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「地域デザインは、みんな必要とわかっているのに?」 地域に溶けこむ、四者四様のアプローチを紐とく
「おもしろい地域には、おもしろいデザイナーがいる」 2022年3月に学芸出版社から刊行された一冊『おもしろい地域には、おもしろいデザイナーがいる -地域×デザインの実践(以後おもデザ)』での言葉。
新型コロナウイルス禍で首都圏からの人口分散が進むなか、「あの地方に住みたい」「この産業に関わりたい」と“おもしろさ”を基準にあたらしい地域を選ぶ人たちが増えているようだ。では、地方のおもしろさとはなんだろう。
目をこらしてみるとおもしろさをつくる、地域に根付きながら明るい未来をデザインする人たちの姿があります。今回、燕市にあるFACTORY FRONTが主催する「おもしろいモノづくりには、おもしろい編集思考がいる?『おもデザ』出版記念トークin燕三条」からそのヒントを探ろう。会場はFACTORY FRONTのお隣武田金型製作所で行われた。
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SANJOPUBLISHINGでも「おもデザ」は絶賛発売中。
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編集とデザインと関係性ってなに?
武田修美さん(以後、武田):私たちMGNETでは「まちのソーシャルデザイン企業」と掲げていることもあって、広義のデザインには可能性も必要性も感じています。また燕三条地域を中心に日本各地のクリエイターさんと関わるなか、デザインは地域にとって本来相性が良いものなのではと思う。
ただ地域にこうしたデザインが根付くにはまだまだ違和感を感じる場面もあり、今回は日本各地やゲストの皆さんの事例を含めて対談したい。この思いが開催の経緯です。
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武田:まず、そもそもデザインとは? と語りだすと時間内で終わらないと思い、デザインにおける「編集力」に絞って話を切り出したい。
あくまで私視点の話ですが、編集とデザインは切っても切り離せない。デザインには可能性と必要性があると仮定した場合、可能性とは「〇〇が実現できる見込み」。言い換えると理想をとも読み取れる。ある種のアートやセンスに似た抽象度があると思う。
一方、必要性は「〇〇がどれだけ必要であるかの度合い」なので現実的というか、実施するに至る具体的根拠のような性質。そこを行き来しながら徐々に答えをまとめ上げていく思考プロセスが編集力なのではと考えます。
デザイナーさんは無限にある可能性にアプローチしていくのだろうと思いつつ。社会的、世間的には必要性が求められる状況も多々あり、揺さぶられることも多くあるのでは。その辺をまず編集者の中井きいこさんにもお考えを聞きたい。
中井きいこさん(以後中井):編集者視点で伝えると、私はこれまでに出版社で勤めてきたので出版社としては必要性がある話。
しかし、売上という必要性で終わってしまうケースも多々ある。これからの編集を考えた場合、可能性に対しておもしろがる人が多いので可能性も必要性も分かちがたい印象です。
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中井:
地域系の雑誌ではこうしたおもしろがる人たちを取り上げていますが、私自身生々しさがまだまだ足りないなと。
おもデザをつくる上で、「当事者は何を考え、どう生業にしているのか。またこれから目指す先とは?」とそれぞれの可能性を踏まえて書いてもらいました。製作陣でご一緒した新山さんはどう思われますか。
可能性と必要性、そして頼まれていない仕事をつくること
新山直広さん(以後新山):おもデザに掲載される地域デザインの共通項って、きっと「このロゴデザイン、かっこいいでしょ」というデザインの良さだけではなく、プラスアルファで頼まれていない仕事もやっている。僕でいうと今、住んでいる鯖江市での取り組みもそう。
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新山:
鯖江市は燕三条地域、東大阪地域とならび地場産業のまち。メガネフレームの国内生産量のうち96パーセントがこの鯖江市、しかも市内には530社ほどのメガネに関わるしごとがあります。
私たち、TSUGI(ツギ)はデザイン事務所であるものの、たとえば福井県鯖江市と越前市、越前町で開催する持続可能な地域づくりを目指す工房見学イベント「RENEW」を手掛けました。また、メガネフレームと植物性樹脂などを組み合わせた自社アクセサリーブランド「Sur」など“つくる、ささえる、つなぐ、はこぶ”を最適にするデザインを行なっています。
加えて、行商型ショップ「SAVA!STORE」では自社商品以外にも産地の商品を販売しますし、産地の強みをどう転用するか、TSUGIならではのクリエティブでの可能性を発揮できるのではないかと考えています。なぜ販売まで行うかというと、地場産業のある地域デザインの入口って「お前の仕事(デザイン)で物は売れるのか?」とお客さんの問いから始まるから。鯖江市ならメガネのしごとが無くなると会社、地域が潰れてしまうあやうさがあるからです。
だから大袈裟かもしれませんが、鯖江市に対して産地の意識改革を起こして、「アップデート工芸産地」を。それが、私たちのデザインのアイデンティティにしていこうと。
武田:
鯖江市と燕三条地域、産地としてのつながりを感じるんですよね。RENEWのお話がありましたが視察でお邪魔してみて……すごい。すごすぎたんです。だから、工場の祭典に関わっている私たちも負けていられない。続いては坂本大祐さん。お願いいたします。
地域内で完結することであたらしい生業をつくる
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坂本大祐さん(以後坂本):
私は現在東吉野村に住みながら、奥大和地域で生産された果物や薬草を使用した奥大和ビールを始めビールが飲める場「TAP ROOM」、ビールを学ぶ場「TAP STUDIO」、醸造所に隣接する泊まれるゲストハウス「TAP to BED」などトータルブランディングを行っています。他にも奥大和地域を舞台に山とトレイルラン、アートを絡めた「MIND TRAIL」。
そもそも奥大和地域に馴染みがない方もいらっしゃるかもしれないので、どんな地域なのかをお伝えします。我々のエリアって山ばっかり。ただその自然を活用し、山奥にアートピースを点在させてトレイルランさながらで歩いてみつけてもらう。その足跡が、美術館みたいになってほしいと考えて地域をキュレーションする意味合いで、ことしは6月からMIND TRAILをスタートする予定です。
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坂本:
さて話が前後しましたが、私たちが住む東吉野村について。人口5500人、高齢化比率が54パーセント。私が2006年に移住してみてわかったのがほとんど山、人が住む村との比率を比べても90パーセントの割合が山となる統計があるほど。基盤産業の林業ではあるものの、ほぼ唯一の自慢。ただ、人口減少にともなってわかりやすくいうと仕事がなくなっている。
合同会社オフィスキャンプでは我々移住者が中心となって2015年にコワーキングスペース「オフィスキャンプ東吉野」をつくりました。たくさんの方たちがオフィスキャンプ東吉野に来てくださって。2022年までに9000人ほど現地に足を運んで、約27名があたらしい暮らしをここ東吉野で始めてくれました。
そのうち移住してくれた一人。我々の社員になってはじめたのが林業を絡めたプロダクトづくり。東吉野で伐採できる吉野スギを15から20面のランダムな多面体に加工した「積み木」を制作して2021年にグッドデザイン賞に選ばれました。
苦労話でいうと我々が目指すデザインを理解し、つくれる林業の職人と出会うまですごく時間がかかったこと。関係性を含めてね。現在、その職人も我々の社員として招き、積み木の色塗りもこの村にご夫婦で移住してくれた奥さんに。我々はこうした取り組みを地域内での「完結型プロダクト」と呼び、材料から加工、仕上げ、出荷まで行えるメーカーになってきた状況です。
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武田:
坂本さんたちがつくる積み木は私たちのFACTORY FRONTでも取り扱っていますが、地域の知育玩具的な要素があって子どもにも大人にも大人気です。お店でも坂本さんのお話をふまえてお伝えしようと思います。では最後は、迫さんにお願いいたします。
「明るい未来を原動力に」 地域デザインでの可能性と必要性、自己表現
迫一成さん(以後迫):
はじめに、参加者のみなさんにお聞きしたいことがあります。私たちが行う新潟市上古町商店街内にあるお店「hickory03travelers」に訪れたことがある方は挙手を。
(大半の方が挙手)ありがとうございます。
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迫:
私たちは2001年から、「日常を楽しむ」というコンセプトでデザインの事業を行っています。はじめに行ったのがToC向けの店舗事業。(謙遜しながらも)たいしたデザインではありませんが、自分たちでグッズ制作やプリントTシャツ、トートバックをつくるところから始めました。
続いてはブライダル事業ですね。私自身結婚したことを機に「結婚式用のギフトって、もっといいものがあってもいいよね」と思い、関連商品を展開しました。そうすると、商品展開や印刷の技術が上手くなってきまして、個人以外にも企業からご相談をいただくようになります。ただ企業のしごとをすると予算が決まっているしお金の捉え方、価値の持ち様が異なることに気づきました。
では、お店がある「上古町商店街ってどうだろう」とすこしずつ目を向け始めたのが2003年頃。新山さんがおっしゃっていた、頼まれていない仕事がここにあたります。
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迫:
私たちがお店を構えたときは「上古町商店街は人がいなくなった。昔はね……」など無茶苦茶言われていた時期でした。でも私自身、大学時代に社会学を専攻してきたこともあって、「〇〇らしさとはなんだろう?」と疑いをもつ癖がついていたので。
そのらしさとは人が勝手に決めることであって多面性であると。だからすこし冷静になって今の商店街を見てみましょうと。
『上古町商店街とは新潟駅から車で10分ほどの距離。最寄駅や市役所にも近い。商店街は500メートル続く門前まちであって組合員が100人もいる。小さな間口の店がいっぱいあって、古い建物物をそれぞれ改装して状態がいい』、そう文字にしてみると商店街の状態はいいですよね。
加えて、プライベートで関わるなら明るい未来を一緒に想像しながら取り組む方がいいなと思いました。例えば、「県外の方にも商店街の良さを知ってもらえて、足を運んでもらえて」とイメージをつくる、人に共有する大切さを知りました。また、現在公認までなった上古町商店街のロゴデザインをつくったり、ガイドマップをつくったりと個人的な自己表現の一環としてやってみたいと考えたことをやってみて。そうしているうちに、市外や県外からも注目される商店街となって、訪れる人が増えていったんです。
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迫:
武田さんがおっしゃっていた編集からみた可能性と必要性。その文脈を理解できていない点がありますが、もっとシンプルに。地域デザインには必要じゃないけどあった方がいいなという思考が大切じゃないかと。必要でないものこそ人に好まれるし、フックとして引っ掛かりを生み出せる。私たちが掲げる日常を楽しむって可能性を広げるに近いじゃないかと思います。
必要性でいうならこれまでに私自身、Webサイト制作やプレスリリース、商品開発、流通、本制作……ここを起点に多種多様な事業展開できたのも、たとえわからないまま始めたことであっても「必要だからやってみた」という既成事実があってこそ。続けなくてもいいから軽い気持ちでやることが重要ではないかと。だって必要ではないからこそやってみても、失敗しても許されるみたいな。
こうしてふりかえてみると、自分たちの好きなかたちでデザイン事業を行ってきましたが、その過程にはたくさんの可能性があったんだなと思っていて。良くも悪くも僕たちらしさで上古町商店街に関わりましたが、もちろん他のデザイナーがこの地域に関わっていたらきっと違うかたちになっていただろうし。そういった意味合いではいろんな(地域デザインの)可能性はあると感じています。
都市と地方、二元論では語れないこれからの日本
新山:
個人的におもしろかったのは迫さんのお話。必要ではないけどなんかあるといいよね。そこに地域デザインのヒントがあるんじゃないかと感じました。
武田:
誰でも必要であればやれますしね。必要性に加えていうなら必要かどうかという土壌に上がってないことを率先して行えるのかが大事ではないでしょうか。
新山:
必要性で加えていうと、そもそもクライアントさんの注文って正しいという前提で始まっているじゃないですか。でも、本当にオーダーがあっているのか。相手としては必要性があって注文してもらっているけど、地域デザインでは問いを立ててみることも必要じゃないかと。揺さぶってみるみたいな。
迫:
揺さぶることは大切。常識を疑ってみる視点は僕も大好きです。こういう視点が活きてきてその人らしさにつながってくるので。
坂本:
私もいつも疑っているし、ずっと疑っている笑 そういった意味で、おもしろい先輩たちのしごとを近くでみて、「これ、いいの!?」みたいな癖をつけるのも大切ですね。
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新山:
私自身、建築家出身でもあるので「(広義な)都市と地方」にも言い当てることができるんじゃないかと考えています。地方って課題解決というキーワードが流行っていますが、「ほんまに課題なの?」という視点ですね。
これまでは、こうした課題に対して外(都市)からの目線が大切といわれてきましたが、じゃあ都市はどうなのという問いですよね。正解と不正解ではなく、いろんな目線で差異がわかる。その視点は、たくさんの地域と場にいくことで解像度があがっていくんじゃないかと思っています。都市と地方対決構造、二元論ではないところに世界をひっくり返すようなクリエティブがあるんじゃないかと探っているところです。
新潟発「都市創生の未来」への可能性を夢みて
坂本:うちの村で、最近最先端な文化だなと思うことがありまして。それは「寄り合い」といいまして。区の決め事やルールなどを延々2時間以上話し合う会があります。たとえば、垣根にある木を切る切らないみたいな話。
多数決制で決めてしまえば、ほんの5分で決まることでしょ? でも、よくよく聞いてみると、「多数決で採択されなかった方は損をする。しかも、これから村に関することはしなくなるかもしれない。だから、お互いが納得するまで話しあうんや」と。そう聞き、この場所でずっと暮らし続けるってこういうことなのだとわかりました。関係性ということばがあるけど、長く関係性を続けるために文化が大事なんですよね。
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武田:
私のなかで寄り合いが編集的な要素だと思いました。ある種多数決は武器であって、本来持ち出さなくてもいいもの。中井さんも過去におっしゃっていた「編集には時間がかかる」、本日の話を聞いて確かになるほどと気づきました。
だからこそ編集と地域デザインとの関わりは大切であって。関係性や時間さえも構築するために編集視点が必要だと再認識しました。
可能性論の話ですが、ここまで共通項があるゲストの皆さんなら都市創生というしごとを行っていくだろうとも。論文で探すと地方創生は無数にあるけれども「都市創生」はない。先ほどの対立構造ではなく都市に対しても地方ならではの目線が大切になってくる今、都市がおもしろい地域となるためにも弊社で立ち上げた民間シンクタンク「事業環境創造研究所 BEECL」で研究していきたいですね。燕三条支店などつくって、既成事実からね。
MGNET 武田修美さんがおすすめする一冊「おもデザ」
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最後におもデザについて、武田さんからふいにこぼれた一言。
「この本を読んで、燕三条地域でもおもしろいデザイナーを育てないといけないし、醸成できる文化をつくりたい。そのためも、掲載されるデザイナーをゲストにお呼びしました。もっとここに掲載されるデザイナーとつながっていきたい」
地域デザインの当事者でもある武田さんを、ここまで熱い気持ちにさせる一冊。お手元でぜひ読んでみてくださいね。
新潟・燕三条にはたくさんの工場がある。3000以上あると言われている。毎日数多の職人たちが技を振るい明日を創造する。しかし多くの技と技を支える努力や工夫が表舞台にでることは稀で「知る人ぞ知る」のお役目。その世界線を変えたいと思った。知らない人が知ることで新しい価値が生まれる世界へ。 pic.twitter.com/NYJiP3OP9y
— 武田修美|マグネット代表 (@magoo_takeda) April 8, 2022
取材先:
株式会社マグネット(燕市東太田14−3)
WEB https://mgnet-office.com/
CONTACT support@mgnet-office.com
編集部:
SANJO PUBLISHING 制作部担当:水澤 撮影:町田
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