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映画「関心領域」を見てきたけど

この映画の原題は「THE ZONE OF INTEREST」となっているのですが、この関心領域という邦題はかなり素晴らしいなぁと思っております。ひどかった邦題といえば「新感染:ファイナルエクスプレス」というどこからどう見てもB級映画にしか見えない邦題が与えられてしまった韓国映画の名作を思い出しますけどこのTHE ZONE OF INTERESTの邦題はかなり良いと思いました!

去年の年初めに映画館で見た、似たようなテーマの映画「ヒトラーのための虐殺会議(原題:ヴァンゼー会議)」も結構良い邦題だな〜と思いましたが、関心領域のシンプルさには敵わないでしょう。

関心領域はヒトラーのための虐殺会議と同じように、第二次大戦下のユダヤ人虐殺が物語の中心にあります。関心領域は最大のユダヤ人最終絶滅収容所アウシュビッツの隣に住んでいる所長家族のお話です。素敵なお庭がある美しい邸宅ですが、すぐ隣では大量のユダヤ人が24時間殺され続けているという状態です。映画で収容所の中の様子はほとんど描かれず、壁から漏れ聞こえてくる呻き声や火葬場の効果音だけで虐殺を表現しています。風向きによっては死臭も漂うような環境ですが、所長一家は何不自由なく楽しくて豊かな暮らしを謳歌しているのです…。

これはかなり映画館向けの映画だと感じました。テレビやスマホで見ることは難しいでしょう。映画館以外で鑑賞する人のうち何人かは途中で眠くなってしまうでしょう。

先ほど思い出した「ヒトラーのための虐殺会議」という映画はドイツのテレビ映画なのでテレビ鑑賞でも十分理解できる作りになっているんですけど、今作「関心領域」は完全に "映画館専用作品" という感じの作りになっています。なぜなら、今作は音響芸術作品だからです。

強制収容所のすぐ隣で、虐殺に無関心な一家が平和に暮らしているというグロテスクな構図からホラー映画のようだとも言われていましたが、僕はこの映画は人類歴史資料館で流れている芸術作品のように感じました。この括りで言えば「最後にして最初の人類」も似たものがあると思います。関心領域は虐殺に無関心な人間の暮らしを体験することができるアートのようなものです。故に、テレビでは体験できないんですよね。夜ご飯を食べながらテレビで虐殺のニュースを眺めている自分と、収容所の横で楽しく平和に暮らす彼らとの違いについて考え出すと耐えられなくなってしまいそうです。誰だって、直視したくない出来事にはブラインドをさっと閉じるように壁を立てて見えなくしちゃうことがあるでしょう。この映画を見て感じる後ろめたさはそういうものかもしれないですね。

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