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ICUに脳波モニタリングを導入したい


脳波モニタリングをICUで導入したい

こういう声は津々浦々あって、相談としても「どの脳波計がおすすめですか?」など受けることがあります。

脳波は「脳・意識のバイタルサイン」ともいえるため、ICUでのモニタリングが重要です。しかし、リソースには限りがあり、導入には様々な課題があります。本記事では、ICUでの脳波モニタリングの必要性、機器の種類、導入のハードル、運用上のポイントについて、私見も交えて解説します。というか私見です。


(注:こんな脳波のキャップはありません)




そもそも、なぜICUで脳波が必要なのか?


まずICUでの脳波には2つの存在価値があります。
 
・意識障害の鑑別
・てんかん重積状態の病態把握
 
前者は、緊急性の高い意識障害の脳波パターンをトリアージするステップであり、代謝性脳症やてんかん性の意識障害などの鑑別を行うことで治療方針を決定できます。僕はこれを脳波トリアージと言っています。
 


 
後者は、そのトリアージしたてんかん性の意識障害に対して、どの程度の力価で治療介入すべきか判定するプロセスになります。つまり、もう少し脳波を深く読んで治療方針を決定していく作業です。なぜ必要かというと、てんかん発作による二次的脳損傷を回避するためであり、過剰な鎮静を避けつつも過不足なく発作をコントロールするためには脳波という羅針盤が欠かせません。
 


 


 
脳波計の種類


ICUでの意識障害の評価として、脳波に力を入れたいよねという施設は多いと思いますし、よく講演会でも質問を受けます。
 



ここでは、まず脳波の種類を簡単に説明します。具体的には「通常の脳波計」と「ポータブル脳波計」があります。違いはエコーと一緒で、前者は生理検査室に設置しているしっかりしたもの、後者はICUで移動できる軽量のものです。ただしスペックは基本同じだと考えてください。軽量化してICUに置けるようにしたものがポータブル脳波です。ちなみに「脳波モニタリング」とは何か?といえば、ただ長時間の記録をしているものに過ぎません。ですから「脳波モニタリング」の専用の機器というのはないのです。「通常の脳波計」でも「ポータブル脳波計」でも、長時間で記録すればそれはモニタリングです(もちろん生理検査室の中でモニタリングすることは現実的にあり得ませんが)。
 
 



ポータブル脳波のメリット・デメリット 

メリット:
1)      コンパクト
2)      いつでも検査が可能
3)      ベッドサイドでモニタリングができる
4)      重積の管理ができる
 
デメリット
1)      誰かが電極をつけなければならない
2)      電極数が少ないと判読が難しいかも
3)      モニタリングを始めるとその症例だけにしか使えない
4)      特殊電極の使用には維持費がかかることもある
5)      ICUでの記録はノイズでアーチファクトが入りやすい
 
ポータブル脳波では記録する電極数を少なくしているところがあると思います。ダメではないですが、ちょっと判読にコツがいります。例えるなら「12誘導でなく肢誘導だけで不整脈を判定」するようなものです。
 

https://medical.nihonkohden.co.jp/iryo/products/physio/03_eeg/eeg1290next.html


 

https://www.fukuda.co.jp/medical/products/sas_psg/grael.html


 
 


 

通常の脳波(生理検査室での記録)

メリット:
・検査技師さんが綺麗につけてくれる
・アーチファクトが入りにくい環境
・記録や保存、閲覧のシステムがすでに構築されている
・短時間の記録でもそれなりに方針は決められる
 
デメリット
・緊急枠がない/限りがある
・重症患者を検査室に搬送できない
・不穏や発作時の対応が難しい
・長時間のモニタリングができない
 
 
 
ただ、最近の脳波計はルーチン脳波もモニタリングも可能で、軽量化されています。ですから、どの脳波計を買うかというよりは、どのように運用するか?が大事になります。
 
 
 
 



ICUでの脳波モニタリングの導入する前に?


 
一方で、脳波モニタリングの導入では事前にある程度、決めておかないといけないことがあります。ざっくりとリストアップしてみました。
 
事前に確認する課題:
1)誰が電極をつけるか?
2)誰が脳波をオーダーするか?
3)誰がデータを読むのか?
4)記録データは電子カルテに飛ばせるのか?
5)データの保存は?
6)ICUでのアーチファクト(交流など)に耐えられるか?
 
脳波モニタリングの機械だけがICUに用意されても、じゃあそれ誰がつけるの? 取り込んだデータの管理はどうする? 波形を閲覧するのは電カルでできるの? そもそもモニタリングの適応判断は誰が決めるよ?など課題は山積みです。ICUや脳神経系の医師さらには検査技師など多職種で協議する必要があります。
 
 
 





そもそも本当に脳波モニタリングが必要か?


ただ、もっと大事なことがあります。それは。本当に『脳波モニタリング』が必要なのか?という点です。前述のように、ポータブル脳波さえあれば、とりあえず緊急で脳波は取れます。また頑張って検査室に連れて行けば、緊急でも評価は可能です。長時間の評価を行うモニタリングが本当に必要なのかはよく立ち返ってみてください。その視点で以下の2つの質問に答えてみましょう。
 


 


【Q1. 重症頭部外傷や重症の自己免疫性脳炎をみていますか?】


・重症頭部外傷や脳出血に伴うNCSEの管理
・難治性の自己免疫性脳炎の重積(C-NORSE)
 



【Q2. 自施設で、緊急で生理検査室で脳波ができますか?】


意識障害の急患で、生理検査室に電話してお願いすれば、その日のうちに脳波検査をとってくれる体制がありますか?あるいは準緊急の脳波枠のようなものがありますか?
 


【Q3. NCSEを診察と病歴で強く疑うスキルがあるか?】


当たり前ですが意識障害=脳波ではありません。検査前確率が求められます。これまでに「これはNCSEだろうと強く疑い、実際に脳波でNCSEと診断できた」ことがありますか?
 



これらの質問について解説します↓↓
 
 
 


Q1. モニタリングの必要性が高い疾患群


・重症頭部外傷や脳出血に伴うNCSEの管理
・難治性の自己免疫性脳炎の重積(C-NORSE)
 
脳波モニタリングの活躍は特にこの2つのセッティングで最大化します。逆にいえば、これらをみないのであればモニタリングは必須ではありません。実際に重症頭部外傷をみる施設はある程度は限られているでしょうし、C-NORSEは稀であることを考えると、本当にモニタリングまで必要なの?となりますよね
 
 


Q2. 生理検査室の緊急対応


また、緊急枠については、対応できていない施設の方が多いように思います。 そして、もし緊急枠が利用できないのであれば、脳波モニタリングの導入は時期尚早です。なぜならモニタリングの導入においては、生理検査室の協力は不可避だからです。モニタリングを導入する前に脳波件数を増やすことから始めた方がいいと思います。


 
一方で、前述のモニタリングが必要な一部の重症例以外で緊急脳波検査を行いたいのは、主に「意識障害の鑑別」であり、例えば以下のようなものです。
 
・発作を止めた後の意識障害遷延
・代謝性脳症の評価
・蘇生後脳症の評価
・よくわからない意識障害の評価
・てんかん患者の発作後の評価


これらのセッティングは必ずしも長時間のモニタリングを必要としていません。むしろ必要なのは「緊急でのとりあえずの脳波」です。実際に私の施設ではICUで緊急で脳波を検査する場合、まずは30分ほど記録したうえで、その30分で検査終了とするか、長時間に切り替えるかをその場で判断しています。そして結果的に長時間に切り替える割合は1割もありません。

つまり、これらの疾患や病態は30分もチェックすればある程度は事足りることになりますので、モニタリングに手を出さずに、まずは緊急での短時間脳波のオーダーが可能になることを目指すべきです。どうしてもICUで検査月できないとしても、例えばバイタルが許容できる症例なら意識障害の評価として生理検査室に連れていくことは可能でしょう。まずは緊急での脳波検査の敷居を下げるにはどうしたらいいかを考えるべきなのです。
 
 




Q3. 検査前確率


NCSEは検査前確率の意識が極めて重要です。意識障害=脳波だと大半が空振りしてしまいます。そうなると、脳波意味ないじゃんとなり、だんだんとオーダー件数が減ってくるのは自明です。機器導入前に診察スキルの向上も意識してみましょう。実際に診察でNCSEを疑い脳波で診断できるようになると臨床が楽しくなると思います。
 
 




じゃあ何をすればいい?


「緊急で脳波検査ができなくて困っています」の相談を受けることがしばしば講演会などであり、その時のアドバイスとしては以下のように答えています

 
1)まずは脳波の敷居を下げることから
2)そのためには技師さんを仲間に入れる必要がある
3)たいていの施設はエコーとか他の生理検査に強くて、脳波は二の次
4)その最大の理由は、技師さんも脳波が読めないから
5)自分でわからないものを検査しても面白くないのは当たり前
6)だから緊急脳波への取り組みに前向きになれない
7)心電図やエコー好きの技師さんが有事に協力してくれるのと同じで、まずは互いに脳波がわかるようになった方がいい
8)そのためには脳波の勉強会をしり、所見を確認し合うことが大事

 
 

そもそも『検査しっぱなし』が一番良くない。技師さんとしては「言われたから脳波とったけど、これ誰か読んだの?臨床の治療方針に何か影響したの?」みたいになるのが本当に良くない。なので、可能なら緊急の脳波検査には医師が立ち会うと良いと思う。そこで当科では、緊急の脳波では必ず神経内科医が立ち会うようにし、技師さんとのディスカッションをするようにしている
 


技師さんと脳波言語を共有することから始めましょう↓↓
おすすめします👍


簡易装着のタイプ

最後に脳波を簡易的に装着できるものを紹介します。いわゆるワイヤレスのタイプで、日本光電であれば下記のヘッドセットという電極デバイスがあります。


https://medical.nihonkohden.co.jp/iryo/products/physio/03_eeg/ae120a.html


他にはより簡易的なモニターのものあります

https://www.jsicm.org/meeting/jsicm48/web_ex/company/27_6.html


またキャップタイプの電極もあります。個人的には、このキャップタイプがコスト面、記録データ面でも優れているように思いますが、施設の状況次第でもあります。


https://www.miyuki-net.co.jp/jp/products_supply/



皆さんの施設に応じて、参考となれば幸いです
もし、相談したいことがありましたら、遠慮なくお問い合わせください


その他の参考図書
臨床神経生理のバイブル
ちょっと難しいですが、必携
柴崎先生の重要書籍



こちらは学会編集の脳波本
ややお高いですがスタンダード

 


救急脳波について詳しく記載されています
基礎知識は別で固めておけば、役に立つでしょう
情報量は多いです




大事なこと


・長時間モニタリングと通常の脳波の違い
・導入のための事前チェックがある
・技師さんの協力なしには不可
・まずは脳波の敷居を互いに下げることから





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