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共感から信頼へ。ソートを仲間づくりへと導く書籍の力
こんにちは、国際社会経済研究所(IISE)理事長の藤沢久美です。
前回は、シンクタンクが「ソートリーダーシップ(Thought Leadership)活動」の牽引役をしている理由をお話ししました。今回は、企業に対して中立性と独立性を担保できる、シンクタンクだからこそ効果を発揮できた書籍出版の事例をご紹介します。
私たちIISEはソートリーダーシップ活動の一環として、2冊の書籍を出版しました。著者はいずれもIISEに所属する研究員(出版時含む)。ソートリーダーシップ活動に関わるメンバーたちが様々な事例やデータなどのファクトを集め、書籍の形にしてソートをまとめ上げたものです。
『未来をつくるパーパス都市経営』(著・西岡満代)では、都市に経営の考え方とテクノロジーを取り入れることによって、ウェルビーイングなまちをつくるという新たなソートを提示しました。
もう一冊の『未来をつくるデジタル共創社会』(著・小松正人)では、日本における行政の現場を住民と行政の「関心・信頼関係の構築」と「マインドセット変革」によってデジタル化するというソートを提示しました。
シンクタンクの活動にとって書籍は、研究成果を世に公開し、研究員が外部から信頼を得るための名刺代わりともなる大切なツールです。
そしてソートリーダーシップ活動においても、書籍はパワフルなツールとなります。
ひとことで書籍といっても、その内容は多種多様です。研究論文を書籍にした学術本からビジネスに関するノウハウ本、人生のためのハウツー本、そして小説など様々な形式がありますが、この形がベストというものがあるわけではありません。
独自のコンセプトで世に問いかける
IISEとして出版した2冊も、それぞれ異なる特色を持っています。
『パーパス都市経営』では、まず、都市の運営に「経営」という言葉を使ったことがユニークです。そして、経営において重視される「パーパス」が都市においても重要であることを示しました。ウェルビーイングが高いまちの実現を表す「パーパス都市経営」という、新しい言葉を世に問いかけたのです。
さらに同書の冒頭では「ホラーシナリオ」と題し、小説のような表現を用いて未来社会のイメージを読者に語りかけています。続いて、その「ホラーシナリオ」に向かわないために自治体などが取り組むべきことを、思想と技術の両面から解説しました。
『未来をつくるデジタル共創社会』では、日本流の「おもてなし」をデジタルも活用して進化させることを目指し、その鍵は住民と行政の「関心・信頼関係の構築」と「マインドセット変革」にあると述べます。
一見すると、デジタルとは関係が薄そうなこの2点がなぜポイントなのか。有識者へのインタビューや日本および海外の先進事例など、様々な事例をふんだんに盛り込みながら論を重ね、民主的な自治体運営のあり方について考察を深めています。
書籍が自治体や企業の不安に応える
こうした独自のコンセプトを提示することは、ソートリーダーシップ活動における「共感」と「仲間づくり」に大きな意味を持ちます。自治体に限らず企業も、VUCAと表現される現在の状況下で、何をすべきか悩んでいます。それ以上に、未来社会がどうなるかという仮説を求めています。魅力的な仮説があれば、それに沿った形で自社の取り組みの検討を始めます。
つまり、独自性が人々の目を引き、さらに、そこにある未来像に共感を得て、その実現へ共に歩む仲間が、書籍を通じて生まれてきます。
結果として、これらの書籍の著者メンバーたちは、様々なところから講演の依頼を受けるようになりました。さらに『パーパス都市経営』は不動産協会賞を受賞。審査員の方からは「日本を取り巻く現状から地域の課題について、スマートシティという切り口からウェルビーイングを高める重要性について書かれており、まさに現在の社会課題に対して真っ向から向き合った一冊であった」という講評もいただきました。
書籍は、マーケティングや広報とは異なる次元で、ソートリーダーシップ活動の核となる共感から実装の仲間づくりへと導いてくれる原動力になることを、この2冊を通じて実感しています。
ソートリーダーシップ活動では書籍出版という結果だけでなく、過程も大事
最後に一つ付け加えておきたいのが、著者としての研究員だけではなく、書籍を一緒に作ったメンバーたちが、その過程でソートリーダーとしての力を身につけていることです。
派手さはなくとも、ソートリーダーとしての知見と知恵を磨いたメンバーたちが各所からの声に応えて、各地に出向き、「面」として変化をリードするソートリーダーシップ活動を実現することができるのです。
※今後の更新を逃さないように、まだの方はマガジン「ソートリーダーシップHub(TL Hub)」のフォローをお願いいたします。
文:IISE 理事長 藤沢 久美
藤沢 久美
大学卒業後、国内外の投資運用会社勤務を経て1995年、日本初の投資信託評価会社を起業。1999年、同社を世界的格付け会社スタンダード&プアーズに売却。2000年、シンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画。2013年~2022年3月まで同代表。2022年4月より現職。https://kumifujisawa.jp/
企画・制作・編集:IISEソートリーダーシップHub(藤沢久美、鈴木章太郎、榛葉幸哉、石垣亜純)