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書籍「種を蒔いて、水をやる -27のプロジェクトから観察するコンピュテーショナルデザイン・デジタルファブリケーション」が世に出るまで

「種を蒔いて、水をやる」に込められた想い

 本書を執筆しているND3Mは、コンピュテーショナルデザイン・デジタルファブリケーションをもとに新たな建築を模索するギルド集団と自らを表現しています。
 発足した2019年では建築情報学会が設立される前でした。当時のメンバーの大半が居住していた名古屋では、建築情報学研究室がほとんどなく、コンピュテーショナルデザイン・デジタルファブリケーション技術を用いた教育も実務設計での活用事例も希少であったと記憶しています。さらに2020年にはコロナウイルスが流行し大学構内に立ち入ることも対面で人と過ごすことも自粛が促されオンラインで人と繋がる生活が続きました。その状況下で、それでもコンピュテーショナルデザイン・デジタルファブリケーション領域でモノづくりをしたい、そういう想いで集まった学生(当時)が、「研究室がないならば、誰も教えてくれないならば、勝手に自分達で実践してしまおう」というノリで始めた活動がND3Mです。

 もちろん2010年代前半から建築情報学的な取り組みやデジタルファブリケーションの潮流が国内にあったことは知っています。一方で、著者らが学生時代を過ごした2010年代後半において、一部の地域や研究室を除き、建築情報学的教育が確立されているとは決して言えない環境でした。手探りで手を動かす日々の中で、図書館・ネット上のテック記事・専門誌を家の中で篭って読み漁り、面白そうと思うネタを集めてはプロトタイピングをし建築に生かすにはどうしたら良いかを議論する日々を過ごしました。

 異分野領域や新領域・新技術から既存の建築領域へ生かせそうな「種」を自分で見つけて、目の前の何もない土にひたすら蒔いて、水をやるようにプロトタイピングを繰り返しました。試行錯誤の中からいくつかは実際に社会実装に繋がったものも生まれ始め、種から芽が出て花が咲いて少しずつ目の前の景色が豊かになったような気がします。

 気づけば5年が経ち、発足時に学生だったメンバーも社会人となり、さらに新たに入ったメンバーも含めると、東京・名古屋・豊橋・大阪・京都で活動するようになりました。
 プロトタイピングレベルのものに収まらず、オフィスの改修・建築の実務設計施工への応用・パビリオン・プロダクトデザインなどのチャンスにも恵まれ、振り返ってみると、本当にたくさんの芽が出たように感じます。
 一方でまだまだ大きな花が咲くところまでは至っておらず、広い世界に種子を蒔くことはできていません。

 「種を蒔いて、水をやる」
 タイトルには、いずれ大きな花が咲いて世の中に広く種子を飛ばして領域を拡げるプロジェクトを生み出すために、幾度と種を蒔き、試行錯誤するという想いが込められています。
 本書を通して、我々が見つけた種の可能性とその育て方について、様々な人と議論をしたいと思っています。

本著を通して観察する27のプロジェクト

本著の目次を紹介します。

■WORK SHOP・RESEARCH etc:沢山の種を広く蒔く取り組み
01 3Dprinting ジョイントで繋ぐパスタと建築情報学の輪
02 デジファブを使った成長するインスタレーション
03 竹材料の活用方法をデジファブから模索しおでん屋をひらく
04 300の事例から分析するデジタル木加工の歴史とデザイン
05 みえないモノをみようとして。最小のプロジェクトへの挑戦
06 地方で STEAM教育を盛んに
07 デジタルツインとミラーワールド
08 バーチャル地鎮祭を通して考えるギークと文化
09 New Node モビリティによる移動と結節点のデザイン
10 脳みその中を可視化する
11 モノづくりのプロセスに立ち返る

■FIELD WORK:新しい種を見つける取り組み
12 自然の中で感じたものを表現するコンピュテーショナルデザイン 
13 新しい種を見つけるために、自然と日常の中で、探検する

■PRODUCT DESIGN:芽吹いたものを育てる
14 目に見えない音をマテリアライズするコンピュテーショナルデザイン
15 伝統工芸とコンピュテーションとデジファブと
16 感覚的にデザインすることを目指して
17 フォトグラメトリと3Dプリントで小さなサービスを
18 時間で変化する一期一会の光 

■PAVILION:芽吹いたものを育てる
19 偶然性と必然性の融合から生まれる予測不可能性 
20 街をまきこんだコンピュテーション・デジタルファブリケーション 
21 環境に呼応してゆらぐ生き物のような空間を

■ARCHITECTURE:森を創る
22 主役を引き立てる影武者としてのデジタルファブリケーション
23 建築空間スケールでのコンピュテーショナルデザイン・デジタルファブリケーション技術の実践
24 落語とテンセグリティー
25 ローカルな場で実践するデジタルファブリケーションと建築

■NEW PROCESS:新しい育て方を見つける
26 Houdiniの建築的利用の幕開け
27 土壁を用いた3Dプリンティングと建築への挑戦

■DISCUSSION RECORD
○RECORD 1 独学的建築情報学から社会実装まで
○RECORD 2 コラボレーションによるモノづくりが映し出すコト 

今後の動き

2024年11月24日に5周年を迎えます。
この領域における5年間をリアルな目線で論じ、アーカイブしました。
2024年12月に小部数で自費出版予定です。関係者のみに献本・販売等します。

一般販売については今回は行いません。
一般販売、出版社からの出版、流通については、今後、追々発信します。

書籍が世に出るまでを少しずつ発信します。お楽しみに。


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