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「AIが広げる環世界 - モノは私たちに何を語りかける?」Designship2024 展示ブースレポート

こんにちは。NECのデザイナー4年目です。 本記事では、10月に開催されたDesignship2024のブース企画の裏側を語ります!

今年は1~4年目の若手メンバーが中心となってブースの企画から制作を行い、当日はスタッフとして参加しました。 企画や制作の過程では、メンバーの「こんなブースをつくりたい!」という気持ちを大事に、 約1か月間悩み、楽しみながら駆け抜けました。その一部始終と裏側をお伝えしていきます!

私たちの活動を知ってもらいたい…!

私たちがDesignshipに参加するのは今年で5回目になります。 参加目的はざっくり言えば「NEC DESIGNについてより多くの人に知ってもらうこと」です。
「NECにもデザイン部があるの?」 、「デザイナーはどんなことをしてるの?」 そう思われる方も多いのではないでしょうか?実際、私もそうでした(笑)

Designshipという全国のあらゆるデザイナーや学生が一同に会する機会に、 私たちの活動について少しでも多くの人に知ってもらいたい、そんな気持ちで参加しました。

NEC DESIGNは、インハウスデザイン組織としてNECのブランドやイノベーションを生み出す活動をしています。 今年のDesignshipで私たちは「AI」に向き合いました。 AIと向き合うなかでの私たちの思考や視点、そしてアイデアの一部を、 登壇やブースでお見せできたら…と思い、企画を進めていきました。 ご参加いただいた皆様には少しでもその思いが伝わっていたらいいな、と思います。
※私たちの組織についてはこちらでも紹介しているので、あわせてご覧ください。

長くなりましたが、それでは、今回のブースの企画内容に移っていきましょう!

登壇とのリンク

今回のDesignshipにおける展示内容は、登壇とリンクしたものにし、互いの内容を補完するような形を目指していました。

NEC DESIGNを代表して登壇された山崎さんのトークテーマは「人間とAIのコンヴィヴィアルな関係を目指して 」。AIと共に成長する時代になっていく中で、AIに頼り過ぎない「コンヴィヴィアル」な関係を築くことで、人間や社会の可能性が広がるのではないか。技術を社会に適用していくNECのデザイナーとして、将来の人とAIの関係について探求していることを発表しました。詳細は登壇レポートをご覧ください。

私たちは登壇内容の中でも「人-AI-あらゆるもの」に着目し、ヒトとモノの間にAIが介在することでどのようなコミュニケーションが生まれ、それがどのように私たちのココロを動かすのか、体感できる展示ブースを作ることにしました。

「人-AI-あらゆるもの」NEC DESIGN 登壇資料 for Designship2024より

小学生のころ使っていたモノたちが、当時のことを覚えていたとしたら…?

みんなが共感できる体験にしたい。そう考えたとき候補に挙がったのが”小学生のころの学習机”でした。あの頃読んでいたが、座っていた椅子が、手作りした貯金箱が、使っていた鉛筆削り絵の具セットが…もしモノがあの頃の自分を覚えていたら、大人になった僕らへ何を語りかけるのだろう。そんな想像を膨らませられるようなブースを作ることにしました。
下は展示ブースのイメージです。モノのそばにカードがおいてあり、そのカードにはモノからヒトへ向けたメッセージが書かれています。

展示ブース_ラフスケッチ

メンバーの私物も大活躍!実際の展示ブース

そして、完成した展示ブースはこちらです。 出展ブースのなかでも、ちょっと異質だったのではないでしょうか? 「ん?学習机?」この見た目に興味を持ってきてくださった方も多くいらっしゃいました。

展示ブース_ここに丸テーブルとPCを追加し、スタッフが小学生時代の話を聞き、
AIが出力したメッセージカードを手渡していた

参加者が懐かしいと思うモノってなんだろう…?小学生の頃の机を思い出して、あれで遊んだよね~!と話しながら、この空間に置くモノを選んでいきました。できるだけリアルに再現するために、新品のモノよりも使いこんだモノを展示したいとの思いから、部内のメンバーに協力を呼び掛けたり、リサイクルショップに赴いて探しました。ランドセルやリコーダー、貯金箱などは、実際にメンバーが小学生の頃に使っていたものなんです…!

当日はここに丸テーブルを追加し、PCを片手にスタッフが参加者の小学生時代について話を聞き、話の内容をAIに与えることで、モノからのメッセージをその場で印刷し手渡すという試みをしていました。

展示ブース_机の上にはモノのそばに各メッセージカードが並んでいる

体験の流れ

実際の展示ブースにおける体験は以下のような流れです。

  1. 子ども時代を思い出す
    はじめに、机の上にあるモノを見て子ども時代を思い出してもらいます。

  2. 気になる「モノ」を選ぶ
    全部で11個あるモノのなかから、気になる「モノ」をえらび、近くに置いてあるカードを一枚とってもらいます。 ブースには、サンプルとしてこの机の所有者を仮で設定し、その人に向けてのメッセージをカードに出力して展示しました。

  3. モノとの思い出を振り返る
    カードを引いてもらった後は、スタッフが参加者の小学生時代について話を聞いていきます。 スタッフは聞いた話の内容を文字で打ち込んでAIに与え、モノからのメッセージを出力します。

  4. モノからあなたへのメッセージカードをもらう
    最後にモノからのメッセージをカードに印刷して参加者にお渡します。

体験を検討する際には、参加者の動線や気持ちの変化を想像しながら、長すぎない滞在時間やエピソードを引き出す工夫、 空間のレイアウト、わかりやすい説明のながれなど、シミュレーションを行いながらアップデートしていきました。

展示ブース_参加者が小学生時代について話す様子

モノからあなたへのメッセージには、どんなことが書いてあるのか?

パーソナライズされたメッセージカードには例えばこんなことが書いてあります。以下はとある参加者”るーちゃん”に対するランドセルからのメッセージです。

るーちゃんのランドセル :
「るーちゃん、久しぶり!私はあのランドセルだよ。習字、絵、そろばん、ピアノ、水曜日は特に家に帰ってからも忙しかったよね。ランドセルを置いて、いろんな習い事に出かけてたのを覚えてるよ。机の匂いや外の声、全部感じてたんだ。今は実家に眠ってるけど、この再会が本当に嬉しいよ。これからも新しい冒険と素晴らしい未来を楽しんでね。応援してるよ、るーちゃん!」

パーソナライズされたメッセージカード(左)展示ブースに置かれているメッセージカード(右)

以下はその他のカードのメッセージです。

筆箱 :
「きみはいつも文房具と一緒に宝物をしまっていたね。友達と授業中投げあった手紙がたくさん入ってた。いつも三角公園で遊ぶ約束をしてたよね。覚えてる?あのクマのキーホルダー、実は今でも私の中で眠っているんだよ!そのうち掘り起こしてね、約束だよ。」

ノベルティのカードたち

「うるっときました…!」参加した方のコメント

2日間で、約160人の方に参加いただきました!参加いただいた方からのコメントを一部ご紹介します。

  • うるっときた
    「実家のことを思い出して泣きそうになった。」

  • NECってこんなことしてるんだ
    「生成AIの技術を持っていることを知れたし、AIとの未来というと職が奪われたりするようなディストピアをイメージしがちだけど、この展示を通して希望が持てた。」

  • モノの視点が面白かった
    「モノの視点について考えたことがなく、登壇内容がフックになって興味を持って、展示ブースにきて腑に落ちた。ついつい話し込んでしまった。」

  • 体験そのものが楽しい!
    「カードがその場で印刷されることに不意を突かれた、面白かった!」

  • 同僚の小学生のころなんて知りもしなかった
    「一緒にDesignshipにきた友人がとなりで小学生時代を語っていて、すごくおもしろかった。モノが介在するって色んな事がおきるんだなと思った。」

私たちが伝えたいことが伝わるのか、少し不安もありましたが、 実際に上記のような声や反応が嬉しく、この企画を実現できてよかった~と思いました。
また、AIと人間の関係性などについて深く話をさせていただいたり、展示や体験の流れに対するアドバイスをしてくださった方もいらっしゃいました。そういう考えもあるのかも、など、皆さんとのコミュニケーションを通じて私たちも学びや発見を得ることができました。 今後の活動に活かしていきます!

当日の様子

【補足】「環世界」とは
「環世界」という概念をご存じでしょうか? この展示ブースは「 AIが広げる環世界-モノはわたしたちに何を語りかける?」という題でした。「人-AI-あらゆるもの」という関係において、AIがもし何かを知覚し記憶する機能を有しているとすれば(小学生のころ起きたことを知覚し覚えているなど)、それらモノは生き物と同様にそれぞれ個別の環世界を持つといえます。
環世界 :
環世界とは生物がそれぞれ独自の時間・空間として知覚し、主体的に構築した世界のことで、1900年代初頭、ドイツの生物学者であるヤーコプ・フォン・ユクスキュルによって提唱されました。どの生き物にも個体それぞれの環世界があり、あなたが見ている世界もまた一つの環世界であるという概念です。
カエルは暗がりでの色覚を有し、皮膚の粘液でもって捕食者、寄生虫などの脅威から身を守っています。オタマジャクシの頃は水中でエラで呼吸をし、成長とともに肺を獲得し空気に触れるのです。カエルもオタマジャクシも個体それぞれで異なる環世界を有し、それらは日々変化しています。
ヒトは赤ん坊のころ、なんでも口に入れてみることで世界を見ていますが、小学生の頃、私たちの環世界はどんなだったでしょうか。見ている世界、世界を見るための知覚、どちらも今とは異なっていて、それはカエルとオタマジャクシの環世界くらい異なるのかもしれません。

展示ブースを振り返って(考察)

そして無事に2日間を終えることができました。想定外のことが起きたりハプニングもありましたが、まるで文化祭のようで、忙しくも楽しい2日間でした。来てくださった方、 当日まで協力・サポートしてくださった部内のメンバー、 そしてブースメンバーのみんなに感謝しています…!

Designship終了後、今回ブースの企画に携わったPJメンバーで、振り返りと考察を行いました。 以下まとめです。ここで生まれた気づきやアイデアは、今後の活動に活かしていきたいと思います。

  • プロンプトがしっかりと機能した
    事前に用意していたプロンプトがうまく機能していたなと感じました。具体的には文章に反映させる「小学生の頃の体験」と、AIの話口調を決める追加情報「小学生の頃どんな子どもだったか」に分けてプロンプトに反映させるマクロを組んだのがよかったように思います。例えばやんちゃな子にははっちゃけた口調、大人しかった子には落ち着いた口調でメッセージが出力されていました。

  • ノスタルジーの最大化ができた
    Designshipとはいえ、土日に六本木へと、半分お仕事で足を運んでいた来場者の方は多かった様子でした。そこへ突如現れる望郷地元カムバック展示。小学生の頃のあだ名から始まるメッセージは、放課後の思い出や、実家に埋まっている色んなモノにまつわる記憶を掘り起こしたように思います。デザイナーとしての現在と自身のルーツを重ね合わせる、往年を振り返るような内容だったのではないでしょうか。

  • コンヴィヴィアリティと人間中心設計 → モノと人間の包括的な関係性に軸足を置く時代がやってくる?
    コンヴィヴィアリティを考える上で、人間単体ではなく、テクノロジーを含む身の回りのモノ全てとの距離感や関係性について焦点を置いていました。私たちは今まで人間中心設計を積極的に学んできましたが、モノと人間の包括的な関係性に軸足を置く時代がやってきているのかもしれません。

  • AIが持つ感覚器官
    「人-AI-あらゆるもの」という関係において、AIがもし何かを知覚し記憶する機能を有しているとすれば、それらモノは生き物と同様にそれぞれ個別の環世界を持つといえるのではないでしょうか。どんな感覚器官を有しているのかを人が能動的に設定することが、「コンヴィヴィアルな関係を形成するためにAIがどのように介在していくのか」を決定づけるのではないでしょうか。

PJメンバーの感想

  • H.T
    私がDesignshipに参加するのは今年3年目でしたが、個人的にこのPJに関わる醍醐味は 「自分たちのやりたい展示」を形にできるところ、当日にお客さんの反応を目の前で見られること、そしてたくさんの出会いがあるところです。NEC DESIGNを知ってもらう機会はそう多くないので、社外の方と直接話すことができる機会はこれからも大事にしたいなと思います!。今年の展示は、お客さんの行動や気持ちを想像しながら、私たちなりの見せ方で「NECらしさ」を表現できた展示になったのではないかと思います。限られた期間とリソースの中で制約もありましたが、そのなかでの最大限のアウトプットをするためにはどうしたらいいのか、 場面場面でアイデアを出して即行動に移してくれるメンバーに助けられました。 「次はもっとこうしたい!」と反省点や企みもあるので…また次に生かしていきたいです!

  • M.Y
    Designshipに参加するのは初めてで、社外のデザイナーと深く交流できる貴重な機会でした。どんなブースを作るのか、話を進めていく中での共通認識は「ビジョンを語ること」。インハウスのデザイン組織として、幅広い事業領域を抱える企業だからこそ発信できるメッセージは何だろうねと話していました。八百万やドラえもんの文化背景も相まって、AIそのものに対して私たちは比較的好意的な印象を持っているんじゃないかなと思います。テクノロジーが文化形態のアップデートを推し進めていく中で、自社のこの技術はどう活用されるべきだろうかと考えて、その幸せのカタチを描き可能性を提示できる。そんな仕事ができる場所なのかなと、来場者の方々に受け取ってもらえていたら嬉しいです!

PJメンバーの集合写真_おつかれさまでしたっ!

いかがだったでしょうか。以上がDesignship2024のブースレポートになります。
突貫でのPJゆえ荒くもありましたが、その分思い切った内容でPJメンバー視点ではとてもよいものだったと感じています。もし次行う際は、人が手入力していたところを、音声入力から情報をピックアップするようアップデートして、よりモノが語りかけてくるように見せたいですね。

小学生のころ使っていた色んなモノたち、実家に帰った際は皆さんもぜひ探してみてくださいね~! 最後までご覧いただきありがとうございました!

P.S. 環世界という概念に感覚的に触れてみたい場合は五十嵐大介による漫画作品「ウムヴェルト」がおすすめです  中の人より




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