが、通常のゴミ拾いよりもはるかに大変な作業で印象的だった。家庭ゴミは少なく、建築廃材や冷蔵庫、バイク、引っ越しの際の粗大ゴミなどが多く、たまたま捨てたのではなく、故意に捨てに来ているように感じた」

――クリーン作戦への参加で感じたことは?
「捨てる時にお金がかかるものなので、投棄した人達は捨てれば捨てるだけ儲かる(利益が残る)という発想で捨てられるという森林組合の方の話が心に刺さった」
NEGもJ-クレジットを通じて森林組合とやりとりをしているが、森林組合が普段どのような活動をしているのかを知っている人は少ない。滋賀にはこのような活動をしている人々が存在し、その人々の活動によって滋賀の面積の半分を占める森林が守られ、維持されていることを実感した。その活動を妨げている林道への不法投棄に対して、今回の参加が少しでも貢献できたのなら嬉しい」

今回、クリーン作戦に参加した社員からこのような感想が得られました。

集められた粗大ゴミ

不法投棄が起こりやすい環境は「道路沿いに車を停めるスペースがある」「道路脇が急傾斜になっている」「雑草や草木が生い茂って見通しが悪い」「既にゴミが捨てられている」といった場所に多く、立て看板などを設置して警告するとともに、捨てられたゴミの早急な撤去、定期的な見回りなど、不法投棄をしにくい環境を作ることが重要です。

企業も住民も“じぶんごと”として捉えてほしい!

まずは森林の現状を知ってもらい、関心を持ってもらうことが大切、と澤組合長理事

「まずはこの山の現状を皆さんに知ってもらい、森林に興味を持ち、愛着を持ってもらうことが大切。栗東市には道の駅や宿泊研修施設のある『こんぜの里』、大人から子供まで楽しめるアウトドアパーク『フォレストアドベンチャー』などもあり、若い世代に森林の魅力を知ってもらうPRにも力を入れています。J-クレジット制度の最終目的も、社会、企業、地域住民が環境保全について関心を持ち、SDGsを“じぶんごと”として捉え行動するきっかけを作ることにあると考えています」と澤組合長理事は語ります。

NEGでは、リサイクルが難しいガラス繊維の製造工程で生じた端材なども全て原料として再利用するなど、環境にやさしいモノづくりを目指した取り組みにも力を入れています。循環型社会の実現には、廃棄物に関わる諸問題を解決する必要があることから、今後もJ-クレジットの購入という資金面での関わりだけでなく、持続可能な地域づくりのお役に立てる活動ができればと考えています。


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