見出し画像

消滅家族の記録 3 共産主義と警察権力

 安倍政権下で成立した改正教育基本法の成果なのか、右翼的若年層が増え、口を開くと「共産主義は怖い」と煽る。

 共産主義は怖いのか? 戦前の天皇制・軍国主義のほうがよほど怖い、と私は思う。

 資料によると、1925年に公布された治安維持法によって逮捕された共産主義者ほかは数十万人、虐殺死65人、拷問・虐待死114人、獄死1503人。

 有名な事件は1933年に起きたプロレタリア作家・小林多喜二の虐殺だ。警視庁特高部長・課長3名の手により築地警察署で虐殺され、遺体は母親の家に投げ込むように持ち込まれた。手を下した3名は戦後も罰せられることなく、叙勲・顕彰されたという。

1933年に起きたプロレタリア作家・小林多喜二の虐殺

治安維持法公布によって起きた弾圧は日本史で学んだが、近代史上の史実で、一部の人たちが巻き込まれたこと、と思っていた。それが、私の母や母の姉が1928(昭和3)年3月15日の共産党の一斉検挙(三・一五事件)を目撃していたのだ。

 母は生前、以下のことを話していた。
 小さい頃は、街角で演説する人をよく見かけたが、景気が悪くなったのか、そのうちにバイオリンを弾きながら「船頭小唄(枯れすすき)」などを歌う辻音楽師が来るようになった。
 そんな頃、学校に警察の人たちがやってきて、何人もの先生たちが連れ去られ、帰ってこなかった。
 母はその日経験した恐怖は、忘れられない、と言っていた。
 
 そして、三・一五事件はこんな出来事に繋がった。

 しばらくして、いなくなった先生の代わりに、代用教員の人たちがきて教えることになり、平穏な日々が戻り、学校生活も落ち着いてきた。
 そんな矢先、6年生だった母の姉のクラスで、とんでもないことが起きた。女子生徒の妊娠が発覚したのだ。妊娠させたのは代用教員の若い先生。今なら、未成年淫行で逮捕される事件だが、当時は今とは考え方が違い、四方八方丸く収めよう、ということになったらしい。二人を夫婦にさせ、めでたし、めでたし。
 しかし、13歳で出産するなんて、想像するだけで気絶しそうだ。

この写真の女子生徒の一人が13歳で母親になった。前列、左から一番目が母の姉・多加子

 私も、警察権力は怖い、という体験をした。
 2018年に、好奇心からデモ・ウォッチャーになり、ツイッターでデモの呼びかけがあると、手製のプラカードを持って参加し、その様子をツイートしていた。
 3月のある夜、デモに行くと、国会議事堂前駅の出口を出たところで、群衆と機動隊がもみあいになった。そのとき、もみくちゃになり息もできない状態になって、圧死するかと思った。一瞬、60年安保闘争の樺美智子さんが思い浮かんだ。
 過激派でもない、普通の人たちが集まっているだけなのに、機動隊の人数が異様に多く、機動隊バスがズラリと並んでいた。日ごろの訓練を誇示したかったのだろう。
 この人たちは、銃を持っていれば撃ちたくなるのだろう、と思った。

 私を含めて、うちの家族の実体験では、共産主義より警察権力の方がよほど怖い。

2018年3月、国会議事堂前駅の機動隊
ズラリと並んだ機動隊バス

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?