anthem
HIP-HOPが苦手だった。
ラッパーなんて全員ヤンキーだと思っていた。
トラックを流してループさせるだけのなにが楽しいんだと思っていた。
自分とは一生交わることなんてないと思っていた。
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弾き語り系シンガーソングライターとしての活動を始めたばかりの頃、対バンのロックバンドの存在はサバンナにおける肉食獣に等しかった。
音量も物量もステージ上での華やかさもこちらより数段上手。千葉から出てきた地味な弾き語りアーティストの自分はさながら草食動物で、いつも彼らロックバンドの連中に捕食される側だった。
ただ彼らはバンドという繊細な人間関係の中で常に気を揉んでいる者も多かったため、我々弾き語り系アーティストのような日陰者にも「いやー歌痺れました」と話しかけてくれるような朗らかな社交性を往々にして持ち合わせていた。
もちろん社交辞令だった部分もあるかもしれないが当時はそれで随分と救われたし、実際に現場を重ねるごとに仲の良いバンドマンの友達も増えていった。
ただし、ラッパーの連中は別だった。
ライブハウスの現場で、しばしばラッパーおよびヒップホップのグループと対バンが組まれることがあった。
彼らは常にこちらを寄せ付けないオーラを放っており、楽屋でもなかなか目を合わせてくれないし、仮に話しかけても「…ウス」しか言わないし、ライブのMCもなんかぶっきらぼうだし、こちらのステージなんか当たり前だけど見てないし、申し訳ないけど好きになれる要素がひとつもなかった。
いつもなるべく関わり合いにならないように、そそくさとアコギを抱えてライブハウスを出ていた。あんなのとつるむようになったらおしまいだとも思っていた。
一度、なんの気の迷いか中目黒solfaのオールナイトイベントにシンガーソングライターとして一人だけブッキングされたときは本当に地獄だった。こちらの演奏中は客と演者(ラッパー)の雑談タイムと化し、渾身のパフォーマンスは体のいいBGMとなった。
自分の出番が終わってすぐにクラブを逃げ出した。深夜なので家にも帰れず、駅前の朝まで営業しているカフェでずっと机に突っ伏して過ごした。ちょっと泣いた。
ヒップホップなんか大嫌いだ、と思った。
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そこから数年の時を経て、いま自分は『Black petrol』、『Kingo』という二組の素晴らしいヒップホップアーティストとイベントを主催している。
この数年で日本の音楽シーンも、ヒップホップの在り方も大きく変わったように思う。ヒップホップのファッションとしての側面よりも、哲学の部分を掘り下げ真摯にメッセージ性を歌うアーティストが増えた。
音楽表現の手段としてのラップの面白さ、ユニークさも徐々に理解した。今では拙いながら自分でもラップをする。
ラッパーの音源を聴き込み、その卓越したテクニックとリリックの奥深さに感動を覚えるまでになった。
ヒップホップに理解を持たない地味なポップスシンガーだった自分が、二組のヒップホップアーティストのなかに加わり同じ立場でイベントを、ひいてはシーンを動かしていこうとしているこの現状を、当時の自分が見たらきっとビックリするだろう。
今はむしろ、シンガーという立場で彼らのようなヒップホップのアーティストとイベントができる境遇に心から感謝している。自分にだけ与えられた特権とすら感じている。
ラッパーは不器用で、嘘がつけなくて、呆れるほどナイーブで、底抜けにいい奴らしかいないと、無駄にビビり散らかしていた当時の自分に教えてやりたい。
なんならお前よりも傷つきやすい奴らだよ、と。
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『anthem』は、もはや自分にとってただの企画ライブではなくなった。
自分がどれだけ未知のものに対して心を開くことができるようになったか、他者との違いを認め、それでも優しくおおらかで在れるようになれたか。
そんな自分の魂の現在位置を確かめるためのライフイベントとして、一週間後11/5、『anthem』大阪編に臨みます。
是非たくさんの人に見てほしい。
よろしくどうぞ。
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🪩Live info🪩
🗓 2023.11.05 (日)
『 anthem -OSAKA- 』
at. 大阪心斎橋 CONPASS
🎙LIVE
Kingo
Black petrol
DinoJr.
⏰ OPEN 16:30 / START 17:00
🎫 前売 ¥3,300(D別)/当日¥4,000(D別)
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