スタートアップM&Aの規模化と質の向上、事例から考察(その3)「買い手の多様化」
スタートアップM&Aの規模化と質の向上について、前回は、スタートアップM&Aの規模化と質の向上を、事例から考察(その2)としてPaidy(PayPal)以外の様々な事例をご紹介しました。
今回は、近年少しずつ進んできた「買い手の多様化」について事例などから考察してみます。
従来は、日本のスタートアップを規模感ある金額で買収するのはヤフーやKDDIくらい、と言われてきましたが、近年、ようやく買い手候補の多様化が進み始めています。
事例から見ると、4つの買い手のタイプに分類できると考えます。
以下、それぞれをもう少し詳しく見てみます。
①新興上場メガベンチャー
上場後も成長の加速を企図し、最も活発な買い手候補タイプの一つです。SaaS上場企業等がM&A専門チーム・担当を内製する形が増加しております。
元々スタートアップだった経験からカルチャーフィットもしやすいと考える傾向があります。
ただ、上場後の四半期毎の損益が安定していない会社も多いため、のれん償却の損益への影響を強く意識しているケースもあり、価値評価や取得持分、取得対価に対する考え方は各社様々です。
具体的な会社の事例は、フリー、マネーフォワード、Sansan、JMDC、SHIFT、DeNA、mixi、ユーグレナ等です。
②海外の事業会社・グローバル企業
スタートアップM&Aの規模化、という観点では、グローバル企業に関心を持たれる存在か否か、は特に重要です。
買い手側はグローバルに事業を展開している会社が多いため、日本のスタートアップ経営陣側の海外コミュニケーション力の高さは重要となります。
具体的な会社の事例は、PayPal(Paidy)、Google(Pring、SHAFT、フィジオス)、Lionbridge(Gengo)、American Express (ポケットコンシェルジュ)、Baidu(popIn)、Appier(Emotion Intelligence)、 Match Group(エウレカ)、Zynga(ウノウ)、モデルナ(オリシロジェノミクス)等です。
(注)括弧書きが売り手となったスタートアップ側です。
③未上場メガベンチャー
PEファンドや機関投資家から大型調達した会社の動きが活発です。スタートアップ同士が経営統合してより大きな事業規模と大型IPOを目指す例もあります。
具体的な会社の事例は、Hey(ベインから調達してクービック買収)、AnyMind(JPインベストメントや野村スパークス等から調達、PKKT等買収)、ADDIX(エンデバー・ユナイテッドから調達してピークス買収)等です。
④旧来の大企業
そもそもスタートアップM&Aの検討スピードが合わないとか、M&A後にカルチャーが合わなそうとか、PMIのハードルが高い先入観が持たれがちですが、日本経済における日本の大企業の存在感や海外企業には無い独自の技術力・組織力、潤沢な資金力を勘案すると、重要な買い手候補です。日本のスタートアップM&Aの規模化と質の向上が、日本経済に大きく影響を及ぼすレベルでインパクトを出すには動かさなければいけない岩盤のような存在でもあります。
具体的な会社の事例は、日立製作所(Kyoto Robotics)、凸版印刷(ブルックマンテクノロジ)、 KDDI(ソラコム)、ノーリツ鋼機(ドクターネット)等です。
スタートアップ起業家・経営陣の視点では、買い手の多様化は選択肢が増える意味で歓迎すべきですが、それぞれのタイプの特性、個社ごと(さらには役職だけでは見えない実質的な意思決定者の人物像等)の違いを見極めながらスタートアップM&Aの参考にしましょう。
今回は個別のスタートアップM&Aが上手くいったか否か、などには踏み込みませんでしたが、「質の向上」という観点でPMIの成功事例などにご関心がある方は、こちらの記事もご参考です。
https://note.com/jaws/n/nb7600951642e
次回は、スタートアップM&Aの規模化と質の向上、事例から考察(その4)「買収手法の多様化〜ステップアップとアーンアウト編〜」です。
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