不定期連載「ショートエッセイ集『世界はボールでできている』」
0.まえがき
正月早々、なんのこっちゃ分からないタイトルで申し訳ございません。毎度おなじみ、キワタでございます。本年もなにとぞ、よろしくお願い申し上げます。
さて、書き物のネタというものは、不意に降ってくるものです。4月からOWL Magazineで連載を担当させて頂いておりますが、毎月の連載に耐えるべく、何気ない瞬間に思いついたネタは、日々ネタ帳として、メモに残しております。
気づけばたまりにたまったあまたのネタ。1万字~2万字くらいあっても足りないくらいの量を書けそうな話もあれば、あまりにもくだらない内容で、一本の記事に仕立てるには恐れ多いものなど、まさに玉石混交の様相を呈しています。
そこで今月は、「ショートエッセイ集『世界はボールでできている』」として、捨てるにはあまりも惜しい、これまで温め、熟成させた、まさに「小ネタ」を放出したいと思います。
関西のお化け番組「探偵!ナイトスクープ」の「爆笑!小ネタ集」のような、気軽に読めるエッセイを3本仕立てました。
私は日頃生きている中で、必要以上に頭が回ります。目に入ったものに対して思いを馳せているうちに、だんだんと思想が脱線してしまい、どんどん妄想が膨らみ、帰還できなくなることが多々あります。
いつもはこの「突拍子もない発想」は、私の頭の中にとどめられるか、Twitterなどに短文で書いて消化されるのですが、今回は思い切って、それなりの長さの文章に仕上げることで、このくだらない頭の回転を、マネタイズすることにしました。
少しばかりの時間ですが、お付き合い頂けると幸いです。
1. 読み違え
最近、小規模な引っ越しをした。引っ越しといっても、わずか数キロの距離である。
大阪都心の駅近・家賃高めの物件から、郊外・駅から徒歩10分の今の家に引っ越して以来、少しくらいの距離であれば自転車を漕ぐようになった。「少しくらい」の基準は人それぞれであろうが、私の場合は片道1時間に満たなければ「少しくらい」と呼んでいる。健脚で申し訳ない。
結局のところ、家から駅まで歩く時間、ホームで電車を待つ時間、駅から目的地までの徒歩の時間……。細かい時間を重ねていくと、自転車での移動時間は、電車で移動する時のそれと、そう変わらないのだ。
自転車を漕いで街をゆく。趣味に合いそうなカフェ、最近できたと思しきベーカリー、見知らぬ地名の標識など、普段は雑に見逃している景色が、自転車の上からでは、何気なく目に留まるようになる。駅と家との単調な往復では決して見ることのできない景色が、そこには広がっているのだ。
「城北公園通」という駅の前を通る。正しくは「『しろきた』こうえんどおり」と読むのだが、毎回うっかり「『じょうほく』こうえんどおり」と読んでしまう。相場では城北は「じょうほく」だろう。高校野球の強豪校「鳥取城北高校」も「じょうほく」だし、名古屋駅の隣から出ているのに大赤字を垂れ流している、鉄道の「城北線」も「じょうほく」である。ひょっとしたら大阪城の北にあるから「しろきた」なのか。おそらく違う。そうであるとすれば、ますます「じょうほく」である。
都心に向けて自転車を飛ばすと「生玉南」という交差点が見える。うっかり「なまたま」と読んで、牛丼屋で言うところの「ギョク」を思い出すが、これは「いくたまみなみ」である。「生」を「いく」と読ませる例、「生稲晃子」くらいでしか見たことがない。稲だのなんだと言われると腹が減る。どのみち今夜は牛丼になりそうだ。
そもそも固有名詞というのは、数多の単語の中でも特に、間違えてはいけない性質が強い。明らかな誤字、脱字は当然よろしくないとして、「高」なのか「髙」なのか、「国」なのか「國」なのか、「学」なのか「學」なのか――途中から明らかに國學院大學のことを思い出しているが、旧字体/新字体の違いと言えども、特に気を配らなくてはならない。
私が以前、Twitterに「山崎賢人」と書いたところ、「山崎賢人」でエゴサーチして「山『﨑』賢人です!!!!」と、ご丁寧にFF外※から失礼してくるアカウントに絡まれて以来、誤字脱字については特に気を付けている。
※FF外:「フォロー/フォロワー外」を簡略化した表現。Twitterにおいてフォロー/フォロワーの関係にない、初対面の人を指す言葉。
このように書いておきながら、川崎フロンターレのサポーターがよく怒っている、「三笘※」選手の名前について、未だに「苫」と「笘」のどちらが正しいのか、私は正直よく覚えていない。「ジェジエウ※」が「ジェジェウ」でないことはもうさすがに覚えたが、「三笘」は未だにはっきりしない。
※三笘(薫)選手:ユニオン・サン=ジロワーズ(ベルギーリーグ)所属。「笘」の字を頻繁に間違えられることで、SNS上で問題となっている。
※ジェジエウ選手:川崎フロンターレ(Jリーグ)所属。2020年にはJリーグベストイレブンを受賞した、川崎フロンターレの守備の要。
現にこの原稿を書いているWindows10くんは、「みとま」と打つと最初に「三苫」と返してきた。Windowsはまだいい。iPhoneに至っては、「みとま」を変換しても「三苫」という結果しか返してくれないのだ。一度「笘篠」などの文字を挟まない限り、我々は「三笘」にたどり着けない。
そもそも、その微妙な違い(先程「自分で気を付けている」と書いておいて言うのもなんだが)について、そこまで糾弾されるべき内容であろうかと、そう思うのだ。ここはひとつJリーグ王者としての寛大な心で、多少くらい大目に見て頂くことはできないだろうか。そう思うのだ。
そのように愚痴をこぼしながら、手癖のようにインターネットを開く。ネットニュースに「長崎の新進気鋭の大卒ルーキー、鍬『崎』は……」と書かれている文字列を見つけた。これには温厚な私もお怒りである。
やはり固有名詞は、間違えないに越したことはない。
※鍬先(祐弥)選手:V・ファーレン長崎(Jリーグ)所属。大学ナンバーワンボランチとして、ルーキーながら終盤戦は定位置を掴んだ期待の若手。
2. 視野狭窄
のっけから炎上しそうなことを書くが、女子サッカーの面白さが今一つ分からない。早速お怒りの読者の方もおられるかと思うが、怒る前に、私の弁明を聞いてほしい。
ここより先の内容は、旅とサッカーを紡ぐWeb雑誌「OWL magazine」購読者向けの有料コンテンツとなります。月額700円(税込)で、2019年2月以降のバックナンバーも含め、基本的に全ての記事が読み放題でお楽しみ頂けます。ご興味のある方は、ぜひ購読頂ければ幸いです。
ここから先は
OWL magazine 旅とサッカーを紡ぐWeb雑誌
サポーターはあくまでも応援者であり、言ってしまえばサッカー界の脇役といえます。しかしながら、スポーツツーリズムという文脈においては、サポー…
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?