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国内メーカー初。折りたたみスマホに”日本製”の超薄板ガラスが採用

折りたたみスマホの出荷台数は増加傾向

スマートフォン(スマホ)のデザインと言えば、一枚板の形状が一般的です。しかしここ数年、変化の兆しが見えています。かつてフィーチャーフォン(俗称:ガラケー)ではよく見かけた、折りたたみ式がスマホでも普及してきています。MM総研は国内における折りたたみスマホの出荷台数が、2028年度には2023年度比で約8倍の181万台になるとの予測を発表しています。折りたたみ式スマホを手に取っているのは、ガラケー時代に折りたたみ式に慣れていた40代以上や、高い技術に興味を持つ若年層が中心です。

ディスプレイは樹脂からガラスへ

その折りたたみスマホの普及に弾みをつけてるのが、ディスプレイカバーのガラス化です。これまで折りたたみ式スマホは、ディスプレイのカバーに透明のポリイミド(PI)と呼ばれる樹脂が使われていました。樹脂は曲げには強いものの、傷がつきやすかったり使っているうちに画面が変色して画面のクリアさを失ったりする課題がありました。ガラス化により、折り曲げ部分に跡が残らず、ガラス特有の高級感のあるクリアで透明なディスプレイが実現します。

しかし、残念ながら市場に出回る折りたたみスマホに使用されるディスプレイのカバーガラスのほとんどが海外メーカー製です。

モトローラの折りたたみスマホ「razr 50」の開閉
モトローラの折りたたみスマホ「razr 50」の開閉

国内メーカーとして初めて日本電気硝子製ガラスが採用

今回、モトローラから折りたたみスマホのフラグシップモデル「razr 50 シリーズ」が登場し、メインディスプレイのディスプレイカバーに日本電気硝子(略称:"NEG")※製の化学強化専用超薄板ガラス「Dinorex UTG®」が採用されました。欧米勢が市場シェアを主導する中、折りたたみスマホのディスプレイカバーに国内メーカーのガラスが採用されるのは初めてです。
※日本電気硝子は、テレビのディスプレイ用ガラスで世界シェア20%超を誇る特殊ガラスメーカーです。

razr 50シリーズは2つに折りたたむことができる6.9インチ pOLEDディスプレイを採用。豊かな色彩表現と高いコントラストを持ち、リフレッシュレートは120Hzに対応します。この高品質なディスプレイのカバーガラスに、海外の大手ガラスメーカーを抑え、NEGのガラスが採用されたのは何故でしょうか。他社にはないNEG製のガラスの優位性を探ります。


なぜガラスが曲がるのか? 割れないのか?

化学強化(専用)ガラスとは

従来からスマホのディスプレイカバーガラスには、厚さ0.5mmや0.7mm程度の化学強化専用ガラスが用いられてきました。液晶や有機ELディスプレイ画面を傷や衝撃から保護する重要な部品です。
化学強化専用ガラスは、ガラスに特殊な化学処理※を行いガラス表面を強化したガラスです。一般的なガラスに比べると、5倍以上の強度を持っています。

ハンマーで叩いても割れない化学強化専用ガラスDinorex®

※化学強化専用ガラスの化学処理:ナトリウムイオン(Na+)を含んだガラスを、カリウムイオン(K+)を含む硝酸カリウム溶液に浸すことで、ガラスの表層部にあるNa+が、溶液中のより径の大きなK+と置き換わります(これを「イオン交換」と呼びます)。
その結果、外部の衝撃や力により、ガラス表面の割れ目(クラック)を広げようとする力(引っ張り応力)がかかっても、逆方向に表面を圧縮しようとする力が発生することで、力が相殺されるためクラックが進行しにくくなり、その結果割れにくくなります。
詳細はDinorex®(化学強化専用ガラス)の製品ページをご覧ください。

化学強化(専用)ガラスを薄くすることで「曲げ」を実現

折りたたみスマートフォンの開発において、技術的課題の一つが「折りたためるディスプレイ」の実現でした。従来の化学強化専用ガラスでは折り曲げると割れてしまうため、これまでは樹脂が使用されてきました。
ガラスが薄いほど折り曲げに対する耐性が高くなるという特性は以前から知られていましたが、実用化には多くの技術的課題がありました。NEGは、この特性を活かした製品開発を目指し、20年以上前から曲がるガラス=超薄板ガラスの研究開発を進めてきました。

フィルムの様な薄さのNEGの超薄板ガラス

長年の技術開発の結果、市場が求める板厚0.035㎜(35μm)の安定量産化に成功。A4コピー用紙の厚みが約0.1㎜ですので、それよりも半分以下の薄さです。2020年7月には世界最薄となる0.025㎜(25μm)の超薄板ガラスの開発にも成功しています。「Dinorex UTG®」と名付けられたこの新素材は、傷や衝撃に強い特性に加え、薄くて曲がる特性を持っています。

製品名の「Dinorex®」は、2014年に開発された技術がベースとなっています。恐竜を意味する「Dinosaur」と、ラテン語で王を表す「Rex」を組み合わせた造語で、ティラノサウルスの強さと頑丈さをイメージして命名されました。Dinorex UTG®は、従来のDinorex®で確立された化学処理技術を活かしながら、表面の平坦性と板厚の均一性を向上させ、優れた曲げ特性を実現したモデルとして位置づけられています。

Dinorex UTG®は直径3mm(半径1.5mm)以下に曲げても、割れたり跡が残ったりしません。

高い平坦性が高精細ディスプレイを支える

海外のガラスメーカーも、Dinorex UTG®と類似した超薄板ガラスを製造しています。しかし、NEGではオーバーフロー技術を用いた「ダイレクト成形」により、化学処理工程を挟まずに超薄板ガラスを成形できる点で、平坦性や環境負荷軽減、コスト面で優位性があります。

オーバーフロー技術によるダイレクト成形(矢印はガラス成形の流れ)

一般的な製造工程ではスリミングと呼ばれる後加工を施しています。これは例えば70μmの少し厚めのガラスを作り、それを薬液による化学処理で30μmまで削るといった工程です。スリミングにはガラスを均一に溶かす薬液を用いますが、この薬液には環境負荷物質も含まれています。ダイレクト成形はその名のとおり溶けたガラスをダイレクトに薄い板へ成形します。そのため後工程に必要な時間や費用を抑えられ、薬液の削減による環境負荷物質の低減にも貢献できます。

ダイレクトに成形されたガラスは、表面の平坦性が高いことが特長です。平坦性とは、凹凸や反り、うねり、歪みが少なく、表面が均一であることを指します。平坦性が不足していると、スマートフォンのような高精細な小型ディスプレイの製造工程において、表示層の塗布が不均一になり、最終的な表示品質が低下してしまいます。特に、小さな画素が集まって形成される高精細ディスプレイでは、表面にわずかな凹凸があるだけでも、表示画像の品質に悪影響を及ぼします。そのため、ディスプレイ装置において、表面の平坦性は非常に重要な要素です。

MADE IN JAPANの超薄板ガラスの拡販を図る

Dinorex UTG®は硬くて壊れやすいという従来のガラスのイメージをくつがえす、「しなやかさと強度をあわせ持つガラス」であり、曲げ強度の強さや環境にも配慮した点が評価されています。その優れた特性からフォルダブルディスプレイのみならず、スピーカーの振動板に採用されるなど、幅広い分野での応用が期待されています。モバイルデバイス分野はもちろん、その他の用途への展開も見込まれています。今後の日本メーカーのNEGが開発したMADE IN JAPANの超薄板ガラス「Dinorex UTG®」の活躍にご期待ください。


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