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森林の中が人間だけになっちゃうと大変だしね

Vol.2の記事で紹介した杉林とカラマツ林を見た後、「山に行ってみよう」と和さんに連れられて、薪の駅沿いにある道路をさらに上へと進んでいく。

ここでも道中で植物クイズ。木に巻き付くツルを指差して、「これはなんだかわかるかな?」と和さん

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「これは藤のツル。昔の人は山に行く時にナタを持って、ツルを見つけたら切って歩いていたんだよ。ツルが巻き付いている木は倒そうとしても上手く倒れなかったり、巻きついた木を絞め殺しちゃったりするからね」

「でもそうやってツルに絞め殺されて、森の木が全滅するかっていうとそうはならない。藤は日が当たるところだけに生えるから。だからこの林だけでもあるのは道路側だけ。日当たりが悪いところにはないんだね。で、藤が悪者かっていうとどうなのかってなると、やっぱりそれは人間の考えのもとでしかない」

木を育てて、収穫し、販売しようとする人の目線で見ると、木を収穫しづらくしたり、絞め殺してしまう藤のツルは悪者に感じてしまう。しかし、「逆にそういうものも資源にできるはず」と和さん。例えば、ツルは縄文時代に家や道具を作るときに結束するためのものとして使われていたり、最近では籠などを作る籐細工の材料として使われていたりする。そう考えると、十分にツルも森の資源だ。

「ただ邪魔者と考えるんじゃなくて、今この条件で何が見つけられるか。そういうアイデアが今すでに森林に関わっている人にはないわけだ。だから、ツルのことだけじゃなく、違う発想が欲しい」

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和さんのいう「山」へ

そうして話をしているうちに、和さんがいう「山」に到着。斜面にたくさんの杉が生えている。

「本来山ってこっちなんだよ。こういう斜面」

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すごい急斜面に木がたくさん生えている。なるほど、これが山。
この斜面を和さんと一緒に上がっていく。

「さっき話したように、ここで雨が降るとどうなるか。ここは土も露出しているでしょ。で、下には川がある。ゲリラ豪雨がきたら、沢を土が埋めてダムを作る。で、木が流れていったらそれが耐えきれなくなって、さらに下に下に流れていく。この斜面にある木が放置されていると、そうして災害の原因になったり、問題になることがあるんだよ」

立ってるだけで、落ちていきそうになるほど急斜面の山。たしかにここで土砂崩れが起きたら、たくさんの木と土が流れ出ていってしまうことがわかる。ここに植えられている杉も、もともとは人が植えたもの。それがこのまま斜面で放置されると、大変な災害が起きてしまう。

そうした状況になることを防いで、森を守るために、和さんはこうした山でも間伐を行っている。
きっととても大変な作業だけど、「山仕事」の「山」が指すのはこういう場所だから、この斜面で作業するのも当たり前なことらしい。

「ここは間伐を始めて今年で3年目。ここにある切り株はここ2年で切ったやつだね。これまで相当切っていると思うよ。やっぱりこのくらい間隔があかないと適正に育たないんだよね。で、上を見るんだよ。さっきの杉林に比べて空が見えるでしょ?」

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この山は光が差し込んでいて、灌木が所々に生えている状況が作られている。和さんが遠野エコネットで取り組んでいる「薪の駅プロジェクト」での活動を通して、徐々にいい状態の森ができている。

それにさっきの森林より明るく感じるのは、斜面ならではの特徴もあるらしい。
斜面に生えている木はそれぞれ長さが均一に育つため、高さが斜面に沿って上から下へ角度ができる。そのため、それぞれの木に光が当たりやすいのだという。だから光合成のことだけを考えると山に植えるからこそいいこともある。しかし、一方で斜面にかかる重力によって、木が曲がり、年輪の幅が均等じゃなくなるなど、木材としてのデメリットができてしまう。

「市場に曲がった木を出せないけど、そういう曲がったやつも逆になにか生かせるようなアイデアがあるといいよね。そういうことが必要なわけ。さっきのツルでもいいし、曲がった材でもいいし、葉っぱでもいいし」

「でもそのアイデアを考えるには、本を読んだりするだけじゃわからない。だから一回森に、林に行ってみることが大事」

森林分野に関わる地域おこし協力隊に求められる役割の一つは、今ある森の資源をどう活用するか。そのためにこうして森林や山に行くことが大切。今の森林で起きていること、生えている木々や植物に目を向けることで、人それぞれイメージできることがたくさんあるはず。

「じゃあもう一箇所、今年から管理をする予定の森があるから、そこにも行ってみようか。きっとそこでも地域おこし協力隊になる人の活動を考えるためのヒントがあるから」(和さん)

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貞任牧野農業協同組合の管理する森林へ

薪の駅から車で30〜40分移動し、到着したのは「貞任牧野農業協同組合」の敷地。
牧草地として使われていた土地に木が植えられて、その後手入れができずにいたところを「どうにかできないか」と相談があり、今年から遠野エコネットが管理することになった場所だ。ここにはたくさんのアカマツが植えられている。

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「ここではどう感じるかな?標高が高い場所だから木の高さが低いよね。それに風とか雪とかで折れちゃってる木が多い。なかなかここでは木が育ちづらいんだろうね」

「それに、ここにある笹はすごく背が低いよね。鹿がたくさん食べているんだよ。きっとここには何十頭もいるんだろうね」

と和さん。街から車で30〜40分くらい離れた場所が鹿のすみかになっている。もちろん鹿がいることが悪いことではないけど、どんどん荒れた山が増えて、動物のすみかと人の住む場所が近くなってしまっているのはVol.1でも伝えたとおり。和さんは「ここを手入れするのは頭が痛いよ」という。

「山主の要望がないからさ。どうしたらいいかわからないから、なんとかしてくれって言われてる。山主も経済性を考えられないんだけど、そうは言ってもお金になれば嬉しいわけだ。もちろんこういう状況はここだけじゃなく、他の山でもそうなんだよ」

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「ここは木の種類がすごく貧弱なのさ。木の芽がシカに食べられるから、シカが嫌いな植物だけが残っている。本当に困った林だ」

「ここをこれからいい森にするのは100年くらいかかる。10年、20年じゃすぐ変わらない。森づくりは1代じゃできないからね」

和さんの話を聞きながら、森林の中をぐるっと一周回る。
紹介してもらったのはアカマツの他に、ダケカンバや桜、山ぶどう。
たしかに和さんが言う通り、アカマツがほとんどで、木の種類が多くない。

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でも、この森の中には川があって、キャンプしたり、ピクニックするのによさそうな場所があったり、風で倒れて枯れた木がアート作品のようにかっこよく見えたり。和さんは「困った林だ」と言っていたけど僕はここを歩いているだけで、すごく楽しく過ごしていた。

もちろんそれは完全に僕の主観でしかないので、森としていい状態なのかどうかはわからないけれど、十分に魅力がたくさんあるこの森が困った森なら、和さんが考えるいい森ってどんなものなんだろう?

「何をいい森にするかっていう考え方がみんな違うから。俺だって偏ってるし。でも、いろんな種類の木があったり、生き物がいたり、大木があったりするといいかなと思う」

今回この松林を回っている途中、和さんは枯れた木を指差して、

「この枯れた木って何の役にも立たないと思う?人間だけの視点で見ると、そうかもしれないけど。ほら、この木は穴があいてるでしょ?これって誰があけたと思う?あれは鳥があけた穴。キツツキがあけた。キツツキがひなを孵すために、あそこに巣をつくったんだろうね」

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「普通山の手入れをしようとするとこういう枯れた木を除去しようとする。でも、山や他の動物のことを考えると、倒さなくてもいいんだよ。それにこの枯れた木は他の木の成長の邪魔をしているわけでもないし」

ということも教えてくれた。

地域おこし協力隊に求められているのは「森の資源を活用すること」と繰り返し伝えてきたけど、森の資源を活用するという視点が人間だけに偏ると、森はどうなるか。

和さんと一緒に森林を歩いて感じるのは、和さんは人間だけの利益になるような森林や木をつくるのではなく、いろんな種類の木々や草花、動物のことを意識しながら、森づくりに関わっているということ。

木々がよく成長し、土の中で微生物や虫が育って、その周りに動物が住む、気持ちよく光が差す森。風や雪で自然に倒れて枯れてしまった木々に、鳥や小動物が住みつく森。

今日1日森林を周りながら和さんが説明してくれた「いい森」の状態は、必ず人以外の生き物がたくさん関係している。

「木の名前、草の名前、鳥の名前とか覚えると山に来る楽しみが増えるの。お友達が増える感覚。名前だけ覚えるのに夢中になると暗記魔みたいになっちゃうけど」

「森林の中が、人間だけになっちゃうと大変だしね。山や森林ではいろんなのと友達になれるから、それが楽しいのさ」

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わくわくしながら考えてみるのもいいと思う

所々生えている木々や雑草に目を留めていろんなことを教えてくれたり、道中に飛んでいる鳥が何の種類かを知るためにじっと見たりする和さんは、「困った林だ」と言いながらも、山や森林で過ごすことがとても楽しそうだった。

きっと好きだからこそ、困った状態や悪くなっていく状況がほっとけないんだと思う。

これまでの記事の中で、今遠野の森林で起きているたくさんの課題を伝えてきたけど、やっぱりまずは和さんが話す友達が増えていく感覚や、僕が感じているような自然に囲まれる気持ちのいい場所で過ごす心地よさなどの楽しさを知ってほしい。

「なんとかしないといけない!」という感覚もきっと大切だけど、「もっとこの場所を楽しむにはどうするか」、「もっとこの資源を使っていろんな遊び方ができないか」とわくわくしながら考えるのもいいと思う。

和さんの話を聞いて、和さんと一緒に森林を歩いた2日間だけでも、僕はすでにいろんなやってみたいことが浮かんできた。

これから地域おこし協力隊になって、森林に関わろうとする人ともぜひ一緒に森林を歩きながら、たくさん話をして、一緒に考えてみたい。

Vol.3の話はここまで。それでは、また次回。

遠野市地域おこし協力隊採用募集
④テーマ型自由提案【テーマ:森林】 募集人数:1名
【パートナー】
NPO法人遠野エコネット代表 千葉和さん
1963年岩手県岩手町(沼宮内)生まれ。大学卒業後、国内外を回り1991年より遠野市へ移住。現在は薬師岳山麓(標高550m)に自力で家を建て暮らす。仲間たちと編集委員会を作り遠野の文化、自然にこだわった情報誌『パハヤチニカ』を1994年から発行。NPO法人遠野エコネットという市民環境団体の代表理事として、子ども達とのエコキャンプや水源の森づくり、また間伐材を活用した薪の駅プロジェクトや高校生との炭焼き伝承活動などにも取り組んでいる。1993年~2009年まで早池峰国定公園保護管理員。

【求める人物】
・森林や林業に興味があること、それに関わることに可能性を感じる方 ※森林や林業等に関する知識・経験の有無は問わない
・物事に課題意識を持ち、それを良くしていこうとする熱意と行動力がある方
・自分自身が取り組むプロジェクトプランを描ける方
・地域の様々なプレーヤーと連携してプロジェクトに取り組める方
・プロジェクトに取り組む先に地域の未来像を思い描ける方

【ミッション/ロードマップ】
1年目 ヒアリングや研修
ー地域の森林を取り巻く全体的な現況を把握するため、森林に関わる様々なプレーヤー(林業会社、森林組合、NPO、製材所、木工団地、工務店、木工作家等)の実態調査を行う。
ー国内外の林業や森林資源の活用等に関する先行事例の調査を行う。
ー地域の森林業界の課題や可能性について検討する。
2年目~ 新たな可能性の発掘と実践
ー様々なプレーヤーやもともとある森林資源と自分自身が持っているスキルや経験、知識とかけ合わせることで、新しい可能性を生み出せるよう、検討と実践を進める。

<仮エントリー申し込みフォーム>
◎仮エントリー専用フォームはこちら(申し込み期間:6月1日〜7月25日)

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