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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第171回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
子張十九の十六~十七
 
子張十九の十六
 
『曽子曰、堂堂乎張也。難与並為仁矣。』
 

曽子曰く、「子張は堂々としたものだな。しかし、彼とそろって仁を行うのは難しい。

 
(現代中国的解釈)
 
自動車業界は100年に1度、という大きな変革期を迎えている。ただし、その近未来イメージは急速に変化し、純EV車1本勝負ではなくなってきた。考え方、取り組みとも、再度シャッフルされつつある。米国は2032年のEV車普及目標を67%から、35%に引き下げた。またフォードは、新型EV車の発売を延期、既存車種のハイブリッド化に注力する、と発表した。EUもe-Fuelを前提に2035年以降も内燃エンジン車の販売を容認した。内燃エンジンの延命が見えてきた。中国でもPHEVとレンジエクステンダー(エンジンを発電のみに使うPHEV)の伸びは純EV車の伸びを大きく上回る。内燃エンジン車とEV車がそろって、共存という仁を行うことができるだろうか。それはEV車が一定のシェアを超え、頭打ちとなることによって、達成されるのではないだろうか。
 
(サブストーリー)
 
危機感を強める純EV車の陣営では、新な動きが起こっている。海外メディア報道によれば、車載電池ナンバーワンの寧徳時代(CATL)は、全力でテスラを支えるというのである。CATLの曾毓群会長は、今後の戦略として、バッテリー製造技術をライセンス供与し、ロイヤリティを得ることで、技術の価値を最大化する、と強調した。実際にフォードとの協力は具体化しつつある。フォードの技術者を福建省の本社や、ドイツの生産拠点に招き、研修を行っている。やがてフォードは、CATLの技術ライセンスを使い、ミシガン州の工場で電池を生産できるようになる。曽氏は、詳細は明らかにしていないものの、フォード以外の米国企業とも同様の協定について話し合っているという。
 
テスラのネバダ州工場へは、高度な機械設備を提供し、電池の生産規模拡大を支援している。技術協力でも、バッテリー充電速度を劇的に向上させるための電気化学構造を、共同開発中だ。さらにテスラは、CATLの遊休設備を活用した、効率的な小規模工場も建設する。協力は、多方面に及び、フォードその他にも食い込んでいる。米国市場ではEV車普及の減速が明白となっており、もはやテスラに頼るしかなさそうだ。
 
子張十九の十七
 
『曽子曰、吾聞諸夫子。人未有自致也者也。必也親喪乎』
 
曽子曰く、「私は先生から伺った。人はなかなか力を出し切ることはない。もしあるとすれば、葬儀だろう。」
 
(現代中国的解釈)
 
短時間で、力を出し切ったとしか思えない企業が2つある。拼多多とバイトダンスである。拼多多は、2015年の創業からわずか3年でナスダックへ上場、昨年からはTEMUという名で世界展開を始め、アマゾンを脅かす存在になっている。バイトダンスは2010年、ニュースサイト「今日頭条」を立ち上げた。2017年、リップシンクのショートビデオアプリ、musical.lyを買収、自社開発のTik Tokと統合した。ここから急発展を遂げ、IT巨頭の仲間入りを果たした。
 
(サブストーリー)
 
バイトダンスは、ショートビデオを原動力に、ライブコマース、オンライン教育、VR、AR、SNS、ビジネスツールなど、次々と手を拡げIT巨頭に成長したが、撤退、縮小した分野も多い。撤退したのは、政策変更の影響を大きく受けた、オンライン教育である。そして今回、SaaSプラットフォーム「飛書」の縮小が伝えられた。
 
飛書は、7年前にスタートした、企業間ビジネスツールSaaSである。アリババの釘釘やテンセントの企業微信が直接のライバルだが、MAUは釘釘2億、企業微信1億に対し、飛書はやっと1200万に過ぎない。この大差は、商業化プロセスに影響を与えずにはおかない。
 
大差のついた理由は、意図したビジョン、ポジショニングが現実と乖離していたことだ。「先進的企業は飛書を使おう。」というキャッチは魅力的だが、これこそ問題だった。企業向けITサービスは、後進的企業のDXをサポートし、先進的企業に変えることこそ真の価値である。先進的企業はすでに独自ITビジョンを持っている。提案順序が間違っていた。
 
飛書の投資対効果は満足の行くものとはならなかった。損益分岐点を100とすれば、40にしか達せず、そのため、開発チームを"適正規模"に縮小せざるを得なくなったのである。
 
これは、中国のSaaS業界全体の傾向である。真の顧客志向のためには、顧客ニーズと使用シナリオを深く理解した上、高品質の製品とサービスを作成しなければならない。小さくても、最適化され、ニッチ市場にも有用なプラットフォームのイメージだ。
 
そしてそれらには、さまざまなシステムやツールと、シームレスの統合できる、オープンプラットフォームでなければならない。例えば米国で主流のSaaS製品は、平均300の他ビジネス向けSaaSと統合できる。米国企業セールスフォースのSaaSは、4000近くの統合が可能で、そのエコシステムを通じて、同社は300億ドル以上の収益を上げている。それに比べ、中国の業界はまだ飛書のように、焦点がずれ、まとまりがない。力を出し切るどころではない。

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