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正常な無呼吸

合言葉ふたりで決めて手放した 片方だけじゃ意味がなかった

ハウリングしちゃって笑って壇上でごめんなさいっておどけた記憶

脳みその捏造ばかり上手くなるわたしは自分を信じられない

飼い犬のしまい忘れたベロのこと 美しかった夕立のこと

発言はやめておきます群青の異臭を放つ朗らかな人

パパラッチみたいなことをしてんなよ三白眼で花はほほえむ

あなたなら大丈夫って言わないで誰かの善意がずっと重たい

こわいのは無自覚の嘘 知らぬ間に友達だってことになってる

生きづらいことを隠して生きている たぶんもうすぐ爪が剥がれる

電源がつかなくなったガラケーの待ち受け画面はなんだったっけ

カーナビのイントネーション エモーション カーネーションのインビテーション

ジャガイモの芽をとる こんなに深いのにごめんね、誰も悪くないんだ

肯定してほしいんでしょう、してあげる(ジジジ)蛍光灯が切れそう

調音の練習 今の音はミのフラットでレのシャープではない

ちょうどいい熱量の中あの人がすこし悲しく笑うのが好き

オゾン層壊し終えたら電話して星占いの続きが見たい

時効って言えばなんでも許されるわけないのにね 溶けた感情

丁寧な自分を装うことですら息苦しくて水が飲めない

あといくつ心をなくせばいいですかぬるい湯船にあやまってくれ

エトセトラわたしの代わりはいくらでもいるからお腹が空くんでしょうか

優しさに飼いならされてポテトフライ最後のひとつを誰も食べない

窓ガラス突き破ってよ今君が迎えに来たらよろこんで死ぬ

本棚の隙間に隠した筋書きに君の不在がありありとある

ひらがなで「たおる」って書く 漢字では「手折る」と書くと父に学んだ

白昼夢 ラジオみたいな恋人がいたとき読んだ本のあとがき

永遠に色があるなら青がいい 暗闇よりもやさしい青が

絆創膏いつも貼ってた親指の付け根のやわさ、思い出したい

取り戻す日々の途中でどうしても取り戻せない君を思った

なぞるたび濃くなる傷を抱きしめる またね、忘れたころに会おうね

目玉焼きのせた食パン頬張って今日も泣かない人になります


2019/5 短歌研究新人賞応募作・佳作(5首掲載)


#tanka #連作

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