動物愛護管理センターが“推し猫”を発信?!「あいまるさっぽろ」が取り組む“令和的”な取り組み
札幌市動物愛護管理センターがSNSで発信している“推し猫・推し犬”をご存知でしょうか?
ニュースやSNSで話題となっているのが、2023年11月にオープンしたばかりの「札幌市動物愛護管理センター(愛称:あいまるさっぽろ)」。動物の譲渡や、適正飼育に関する啓発活動などを行なう行政施設です。
「1匹でも多くの動物たちが幸せに暮らせるように」 と 、さまざまな活動を行うあいまるさっぽろ。その活動のひとつがSNSでの“推し猫・推し犬”の発信です。今回は、あいまるさっぽろで働く獣医師の石橋佑規さんに、施設で行われている取り組みや現場で抱えている課題についてお伺いしました。
“動物たちの幸せを考える”施設を目指したワケ
―― あいまるさっぽろの取り組みについて、簡単に教えてください。
札幌市が設置した施設で、動物飼養に関する相談や指導、ペットの災害対策や狂犬病予防の推進など、動物に関するさまざまな業務を行なっている施設です。
これまで場所・機能が分かれていた「札幌市動物管理センター」を統合し、「札幌市動物愛護管理センター あいまるさっぽろ」として新設されました。
以前は野犬対策や狂犬病予防など、公衆衛生に基づいた仕事がメインでしたが、今ではこれらに加えて動物の引き取りや譲渡、啓発活動など動物愛護管理に関する業務の割合が大きくなっています。
―― どのようなきっかけから、動物の譲渡に注力し始めたのでしょうか?
20年ほど前までは年間2,000〜3,000匹ほどの動物が収容されて、ほとんどが殺処分になっていました。
社会的に動物愛護の重要性が高まっていくなかで、20年ほど前から行政としても“できる限り殺処分しないですむような取り組み”をしていく必要性が高まったのです。
時間はかかりましたが地域のボランティアや愛護団体さんの協力もあり、徐々に収容される動物たちが減って、数年前からほとんど殺処分を行なわずに済んでいます。
あいまるさっぽろに集まるトラブルの実態
―― 毎年数千匹を殺処分していた状況と比べると、大きな変化ですね。施設を新しく「あいまるさっぽろ」として生まれ変わらせた理由についてもお伺いしたいです。
ひとつは、動物の健康管理ができる施設の整備のため。もうひとつ、大きな理由が「動物を飼うことへの正しい知識の普及と啓発」です。
そもそも、収容される動物が増える原因には「適正な飼育がされていない」「終生飼育という考え方が浸透していない」などの問題があります。
そのため、動物の正しい飼い方や、飼い始める際の心構えなどの普及・啓発を強化するために作られたのが、あいまるさっぽろです。
―― 動物愛護管理の普及・啓発を強化した背景には、具体的にどのような問題があるのかお聞きしたいです。
たとえば、市民の方から以下のような苦情やご相談をいただくことが多いです。
隣の家で飼われている犬の鳴き声がうるさい
散歩の際の糞尿マナーが悪い
犬の放し飼いをしている
野良猫に餌やりをする人がいて猫が増えて困っている
適切な飼養管理がされていないと判断した場合には、飼い主さんに指導をすることも。動物に起因するご相談は昔に比べて減ってはいるものの、今でも年間数百件くらいはいただいています。
また、非常に深刻な問題として「多頭飼育崩壊」も挙げられます。実際、収容している猫の5〜6割が多頭飼育者から引き取っている状況です。
―― 多頭飼育というのは何匹から該当するのでしょうか?
札幌市の条例では「10頭以上の動物を飼う場合は多頭飼育の届出を出す」と決められているので、我々としても10匹が目安です。
札幌では過去に200数十匹という多頭飼育崩壊が発生したこともありますが、去年から今年にかけて50〜70匹ほどの中規模の多頭飼育崩壊が数件か発生しています。
多頭飼育崩壊は、飼い主自身が引き取り手を探したり、不妊手術を実施するなどの問題解決を図ることが難しく、行政などが引き取らざるを得ないケースも多いです。
しかし、多数の犬猫の引き取りをすることで、収容過多になってしまい、動物1匹1匹の福祉が保てないおそれがあることも大きな課題といえます。
保護・管理だけではない、行政としての“新しい取り組み”
―― 施設で受け入れられる数には限りがありますよね…。収容過多になる状況の解決策として、取り組んでいることはありますか?
飼い主さんには終生飼育の責務があるので、万が一飼えなくなった場合は自分で飼い主を探すことが大原則だとお伝えしています。そのうえで、センターでの引き取りはどうしようもなくなったときの最終手段です。
まずは自分で引き取り手を探す努力をしてもらうため「飼い主探しノート」という仕組みをつくりました。飼い主の家で動物をお世話している状態で、引き取り手を探すために動物の情報を掲載するものです。
そのうえで、どうしてもセンターが引き取らざるをえない動物もいまして。次のおうちが早く見つかるように、SNSでのスタッフの“推し猫紹介”やホームページの充実をして、1匹1匹の魅力を伝えています。
札幌市が持つ広報資源を活用して大型のディスプレイや市電の停留所で動画を流すなど、手当たり次第にできることもしています。
ほかにも、毎月「犬猫はじめて講習会」という教育プログラムも行なっています。
―― 講習会では、どういうことを教えているのでしょうか?
動物を飼ったことがない方に、基本的な飼い方以外にも飼う前に知っておいてほしいことをお伝えしています。
ペットの幸せは、飼い主がその動物の特徴をしっかり学び、自分の将来のことも考えたうえで「その子が幸せに暮らせる環境を整えられるか」に大きく左右されます。
犬猫はじめて講習会でもそのことをお話しし、「本当に飼えるのか」や「飼わないという選択」も含めて考えるきっかけにしてもらうことを目指して実施しています。
1回の講習で伝えられる人数は少ないですが、少しずつ広まってくれたらいいなと思っています。たとえば、ペットショップで可愛い動物を見たときに、私たちがお伝えしたことを思い出して考えてくれるだけでも十分です。
市民と一緒に取り組める動物愛護を目指して
―― とても熱量高く取り組まれていることに頭が下がります。なぜ、みなさんそこまで頑張れるのでしょうか?
動物の収容は止められないので、譲渡を進めていかないと猫風邪などの過密が原因のトラブルが発生してしまいます。
ときには、センターが多頭飼育状態になってしまうことも…。「なるべく動物たちに負担をかけないように保護したい」のは職員たちの本音です。
そのため、あいまるさっぽろでは環境エンリッチメントーー動物たちが快適くらせるためのさまざまな工夫をしています。
たとえば、猫が上下運動できるようにキャットタワーを設置したり、犬の屋内・屋外運動場を完備。また、隠れ家になるペットベッドやペットハウスの設置など、動物の特性にあわせた環境を整備していますね。
▼あいまるさっぽろの環境エンリッチメントの取り組みはSNSでも紹介されています。
―― 収容動物の福祉を守るために、さまざまな工夫をされているのですね。最後に、あいまるさっぽろで今後やっていきたい取り組みをお伺いしたいです。
これまで以上に市民の方々と協力していきたいと考えています。センターを介して、市民のみなさんが動物たちと気軽に関わっていただけるような場所にしていきたいですね。
直近では、収容動物の人馴れの促進についてボランティアさんにお手伝いをいただいているほか、ほしいものリストなどを活用して物資の寄付をいただけるような仕組み作りを考えています。市民1人ひとりができる形で協力して、札幌市の動物愛護管理を推進していくのが目標ですね。
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引き取る犬猫を減らすべく、飼い主やこれからペットを飼いたいという方に、正しい知識を提供する普及・啓発を大切にしている「あいまるさっぽろ」。
「行政施設=動物愛護への関心が薄いのではないか」と思われがちですが、SNSを使った企画や地域を巻き込んだイベントなどを開催し、動物たちの出口作りを積極的に行なっています。
「収容された動物たちの福祉を考慮して、できる限りのことをして譲渡につなげたい」
そう語る石橋さんを含め、あいまるさっぽろ職員のみなさんの、行政としてできる令和的な取り組みを応援しています。