ヴァンテーヌ世代
穏やかなお天気の冬の日曜日。衣替えをしたきり、整理していなかったニットを分類して収納し直した。
買って一年で毛玉だらけになったアクリルのセーターを見てため息。
かれこれ30年前、フリーランスの仕事が安定してきた30代の頃。同世代のカメラマンが、わたしも好きな『エキプモン』のシャツを着てスタジオに現れた。新柄の話題で盛り上がりつつ、「そろそろ俺ら、素材だけでもちゃんとした物、着たいもんね」と話したのを思い出す。
当時は女性誌『ヴァンテーヌ』全盛期でもあり、素材重視のシンプルな定番服が注目されていた。
実際、わたしがその頃から40代まで買った服はウール、カシミヤ、シルク、レザーなど(どれも今だと動物愛護団体の怒りを買いそうな素材だけど^^; )が多い。あとは綿か麻。つまり天然素材ばかりだった。
が、帰郷してからは、ほぼファストファッション(ネット利用)しか購入しておらず、アクリルなどの化繊にも手を出すようになった。愛犬達の散歩、両親のヘルプ、雪片付けが中心の生活で着る服は、安くて手入れが楽ならそれでよかったから。
多忙を極めた30代40代と違い、ストレス発散のためのショッピングが必要なくなったし、在京中のようにふらりとウィンドーショッピングをしに行く場所も、着て行く場所もないし。
しかし、安さ重視で妥協した服に愛着は湧きにくい。安物買いの銭失いとはよく言ったものだ。結局、使い捨てになってしまう。
自分でショップに足を運び、実際に見て触って比べて、時には試着もして選んだ服の数々は、やっぱり今も好きだし、愛着もある。だから、なかなか手放せない。これは執着とは違う気がしている。
さっき引き出しにしまった『ジョンスメドレー』のタートルセーターやツインニットの数々は、かなり着込んだし、洗濯機で洗って来たのに、ほとんど毛玉はない。仕事服で活躍した『ノーリーズ』や、『ベイクルーズ』や『ロペ』のセレクトショップのニットだって、素材も仕立てもしっかりしているから傷みも型崩れもない。
われら世代の常套句かも知れないけれど、昔の服はよかった。破れたり、擦り切れたりするまで着たいのは、やっぱりあの頃買った服。繕ってでも着続けたいのでダーニングを始めた。
『マックスマーラー』や『コムデギャルソン』のデザイン性が高い服や、インポートのデコルテが大きく開いた服などは、きっとこの地では出番がないと思い、帰郷前に処分した。
結局、何十年経っても飽きずに着られるであろう服と、40代の頃に普段着用に誂えたきものの数々が手元に残っている。自分なりの価値観が確立したのが、おそらくあの頃だった。揺るがないし、変わらない。
新しい物を買い足すより、ある物を着倒そうとしみじみ思ったメルカリデビュー直前の冬の日。