⑧産業医は嘱託
発達障害疑いの後輩の面倒を見ていて、体調が徐々に悪くなっていったが、自分では「体調がわるい」という認識ではなく、「ストレスが溜まっている」と思っていた。
特に、考えがまとまりにくいこと、涙が止まらないこと、後輩に強く当たること(続く失敗を大目に見られない状態)、仕事内容の夢を見ること、朝4時ぐらいに目が覚めてしまうことなどは、疲れているんだなと思っていた。
当時の勤務時間状況は、月80時間などの長時間残業ではなかったが、時短を取りながら遠距離通勤をしていたことに加え、例年になく大きなプロジェクトを3つ回しながら後輩の面倒を見ていた。回りきらなかった仕事は土日にも仕事をする状態が続いていて、疲れるのは当たり前だったが、他の人ほど長時間働いていないので頑張らねばと気を張っていたように思う。
発病の2か月前には、やっと自分と後輩を直接指導する上司がつけられ、私は上司の指示のもとに後輩の業務内容のチェックおよび報告を行っていた。遅刻や業務遂行漏れ、手順飛ばし、後輩が業務を理解ができていない箇所など…。私の報告をもとに上司が後輩を指導するようになり、自分が直接指導することはなくなったが、逆に密告者のような立場になり、今にして思えば後輩と自分の関係性が悪化していったように思う。
発病1か月前には、後輩の目を見るのがつらくなり、かかわるのが嫌になってきた。私は上司に産業医との面談を申し込んだ。
産業医と久しぶりに会うなり、彼女は「ネコ路地さんのこと、ずっと気になっていました」と言った。以前、パワハラ上司から理不尽な叱責を受けた際に手が震える状態になったことで、面談をしたことがあったからだ。
産業医「実は、後輩さんからも同じタイミングで面談の申し込みがありました。ネコ路地さんからのあたりがキツクて辛いとのことで…」
私「でしょうね。私も同じ悩みで面談を申し込みました。後輩の面倒をみるのがつらくて。会社に離してもらうように言っていただけないでしょうか。このままだと頭がおかしくなりそうです。彼は発達障害ではないかと思っています」
産業医「ネコ路地さんがお気づきのように、彼は豆です。期待するのは無理です。あきらめてください。短い言葉で笑顔で指導してください」
私「…。ミスを起こしたときに短い言葉で笑顔で指導するのは難しいです。何が起きたか確認する際に話を聞く必要があり、矛盾点をついていくと結果的に後輩が嘘をついていることになることが多いためです。彼に発達障害の診断をうけるように勧めてください」
産業医「受け取る準備ができていないので無理だと思います。会社にはネコ路地さんと後輩さんを離すように勧めておきます。」
結果的に、産業医からの進言に会社はすぐ反応せず、この会話の1か月後に私は発病した。さらに、その1か月後にやっと私と後輩は席を離された。
その半年後、会社は産業医との定期的な面談をセッティングすることもなく、私からの産業医との面談依頼を拒み続けた。私は納得がいかなかったので、面談を拒み続けるなら産業医が勤務している病院を受診するとと伝えたところ、会社は面談をセッティングした。
会社になぜ面談をセッティングしないのか確認したところ、産業医自身が拒んだためと言われた。さらに、産業医にやっとあえた後でなぜ面談をしてくれなかったのか確認したところ「嘱託だから」と言われた。事業所規模が小さいため、専任ではなく嘱託の産業医なため、力が出せないという趣旨だったらしい。限界はあるだろうが、呆れてしまった。
産業医は内科医で、メンタルヘルスの専門家ではなかったが、身近に発達障害疑いの人がいるとのことで、後輩の扱いについてあきらめるように繰り返し言っていた。ほかの会社よりはこの会社はまだマシだという謎の説得もしてきた。あきらめる代わりに人員補充をして業務負荷を下げるように会社に進言したとのことだったが、会社は人員補充も行わなかったし、チーム全体の業務負荷を下げることはしなかった。ただ後輩の業務負荷のみを下げただけだった。後輩の業務が自分を含むほかメンバーの方にのしかかってきた。
また、会社が「産業医自身が拒んだ」ということで面談をセッティングしないこと自体も会社に対しての大きな不信感になった。
後輩、自分、会社、産業医、誰も完璧ではない。しかし、この発病半年後、会社や産業医が会話を拒む姿勢に自分は追い詰められ、この後もさらに会社に対話を求め続けることになる。バラバラになると人間は弱い。今はそう思う。