見出し画像

【第334回】体が痒くて学んだこと

体が痒くて困っている。

数カ月前から目、鼻、耳も痒かったので何かのアレルギーかと思い、かかりつけの医師にアレルギーの飲み薬と副腎皮質ホルモン剤のクリームを処方してもらい使っていた。

それで目の痒みは収まってきたものの、全身に広がる痒みの原因となる発疹は収まらず、その痒さに夜中でも目が覚め、体中に引っかき傷を作っている。

眠くなることはあるが、よく聞く薬だと言われた飲み薬も2週間以上飲み続けても一向に改善しない。とにかく、夜昼限らず全身の痒さにイライラし、ついに皮膚科に行ってみた。

すると皮膚科の若い医師は、痒さの程度や現在服用している飲み薬と軟膏の種類を答えてくれという。飲み薬の名前は憶えていたが、副腎皮質ホルモン剤だとは言ったものの、その種類は思い出せない。

途端にいつもの老人性癇癪が起きそうになるが堪えた。医師の診察を受けるのにきちんと確認すれば正確な情報を提供できるはずなのに、家で仕事をしていたものの、痒さにイラついて咄嗟に皮膚科の診察を受けようと思い立って家を出たものだから、当然すべきだったその確認をしないまま診察台に座って己の不徳を感じた。

医師は丁寧に全身に広がる発疹あるいは引っかき傷を見て、取り敢えずこの痒み止めのクリームを付けておくようにと、その塗り方を指導してくれた。指示された塗り方はそれこそベッタリという感じで、そのこともこれまでの認識の過ちに気づかされた。

薬が効かないのはアレルギーではないのにそのための処方を受けたからではないか、という小生の問いに医師は答えた。薬の種類や薬の塗り方が曖昧なのでそうとは言い切れない。服用している薬はそのままにして渡されたクリームを指示通りに付けろという。

彼の取り敢えずの診断は老人の肌は服で擦られることで発疹や痒みを生じさせることもあるし、アレルギーなのかもしれないというもの。しかし、診察は適切であり、患者への教育的指導も正しいものであった。

そんな診察を受けてこの原稿を書いているのであるが、昨今メディアを騒がせている紅麹由来の健康食品が原因とされる健康被害について、口に出しては言わなかったものの、あれはきっとべらぼうな量を服用したりしたのではないかなどと思っていた自分を恥じた。実はオロパタジンという薬が効かないからと勝手に服用量を増やしてみようかと思っていたのだから恥ずかしい。

日頃、農薬や肥料その他のことに関して偉そうなことを言っていても、こんなことをしてしまうのだ。こんな恥ずかしいことをあえて書くのは、人は間違いを起こすものなのだと自覚するためだ。それも体の痒さにイラつく程度でそんな過ちを犯すのだ。

どのようなときにも決められた原則や作業手順を守ること。そんなこと当たり前だと思っていても、何かでイライラしていたり、慌てているときだろうと、むしろそんなときこそ自分がそれを自覚すべきなのだ。

毎朝、通勤の電車では運転席の後ろにへばり付き、運転士による指先確認の復唱と動作確認を確実にやっているかを密かにチェックしている自分が恥ずかしい。

『農業経営者』2024年5月号


【著者】昆吉則(コンキチノリ)
『農業経営者』編集長/農業技術通信社 代表取締役社長
1949年、神奈川県生まれ。1973年、東洋大学社会学部卒業後、株式会社新農林社に入社。月刊誌『機械化農業』他の農業出版編集に従事。
1984年、新農林社退社後、農業技術通信社を創業し、1987年、株式会社農業技術通信社設立。1993年、日本初の農業ビジネス誌『季刊農業経営者』創刊(95 年隔月刊化、98 年月刊化)する。
現在まで、山形県農業担い手支援センター派遣専門家(2004年〜現在)、内閣府規制改革・民間開放推進会議農業WG 専門委員(2006年)、内閣府規制改革会議農林水産業タスクフォース農業専門委員(2008年)、農業ビジネスプランコンテスト「A-1 グランプリ」発起人(2009年)、内閣府行政刷新会議規制・ 制度改革分科会農業WG専門委員(2010年)を務める。

いいなと思ったら応援しよう!