目には見えない大切なもの
私が現在住む沖縄県座間味島は、那覇から海を渡り約40キロに位置し、世界でも有数の美しい紺碧の海に囲まれている。
近年国立公園にも指定され、観光客が絶えない人の出入りが激しい島である。
肌がジリジリと焼ける日差しの中、島は賑わいを見せる。
沢山の観光客が村を歩き通り過ぎていく風景の中にポツリ、ポツリと沖縄独特の拝所が佇んでいる。山々には御嶽も点在していて、信仰のあつい神秘的な島だ。
座間味島は人と自然を、祈りが繋げてきた場所なのだと思う。
そんな島で生きるおばあ(80)の人生史を聞いた。
彼女は昔から幽霊や妖怪が見えて、今では、神人と自分では言わないが、島で神人と同じことを頼まれて拝みを行なっている。
これからおばあの素敵な語りを少しだけ紹介したいと思う。話は小学生時代から始まる。
学校、(授業中)座っていたら、毎日私を呼ぶ人がいるわけよ。最初みらんふりしていたわけさ。なんか見たらさ、小人みたいな感じするわけよ。で、おいでって(私に)言うわけよ。休み時間についていったら、あの時は山の苔がいっぱいあるわけよ。そしたら、あっちに連いていったらさ、天使がいっぱい飛んでいるわけ、小さい。チカチカして、何だろうって見ていたら、トンボみたいに顔があって、足もあって、飛んで歩くわけ。そして苔に眠るみたい、降りてから。私もさ、これ見てから、いつも眠たくなるわけよ。そしたら先生がさ、お家にいってから(母親に)「またおばけと逃げて行っている」って言うって。そして私が山から降りてきよったからさ、先生待ち構えていて「今日どこ行っていたの」って言ってから、(私が)「今日こっちの山に行っていた」って、(先生が)「またおばけと逃げていたの」って、(私が)「おばけじゃない」って嘘言うわけさ。先生に何回も叩かれてよ。しょっちゅうあった。小さい時からおかしかったよ。全然勉強しない、こんなんに目光らせよった。
じゃ、またおいでって呼ぶわけさ。
また別の日、うちの母が怒ってバナナとってから、わったーが食べるって、食べささないってドラム管に隠しているわけさ。そしたらこっち乗って2人(従姉妹と)でバナナ取ったわけさ。で、いっぱい食べてからよ、お母さんが来るよって逃げたわけ。そしたらさ、わったー実家の大きな木があって、これだけ穴がほげていたわけよ。私この穴に隠れたわけ、こっちに葉っぱがいっぱいふさがっているから見えないわけよ、外から。で、お母さんは薪持ってから、出てきたら叩くってから立っているわけよ。そしたら、こうして(覗いて)見たらさ、キジムナーの親子がよ、不思議なもんでよ、チンナンとか、あんなもんみたいなのを食べるの。持ってから、吸って、実が抜けるわけよ。そしてスって私の顔見てギャーって逃げていくわけ。あんなんしてご飯食べるんだねって思った。
そしたら、何年前かね、最近見えないから私が「あんたたちどこ行ったの」って声かけたわけさ、大きな声でよ。「ヤンバルにいる」っていうわけ。皆移ったって、こっちはもう電気もすごくて、もうおられないから、そしたら来るとき合図していいねって。ヤンバル行ったっていうとみんな笑うわけさ。
キジムナーとは
沖縄諸島周辺で伝承されてきた伝説上の生物、妖怪で、樹木(一般的にガジュマルの古木であることが多い)の精霊。
Wikipedia引用
この話を聞いて信じる人はどれぐらいいるだろうか?
どこか絵本で聞いたような話だと、
おばあの妄想の世界のような話だと、
言うかもしれない。
でも、この座間味島では当たり前に存在している世界だと、私は思った。
おばあの「語り」は
ここに存在した事実なのだ。
この島にいると目には見えない大切なものがあることに気がつく。
心震えるほど美しい海と、自然豊かな山に囲まれて、人々が祈りを捧げている。
目には見えない何か強い力がここにはある。
だから、苔の上に天使が眠っていても不思議ではない。キジムナーがいたのに、いなくなってしまっているのも不思議ではない。
私には見えていないだけで、そこに存在していると思う。
今は沢山の人が入ってきて、祈りが減って、目に見えないものを大切にする人が減ってきた。
これからおばあが見えている世界がなくなっていくのかと思うと悲しい。
だから、おばあの見たモノの話をもっと沢山聞いて、書き残したい、と思っている。
おばあの語りは、座間味島の人たちが、祈りを大切に、目には見えないものを大切に生きてきた証だと思う。
山に登り、耳を傾けたい。
海を眺め、耳を傾けたい。
声が聴こえてくる気がする。
おばあが出会ったモノたちは、まだすぐそばに居るのかもしれない。
p.sこの記事を読んだ友達から
北部住んでた時に仲良かった近所のおじぃも妖怪とか幽霊見える人で、キジムナー近頃はみーんな北部に逃げて来てるよって言ってた。
とコメントをもらった。
すごいね。
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