発作から『脳』を救う
けいれん発作:二次的脳損傷から脳を救うために
症例提示
80代女性
自宅で倒れてけいれんしているところを発見。普段は健康で日常生活も自立していた方。家族が救急要請し、救急隊が到着したときにもけいれん発作が続いており、意識障害を伴っていた。SpO2は80%台に低下していたため酸素投与が開始され搬送された。明らかな外傷はなかった。失禁はあった。
けいれん重積は「時間との戦い」
急性期脳卒中と同じように、けいれん発作も緊急性を要します。発作が5分以上続くと「早期てんかん重積状態(early status epilepticus: SE)」と判断され、治療適応です。この状態がさらに30分以上続くと「確立したてんかん重積状態(established SE)」となり、脳へのダメージ、つまり二次的脳損傷が深刻化します。
ポイント1
5分以上の発作 → 「早期てんかん重積状態」と判断
治療の第一選択 → ベンゾジアゼピン(例:ジアゼパム、ミダゾラム、ロラゼパムなど)の投与
発作を30分以内に止めるために
5分を超えた発作が続く場合、発作を少なくとも30分以内に止めなければなりません。そのためベンゾジアゼピン(1st line)の投与で十分に効かない場合にホスフェニトインやレベチラセタム、フェノバルビタール(2nd line)を使用します。それでも発作が止まらない場合には鎮静薬(3rd line)の導入を検討します。
研修医のToDo
救急車が到着する前に準備
モニターや酸素、点滴の準備
血液検査、血液ガス、血糖測定の準備
ジアゼパムなどの1st line薬剤をすぐ投与できる状態にしておく
(1)ジアゼパムはすぐ使える状態に
救急対応の準備として、モニターや酸素、点滴などの一般的な準備も重要ですが、特に first line の薬剤準備 が勝敗を分けます。以下のポイントを押さえましょう。
事前準備
ホットラインの情報に応じて、ジアゼパムのようなベンゾジアゼピン系薬剤は、事前にシリンジに吸い取り、すぐに投与できるよう準備しておいてもいいでしょう。けいれん発作を確認してから薬剤の準備を始めていては遅いかもしれません。少しでも、投与までの時間を短縮することが大事。投与時の注意点
基本、1Aをしっかりとivします。ただ、かなり小柄な高齢者では、少量ずつ(例えば1/2Aに分けて)投与することも状況に応じてはあるでしょう。ですが躊躇して投与が遅くなることが一番よくありません。しっかりと投与して気道確保すれば良いと思います。何よりも優先すべきは、バイタルの安定化と、迅速な消化活動です。
(2)研修医ができること:薬剤の準備
ベンゾジアゼピン系薬剤(ジアゼパムやミダゾラム)は多くの救急外来に常備されていますが、second line の薬剤(レベチラセタムやホスフェニトイン)は薬局に保管されていることが多いと思います。そのため、準備と取りに行くタイミングも重要となります。
準備の流れ
事前オーダー:ホットラインで「早期てんかん重積状態」であろう情報が得られたのであれば、薬剤を必要量確保し取りに行くと良いでしょう。
使用量の目安:ホスフェニトインの初期投与量は体重で決まります。50kgなら約1.5バイアルくらいで70kgで2バイアルくらいです。ですから目安として2バイアル分をとりあえず用意しておきましょう。
必要がなくても準備を
ただホスフェニトインなどの2nd lineの薬剤は安価ではないので、準備しておくだけで、開封は待っておきましょう。ベンゾジアゼピン系薬剤を使った後での判断でいいと思います。準備だけはしておく、これが大事。
(筆者は、初回発作であれば、1st lineを投与した直後から2nd lineまで投与しています。1st lineの効果を判定していては遅いと考えているからです。脳梗塞急性期のDAPTみたいなもので、最初から2剤使った方がいいと考えています。根拠などは長くなるので割愛します)
POINT 2
ホットライン情報から「早期てんかん重積」と判断したら、first line と second line の薬剤を確保。
(3)治療介入を考えるべき発作の種類
なお、全ての発作が治療対象になるわけではありません。治療が必要かどうか、その適応基準を参考に判断します。
治療が必要な発作の条件
初回の発作
普段と違う発作パターン(てんかん患者の場合)
バイタルサインが不安定な発作
5分以上持続する発作
通常、てんかん患者の発作は1~2分で自然に止まります。ですが、5分以上続く場合はemergencyと判断し治療介入しましょう。なお、バイタルサインが不安定な場合は、発作を止めることよりもまずバイタルの安定化が優先されます。
(4)発作が止まった後に注意すべきこと
ジアゼパム投与で発作が止まっても油断は禁物。
気道確保の徹底:発作中には口腔内の分泌物が増えるため、気道閉塞や嚥性肺炎のリスクとなる可能性があります。
側臥位への体位変換:誤嚥防止に有効なため、吸引処置とともに、患者は側臥位にしましょう。
バイタルサインの再確認:発作が止まってもしばらくモニタリングを続けましょう。
(5)病棟からコールがあったら?
病棟から「○○さんがけいれんしています!」とコールがあった場合、どうしますか? 速やかに現場に向かうことを告げつつ、必要な指示をその場で伝えましょう:
バイタルサインと意識状態を確認:危険な兆候があれば直ちに院内救急コール。
初期対応セットの準備指示:ジアゼパム、点滴、採血などを他の看護師と協力して迅速に準備。
けいれん発作は「時間との勝負」
特に早期てんかん重積状態では、迅速な準備と適切な薬剤投与が患者の脳を守るカギとなります。最初の対応をどれだけ迅速かつ正確に行えるかで、患者の予後が大きく変わることを意識してください。「火事は初動で決まる」という考えで、一刻も早く脳を救いましょう。