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水曜日(ひとり柿ピー)

仕事終わりに疲れをひきずって泉は薄暗い道を歩いた。
あーあ、稔が居た頃は帰るとたま〜にあいつが料理作って待ってたんだよなぁ…。
あいつの料理はあんまりおいしくなかったな。私はおいしくないのにおいしいっていつも言ってたな。
そういうのがいけなかったのかもねぇ。
変に気を使ってたのがバレてたんだろうな。それで向こうも居心地悪かったのかもねぇ。
泉は出ていった彼氏を思い出していた。
ほんとにもう…。
癖になっているスマホ確認。
稔のLINEは…あっ既読になってる!
泉は立ち止まり、メッセージを打つ。

(どうしたの?)
(いきなりいなくなるから)
(心配したよ)
(大丈夫?)
ここまで送って泉はじっと画面を見る。
いいや、言いたいことはまだあるんだけど何だか違うな。
私の言いたいことってこれじゃないでしょ。心配なんてしてないし。大丈夫って…。
泉はスマホ画面を見つめ、
(いきなり出てくからショックだったよ!)
(なんか言って!)
とメッセージを打ち、ズーンと後ろ姿で落ち込んでるしば犬のスタンプをつけた。
息を止めて力んでスマホを見つめてるのもバカバカしいか…。
泉はスマホをバックに入れて歩きだした。
コンビニ寄って行こ。
帰ったって何もないもんね。
料理するのも面倒くさいや…。
はあ〜。
泉はカゴを持ち、棚から棚へ商品を見てまわった。飲料コーナーで甘夏サワーとさくらんぼサワーをカゴに入れる。
泉は甘いお酒が好きだ。
おいしそうな果物を強調した商品があると迷わずそれを選ぶ。
え〜と。つまみにお菓子買おっと。
柿ピーはいるでしょ。あとシュークリームもデザートにほしいんだよね。
あっ野菜も一応買っとくか…。
泉は野菜炒め用のカット野菜をカゴに入れた。はぁ、コンビニは楽しい。明るいし、
いつだって私の気持ちを嫌なことから紛らわせてくれる。
家の近所にコンビニがあってよかった!
泉はコンビニに感謝しながら帰路についた。

さて、帰ると部屋着になり、化粧も落とした泉はリラックスモードに切り替え、甘夏サワーをプシッと開けそのまま飲む。
あ〜おいしい!
柿ピーの封も開け皿の上にばら撒いて柿の種、柿の種、ピーナツの順番で食べていく。
そいでまたサワーを飲む。
あーおいしい。
ピリカラの柿の種ってマジでサワーに合うんだわ。
ビールにも合うけどさ。
柿の種の合間にピーナツがまた止まらなくなるんだよね。柿の種ばかりだと口が辛くなり過ぎるんだよね〜。
柿の種だけのパックも売ってるけど私は断然ピーナツ入りが好き!
あー稔とも柿ピー論を戦わせたなぁ。
稔は新潟の柿の種以外は認めないって柿の種に関してだけは偏屈な奴だった。
柿ピーばかりボリボリ食べていたら物足りない。所詮お菓子だもんね。
こういうのじゃなくてちゃんとした料理食べたい。
「野菜炒めでもやるかー。酔ったらやる気が出てきたぞ!」
その時、ピコンとLINE通知の音がした。
えっ?と泉は床に置きっぱなしのバックからスマホを取り出した。
見ると稔からだった。
ネコがごめんねと謝っているスタンプがひとつ。
泉はサーッと酔がさめていくのを感じた。
「稔?」
泉はスマホを見つめ正座した。
泉は(今どこにいるの?)と文字を打った。
ピコンとすぐ返事がきた。
(友達んち)とだけ。
泉はもやもやしながら
(もうここには帰って来ないの?)
と打った。
既読になるがすぐ返事が来ない。
(私たちお別れ?)
それにはすぐ
(ごめん)と返事がきた。
(そっか。わかった。)
泉は今までむしゃくしゃと胸の中に溜まっていたものがシューと抜けていくような気がした。そうだ。こういう人だった…。稔という人は、この人とは何となく一緒に住んで、何となく嫌なところを感じ、何となく離れていく。そういう人だったんだ。
(布団、どうするの?)
泉はまた文字を打った。
すぐ返事がくる。
(泉にあげるよ)
すぐに泉も打ち返す。
(いらないよ)
そこで稔からネズミが爆笑してるスタンプ。
泉はフッと笑ってしまう。
(マジな話、合鍵返すよ。明日会えない?)
稔のメッセージを見た途端、泉のお腹がぐぅと鳴った。

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