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あなたの好き嫌いはなんですか?第5回


「ああ、いてて…」
右足を引きずりながら泉は歩いた。
仕事の打ち合わせに遅刻しそうになった泉は慌てて走って足首を捻った。
グキぃと音がして痛みがビリッと突き抜けたが、そんなことに構っていられず、そのまま相手先と打ち合わせを済ませた。
しかし、帰り道、足首がズキズキ脈打つように痛んだ。
今頃、すごく痛くなってきた。
ああ、私はおっちょこちょいなんだよね…。
よく父に「泉はおっちょこちょいだなぁ…」と言われたものだ。
「もっと落ち着いて。あわてない。あわてない」父は何かというと泉に言い聞かせた。
私はそんなにあわて者?と思春期には反発したものだったが実際は正真正銘のあわて者なのだ。
足首、グキぃって音がしたもんな…。
捻挫してるか。
腫れてきたし、湿布でも貼らないと駄目だ。
ああ、それというのもお昼ごはんの選択を間違えたせい。
あの店に入らず、立ち食いそばとかもっとシュッとご飯が出てくる店だったら5分で食べて悠々と午後の仕事にのぞめたのにな…。
そうすれば慌てて走る事もなかったのだ。
変な店だったなぁ。
ご飯出てくるのも遅すぎだし、味も辛すぎだったし…。
大半食べられなかった…。豚肉のカレー風味焼きの味付けが強烈で個性的過ぎた。
はあ、お腹すいたよぉ。
泉はしょんぼりアーケード街を歩いた。
立ち並ぶ店は帽子屋や煎餅屋、シャッターの閉まったままの店舗など閑散としたアーケード街だ。
17時から営業のラーメン屋からスープの匂いが風に乗って漂ってきた。
このまま会社に戻らないで帰っちゃうか…。足痛いし、病院行ったほうがいいかな?
泉は腕時計を見た。16時46分。うーん。
泉は右足首を見た。
ストッキングの下は少し腫れて見える。大したことないか…。
よろよろ歩いていると後ろから、
「あっ!おねえさーん」という男の声がした。あら、誰か呼ばれてる…。と思いながら泉は歩き続けた。
「おねえさん!」また声がして弾んだ足音が後ろで聞こえた。
泉があれっ?と思うとポンと肩を叩かれた。
振り向くと昼食で相席した爽やかな男性が微笑んでいた。
泉の胸は高鳴った。
しかも、おねえさんだって…私のことをおねえさんと呼んだ。
泉は息が苦しくなるくらいドキドキした。
「どうしたんですか?足痛いの?」
男性が心配そうな顔で泉の右足を見た。
「あっ…その、ちょっと捻っちゃって…」
泉がドギマギしながら言うと、
「お昼、すごい勢いで飛び出して行きましたもんね。慌て過ぎたんですね」
男性が笑った。薄荷ハッカの匂いがした。爽やかで清涼感のある匂い。
泉は恥ずかしくなった。
確かに泡喰って飛び出したのだ。
おっちょこちょいを絵に描いたような飛び出し方だった。
「それで足挫いちゃった?」
「はあ、たぶん捻挫くらいはしたかな…。恥ずかしい」
泉は顔が火照ってきた。あまり足を見ないでほしい。
「大丈夫?」
男性が泉の顔をのぞき込むようにしたので泉は両手で頬を隠した。
「大丈夫です。帰って湿布でも貼ります」
「心配だなぁ」
男性が顔を近づけたので泉は後ずさった。
ミントガムでも噛んでいたのか、息からとても薄荷の匂いがした。

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