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地獄

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賽の河原で石積みをするわたし。
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#餓鬼

慈父

慈父

茂兵衛爺さんの掘っ立て小屋の中には土間がありカマドがあった。
爺さんはカマドに火を焚べて飯を炊いた。
「亡者は飯を食わなくともかまわないんだけどさあ!儂は生きてた時の習慣で飯の用意はするんだなあ!なにしろ餓鬼ちゃん達がくるからなあ!まんまを食わしてやりたくなるのさあ」
爺さんはぺらぺら喋りながら鍋に水とにぼしを入れ火にかけた。
おいしそうな湯気が小屋の中に立ち込めた。
食い物の匂いに餓鬼ちゃんはそ

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キツネかたぬきか

キツネかたぬきか

餓鬼ちゃんが生まれ変わりの光の中に行ってしまって私はしばらく呆然として過ごした。
茂兵衛爺さんは相変わらず庭で仏像を彫っている。
今度は木から仏像を彫りだしている。
木のなんともいえない、いい香りがする。
ひのき風呂の匂いを連想する。
地獄に生えるというのに、この木の香りはどこか魂を浄化させるような清らかな匂いだ。
私は迷っていた。
やむにやまれぬ思いでもう1度母の顔を見たい一心でここにたどり着い

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茂兵衛爺さんの庭

茂兵衛爺さんの庭

私は許されたいとも生まれ変わりたいとも思った事がなかった。
しかし苦しかった。
茂兵衛さんの庭に行ってから私は今までにない苦しみにとらわれた。
もう、賽の河原で石を積んでいる場合ではなかった。
ひとつ積んでは父の為。
もうひとつ積んでは母の為。
そんな物はすべてぶち壊しだ。
私は私の為に、今度は何かをせねばならぬ。
私はもう1度、茂兵衛爺さんの元へ行こうと決めた。
あのけもの道を行くのは怖いが今更

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心残り(後編)

心残り(後編)

けもの道を抜けるとひらけた場所に掘っ建て小屋があり、仏像がいくつも並んでいる庭があった。
私には仏像の事はわからないが地獄ではまず目にする事のない穏やかな顔をどれもしていなさる。
「おーい。茂兵衛さん。いるか?」
婆がでかい声で呼びかけると
「いるぞえ〜。誰だぁ〜。」と小屋の中から返事があった。
やがてごとごと音がして小屋から小さな爺さんが出てきた。
まん丸い目の愛嬌のある顔の爺さんだ。
頭に手ぬ

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