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拝啓 暮らしを大切にしたい人たちへ。日常と技術、そしてまちはつながる

ものづくりのまち、燕三条地域には工場が集まって、たくさんのつくり手たちが生まれ活躍しています。そんな動きに目をこらし、丁寧に集め、つなぎ合わせる。まちを新しく編集する視点で日本有数の産地を訪れた。

SANJOPUBLISHING連載「掌に、産業を」


居心地をよい空間をつくりたい。世の中のめまぐるしい変化をきっかけに、衣食住のうち「暮らし」を大切にする人たちが増えている。田舎に移り住む、地元に戻る。あたらしいまちへーー

観光であっても移住であっても暮らしはきってもきれない、だからこそ奥深さがある。

三条市は江戸時代から続く鍛冶技術の伝統を受け継ぎ、金属加工産業を中心に発展してきたまち。わたしたちが日常の暮らしでつかう道具は、このまちで生まれたものも少なくはない。

先人の知恵を活かして革新的な進化を行う。その過程で生まれた道具は、日常に散らばって線としてつながる、そう思えたのが『黒染め』ワークショップでの出来事があったから。

株式会社テーエムは金属の染色技術のひとつ「黒染め技術」を活用し、ステンレスを始めとする加工技術を得意とする。

半世紀にわたって代々受け継がれる『黒染め技術』

某日、ここは三条市金子新田にある株式会社テーエム(以後、テーエム)。黒染めと聞き、まだ馴染みがないわたしに優しい語り口で、テーエム代表の渡辺竜海さんは過去を振りかえる。

黒染め技術は元を辿れば、約60年前にわたしの祖父ときへいの時代までさかのぼります。祖父は当時、戦争に駆り出されて兵站として最前線に出兵しました。

戦場ではじめたみた戦具とその筒や金具に施こされた黒染め。祖父は表面加工された黒染めをみて「こんな加工技術もあるのか」と驚いたものだ、と祖父の話を聞いた両親からそう教えてもらいました。

加えて黒染めは太古からの自然現象が由来とされ、テーエムでは鉄やステンレスにも応用していると教えてくれた。

株式会社テーエム代表の渡辺竜海さん(正面)

祖父は戦後、金物のまちとして栄えていた地元三条に帰ってきました。のち、独学で黒染め技術を学び、創業してテーエムへと続きます。ちなみに60年前、わたしたちの現工場がある金子新田地域は市内で一番古い工業団地で歴史があるエリアなんです。

素材を錆びづらくする効果を持つ黒染めは、技術自体会得するまでに長い月日の知識と経験を要する。なぜなら、小さな変化によって染色具合は変化し、素材によってときに染まらないときもあったからだ。

黒染めは素材自体を黒くする技術であって、同じ表面加工である塗装やメッキとは方法も手段も異なります。人間でたとえると日焼けに近い。化粧のように肌に上塗りするのではなく、素材それぞれによって専用の染色液とお湯を交互に浸けることで化学反応を起こして変化させています。

日焼けだって急にすると赤くなって、すぐに皮膚が剥けてしまうでしょ? 染色液の割合や漬ける時間、素材ごとに適正を見つけるのがむずかしさであって、ものづくりのたのしさでもあります。

黒染めする素材を使い、塗装やメッキとの違いを説明する。
自社ブランドとしてリニューアル発表したばかりの家庭用のテーブルウェア「96(クロ)」シリーズを展開(左)

人為現象で生まれたパーカライジング処理

テーエムでは黒染め技術以外にもパーカライジング処理(燐酸亜鉛処理)を行う。パーカライジング処理とは自然界に存在しない人の手によってつくられた技術のひとつ。

古くはエジプトのピラミッド内で収められていた宝飾物に施されていたそう。現代に近づくにつれてピラミッドの研究が進み、工業製品として利用できるようにと改良されてきた。

こちらをさわってみてください。

黒染めした素材はサラサラで、パーカライジング処理したものはザラザラ。さわると違いがわかりますよね。このざらつきのおかげでパーカライジングは素材から剥がれづらくなり、サビを抑える効果が持続しやすいんです。

身近なものでいえばたとえば、道端のガードレールにも白い塗装の下に塗られています。新潟では雨や潮風、雪が降る環境下であっても事故を予防するためには必要な技術。そして、わたしたちの暮らしを陰ながら支えるものといえるんです。

日常の中にある素材に一手間、私たちが当たり前に長く享受できるものに。そう考えていると、まちに根付く技術を体験したい。そう思えたのだ。

工場見学とともにご厚意で黒染めワークショップを開催していただいた。頭のなかでは教えてもらった黒染めの知識をモクモクと広げながらテーエムの工場に赴いた。

黒染め体験ツアーにいざ行ってみよう!

加工工場の様子。テーエムでは20、30代の職人たちが中心となって働く。
職人たちは黒染めの工程と部門を担う。

工場から鳴り響くのは、小型クレーンによって染色液に浸けては持ち上げられるカゴと不規則な機械的な音。加工工場を訪れると職人たちの真剣な眼差しと熱気、そして黒染めの染液から立ち昇る煙。自然と五感が研ぎ澄まされていく感覚をふと覚えた。

簡潔に工程をご説明するとまずは洗浄。黒染めする際に酸化を防ぐために、繰り返して油や汚れを落とす、黒染めの下準備です。

続いては黒染め加工。黒染めの化学変化は染色液の温度と濃度、浸ける時間の3つの要素が大切です。染色液はとくに、熱を加えれば加えるほど黒くなるため、145度前後を保つようにと温度管理には細心の注意を払っています。また季節ごとに気温と湿度を見極めて、わたしたちがこれまでに培った知恵と職人たちの技術をかけあわせて仕上げています。


最終工程は艶出し。防錆油に付けて仕上げとなります。シンプルな工程ではありますが、実際にやってみるとむずかしいですよ。

職人体験を経てわかる、黒染めのむずかしさとおもしろさ

<百考は一行に如かず>なんて諺があるし。恐れずに、わたしの手で黒染めをしてみよう。「生まれてはじめて黒染めを行うんだよね」と表情を硬くしたわたしに、黒染め簡易キットを用意くれた渡辺さん。

さあ、ここが黒染めミニマムスタジオです。黒染めの過程を一通りできるように、染色液と冷水、小物をご用意しました。工場でみたダイナミックな黒染めまではいかなくても、黒染めの処理温度から小物を黒く染めるところまでワークしてみましょうか。

「熱温度によって黒は変わる」そう聞いていたけど、染色液は沸騰していくうちに熱温度があがってどんどん深黒へと変化。

本番では適正温度できちんと黒染めできないとお客さまに提供できない。普段は、専門業者と相談しながら薬品調合してブランドしますが、熱温度が低いと黒くならないし、高いと赤くなって赤錆のような色合いと仕上がってしまう。

あとはこの量だと……浸ける時間は少量だと数秒で黒く染まります。だからパッパと染色液に入れて、ザブンと水で冷やしてください。冷水の中で空気とふれて酸素によって、黒染めの変色は止まりますので。

おぉーと小さくこぼれた。赤っぽくなってしまったけど完成、でも「天才!」「上手!!」と褒めてくれた渡辺さん。火加減がむずかしかったため、黒染め技術に対する先人たちの苦労がかいまみえた瞬間であった。

黒染めは被膜処理と呼ばれるものなので、人体に影響はありません。箸置き等で日常にぜひ使ってください。ただ、艶出しのための防錆油は工業製品のため、食器用洗剤できれいに洗ってくださいね。

「自分が源泉」 暮らしは創りだせる

渡辺さんのおすすめ本「自分が源泉 ビジネスリーダーの生き方が変わる / 著者鈴木 博」

自分の手でつくれた。ただ黒染め技術を肌で感じたからこそわかる、素材ごと黒に染めるむずかしさ。素材が大きくなればなるほど……。ステンレスになるとさらにむずかしい、知恵と経験がものをいう職人の世界。

「テーエムで一緒に働く子たちは0から技術を習得したんだよね」と渡辺さんは笑います。そんな折にそっとご紹介してくれたのが『自分が源泉 ビジネスリーダーの生き方が変わる』である。

自分が源泉。いい言葉だ。
先人の知恵によってもたらされた道具、それを技術で進化させるのも日常にとりいえるのも自分次第。

日常と技術、そしてまちが線としてつながっていくのだ。

株式会社 テーエム 
〒955-0814 新潟県三条市金子新田丙967
TEL:0256-33-1200
FAX:0256-33-5360
https://tm-tm.net/

96(KURO)
https://96bst.com/


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