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ソートリーダーシップ活動を進めるために必要な戦略思考

こんにちは、国際社会経済研究所(IISE)理事長の藤沢久美です。

これまで3回にわたって、「ソートリーダーシップ(Thought Leadership)活動」が新たな社会的価値を創造するための重要な経営戦略であることをお伝えしてきました。今回は、ソートリーダーシップ活動をさらに効果的に進めるために不可欠である、以下4つの「戦略思考」についてご紹介します。

① 先回り思考
② マルチステークホルダー思考
③ 全体思考
④ 投資思考

一つずつ、見ていきましょう。


① 先回り思考


ソートリーダーシップ活動では、未来像とそこに至る道筋を示すソートを提示します。しかし、それだけでは先回り思考とはいえません。先回り思考とは、提示した未来像が実現した際に必要なモノやコトを先んじて用意しておく思考です。

一つ事例を挙げてみます。過去、ある下請けの部品メーカーは、半導体が小型化する流れを察知し、これからは様々な電化製品が小型化すると予測しました。そこで大手企業から試作依頼が来る前に、既存製品の部品の最小化に取り組み、試作依頼が来た時にはすでに部品が完成していたのです。これは取引先を大いに驚かせ、受注と高い信頼の獲得につながりました。まさに、先回りをして待ち構えていた事例です。

ソートリーダーシップ活動のゴールは、未来像の実現です。つまり、ソートの提示と発信だけではなく、未来像を実現するための先回りをした実装の準備が不可欠です。

② マルチステークホルダー思考


我々が取り組むソートリーダーシップ活動は、新たな技術やソリューションの社会実装をベースにしています。技術等を活用し社会をより良いものにするためには、検討すべきことが数多くあります。

一つは、その実装の担い手です。ビジネスとして企業が担うのか、公的インフラとして政府が主導するのか。いずれにしても実装のためには費用が発生します。ビジネスとして企業が事業投資をするのか、公的投資とするのかなどの枠組みづくりも必要です。

さらには、その技術や枠組みが社会に不安を与えないか、受け入れてもらえるものかを検討し、リスクが顕在化しないためのルールづくりも必要になります。

こうした枠組みの検討は、企業一社でも政府だけでも描くことはできません。社会を構成する、あらゆるステークホルダー(マルチステークホルダー)を巻き込んだ傾聴、議論、設計、発信、そして実行が必要となります。

③ 全体思考


マルチステークホルダー思考を用いて、ソートを描き、リーダーシップの発揮に取り組むと、想定外の様々な障壁にぶつかります。小さなものから大きなものまで、様々な課題に直面した時に忘れてはならないのが、全体思考です。

目の前の課題に注力するあまり、部分最適に陥り、全体最適の視点を見失う危険性があります。常にソートで描いた未来像を念頭に置き、日々起こる部分の不具合を、全体感を持って分析すること。そうした全体思考から対応策を検討し、戦術変更の可否判断や取り組みの取捨選択をすべきです。

また、時間軸についても全体思考が必要です。長期的な未来像への歩みの中でも、短期の視点を軽視してはいけません。短期的な小さな事業の実施を通じて、仲間を作り、技術を磨くことができます。目先の小さな事業の積み重ねが、未来へつながる。このように、時間軸を全体思考で捉える感覚を持つことも重要です。

④ 投資思考


投資思考はこれまで取り上げた3つの思考、すなわち「①先回り思考」「②マルチステークホルダー思考」「③全体思考」の全てに、通じる思考です。

投資をする際には、データやエビデンスに基づき、期待するリターンとリスクを想定します。そして、リスクを最小化し、期待するリターンに到達するための手を打ちます。このリスク管理の具体的な方法として、定期的な資本投下といった時間分散、複数の分野へ投資する投資先の分散、長期投資が用いられます。株式投資等の経験がある方ならイメージできるかもしれません。

先回り思考には、先行投資が必要です。マルチステークホルダー思考や全体思考には、分散手法が必要です。いずれの場合もリスクの計測と、その低減のための方策が必要です。このように、ソートリーダーシップ活動を実施するには、リスクを低減しながらリターンを目指す投資思考が必要となります。

以上のように、先回り思考、マルチステークホルダー思考、全体思考、投資思考という4つの戦略思考は、企業が経営戦略としてソートリーダーシップ活動を実践し、業界や社会に対して持続的な影響力を持つための重要な要素です。

そして、こうした戦略思考を磨きながらソートリーダーシップ活動を行うことで、企業全体に4つの思考が浸透していき、企業の底堅い成長を担保できると考えます。

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文:IISE 理事長 藤沢 久美

藤沢 久美
大学卒業後、国内外の投資運用会社勤務を経て1995年、日本初の投資信託評価会社を起業。1999年、同社を世界的格付け会社スタンダード&プアーズに売却。2000年、シンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画。2013年~2022年3月まで同代表。2022年4月より現職。https://kumifujisawa.jp/

企画・制作・編集:IISEソートリーダーシップHub(藤沢久美、鈴木章太郎、塩谷公規、石垣亜純)

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