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③不思議な経歴

後輩が入って2か月、簡単な作業を渡したが、不安に思うことが多かった。特に進捗管理は全くできていない。総務部から渡されたプロジェクトの企画書(彼の本業が発揮できる業務内容)のチェックをほかの人に頼まれてみたが、単語の羅列のスライドが続くばかりで企画書の体をなしていなかった。

何かが違う。何かがおかしい。

私は上司に彼のポジションと経歴を聞いた。
マネジメント経験を買われてディレクターとして採用された後輩は、過去に課長職、部長職を歴任した後、契約社員(一般職)を6年していたとのこと。私は絶句した。

電話の取次ぎができず、作業ができず、企画書が書けず、顧客対応や進捗管理ができず、古い体質の会社に金髪で面接に来る彼は一体何ができるのか。私は経歴詐称を疑った。

私と彼の上司は遠隔地にいたので、私が彼の様子を見たり面倒を見るように言われていた。彼は半年の紹介予定派遣で入ってきていたので、上司に雇用を思いとどまるように何度も依頼した。

上司からは「社長面接まで行ったのでひっくりかえせない」の一点張りだった。私は、まあそういうよね。と内心思った。上司は長年転勤希望を出していたのを知っていたからだ。自分がいる拠点に来たかったらしい。転勤をするために必要な人材。それが後輩だった。そのため採用を急いだのだと思った。

しかし、後輩はこれまで見てきたどの派遣社員よりもできなかった。
まず、40歳を目前にして電話の取次ぎ方を知らなかった。取り次ぐ相手が雑談しているのをずっとニコニコ待っていた。自信がないせいか声が通らず、電話を取り次ぎたい相手の注意を引くことができない。
そして本来の業務で使用するアドビ系ソフトウェアの知識も圧倒的になかった。Photoshopで罫線を引くのに、音引き「ー」をつなげて線を引こうとしていたのには卒倒した。

簡単な仕事も納期を守れたことがなかった。納期遅れが続いたある日、私から彼に残業しないで業務ができるように仕事を渡していることや、納期に遅れそうになる時は当日の午前中までに教えてほしい旨を伝えると、「僕も飲み会に行きやすいので残業がないほうがありがたいです」とニコニコしながら返事をしてきた。後輩が遅れていることを問題にしているのに、残業しなくていいと受け取られている。ピントがずれている。

後輩は他にも変わっていた。挙げるときりがないが、一字一句同じオウム返し、他の人の相槌の丸パクリ、初夏にダウンを着ていること、遅刻の多さ、メモを取るのに夢中で内容を理解できていなかった発言など、突っ込みどころ満載で、入社2か月で大人の発達障害を疑うようになった。
彼の机の引き出しの中は、ポストイットが落ち葉のように重なっていた。

結局、複数の顧客から後輩に対するクレームが入り、同じタイミングで上司の念願がかなってこちらの拠点に来ることになったため、後輩の業務替えが行われた。後輩を指導するのは、遠隔地にいる同僚になった。
横にいてもピントがずれている彼に指導するのは非常に難しいのに、遠隔地から業務指示が通るわけがない…と思いながらも、後輩の指導を免れることをありがたく思っていた。

私は上司に、彼のできなかったことやできることを書面にして引き継いだ。計画通り1年間の指導役を降りることを伝えた。上司からは引き続き指導するように頼まれたが、後輩と自分の業務内容が違うことを理由に、当初の計画通り同僚と上司で指導してもらえるように伝えた。

この時の私、後に上司がパワハラでいなくなり、会社の緊急事態が起き、同僚も他業務で手一杯になることで後輩の指導をできなくなり、後輩と自分が追い込まれることを知らなかった。

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