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ルカ・ドンチッチとアンソニー・デイヴィスのトレードについて
あのケヴィン・デュラントをして、「これは私がリーグに入ってから見てきた中で最大のトレードに違いない」と言わしめ、このネタを得たESPNのニュースブレイカーであるシャムズでさえ「スマホがハッキングされたと思った」と勘違いさせた程の衝撃的なトレードをまとめない訳にはいきません。
なにしろ、前年度オールNBAに選出されたリーグトップ選手同士のトレードは「ブラックスワン」と言ってもいい程目にする事はなく、長いリーグの歴史の中でもそれ以前は過去2回しかありませんでした。おそらく世界中のNBAファン全員がショックを受けた事だと思います。
ちなみに、その前回のトレードは2012年のオフシーズンにあり、マジックのオールNBAファーストチームに選出されたドワイト・ハワードとレイカーズのオールNBAセカンドチームに選出されたアンドリュー・バイナムを含む4チーム・トレードでした。1回目は1979年まで遡らなければいけません。なんとその間にアルゼンチンは4回もデフォルトしています。まさにNBAの未来を大きく変えた歴史的事件と言えましょう。
今回はこのトレードをマーヴェリック側とレイカーズ側のそれぞれの視点から掘り下げて行こうと思います。
まずはトレードの内容を振り返ってみましょう。
トレード詳細
この「ルカ・ドレード」は、レイカーズ、マーヴェリックス、ジャズの3チームの間で行われました。
レイカーズ獲得($56M):
ルカ・ドンチッチ($43M)
マキシ・クリーバー($11M)
マーキーフ・モリス($2M)
キャッシュ:$55K
マーヴェリックス獲得($50.3M):
アンソニー・デイヴィス($43.2M)
マックス・クリスティー($7.1M)
2029年のレイカーズの1巡目指名権
キャッシュ:$55K
ジャズ獲得($3.8M):
ジェイレン・フッド=シフィーノ($3.8M)
2025年のクリッパーズの2巡目指名権(レイカーズから)
2025年のマーヴェリックスの2巡目指名権
一見すると、レイカーズは100%以上のTPEを使っていて、ファーストエプロンのルール違反をしているように見えます。レイカーズは出したサラリー($54.1M)よりも大きなサラリー($56M)を受け取れないはずなのに、。一体どうしてこれが成立するのでしょうか?
ここでのポイントはモリスのミニマム契約です。以前紹介したSpotracのキース・スマートさんの記事を読んだ方はピンと来るかもしれませんが、レイカーズはこのトレードを①デイヴィス/クリスティー/シフィーノ($54.1M)⇄ドンチッチとクリーバーのトレード(計$54M)、そして、②ミニマム・エクセプションでモリス($2M)を吸収するという2つのトレードをして成立させたのです。
トレードのサイズ
このトレードには他にも気になる点があります。それはトレードされた選手の多さです。本来、ルカ・ドンチッチとアンソニー・デイヴィスのトレードは単体で成立するはずです。なぜトレードがこれだけ大きくなったのでしょうか?なぜレイカーズはローテーションの隅にいたゲイブ・ヴィンセント($11M)ではなく、ディフェンシブ・ストッパーとしての片鱗を見せていたスターターのクリスティーを入れなければいけなかったのでしょうか?
考えられる理由として、マーヴェリックスが一度タックスから抜けて、次の動きのためにキャップシートをリセットしたかったという事があげられます。
マヴスがレイカーズにクリーバーとモリスを引き受ける事を要求し、ドンチッチが欲しいレイカーズはそれを了承しました。レイカーズはその条件の元、残りのロスターで誰を出すかを考えなければいけません。この場合、サラリーマッチのため$10M強を出さなければいけないので、自然とゲイブ・ヴィンセントやオースティン・リーヴスが候補になります。リーヴスはレイカーズ的にNGなので、ここではヴィンセントを出そうとすると仮定します。しかし、そのレイカーズのパッケージでは、マヴスがタックスを回避できません。そうするためには、その$10Mを最低でも「$6M+$4M」と分けて、$6Mをマヴスに、$4Mを3つ目のチームに出さなくてはいけません。すると必然的に$7Mのクリスティーが候補になります。後は、残りの$3Mを受け取ってくれる3つ目のチームを探すだけです。
レイカーズはポイント・オブ・アタックのディフェンダーとして成長を見せていたクリスティーを出したくはなかったと思いますが、それがドンチッチ獲得のためのコストなら仕方ありません。他に候補がいないのです。
マヴスは、リーヴスならタックスを払うつもりがありましたが、クリスティーならタックスラインを下回るようなトレードの枠組みを要求していたとも考えられます。これなら、わざわざモリスがトレードに入った理由に納得がいきます。
そして、レイカーズはかねてから取引をしていて、「アセットビジネス」を展開しているジャズに声をかけ、2巡目指名権を与える代わりに、シフィーノを受け取ってくれるように頼みました。ジャズはルームMLEが使えるので、シフィーノを引き受ける事に問題ありません。ただ、ジャズは他のチームとのトレード中で、レイカーズの頼みを引き受ける時間的余裕がなかったようです。この辺りのエピソードはレイカーズのセクションで後述します。
ちなみにジャズはトレードが公になる30分前まで、自分たちがドンチッチとデイヴィスのトレードに関わっているとは知らなかったそうです。
トレードキッカー
このトレードにはまだ検証しなければいけないものがあります。
それはトレードキッカーと呼ばれるトレード時に支払われるボーナスです。これを契約に組み込められるのはエリート選手だけなので、見慣れない読者も多いかと思います。簡単に説明すると、トレードキッカーがある選手はトレードされた時に、残りのサラリーにキッカー分の割合をかけた金額がボーナスとして加えられます。そのため、トレードのサラリーマッチでは、そのボーナスを選手のサラリーに加算して計算する必要が出てきます。
このデーヴィスの場合、ドレードキッカーは15%でした。つまり、デーヴィスは残りの契約金の15%を得る事ができ、その金額は残りの契約に分割されてサラリーキャップにカウントされる事になります。本トレードでも、デイヴィスのトレードキッカー($5.9M)を含めてサラリーマッチしなければいけなかったはずです。しかし、デイヴィスのトレードキッカーの痕跡が見当たらないのです。なぜなら、ファーストエプロンでハードキャップのマヴスは、この枠組みでデイヴィスの$5.9Mを加算してトレードすると、レイカーズから受け取るサラリーがエプロンを超えてしうため、トレードが成立しなくなるからです(他の選手をダンプしない限り)。
なんと、デイヴィスはそんなマヴスを助けるために、$5.9Mのボーナスを受け取らない事を了承したのでした。どうせトレードされるなら、少しでもトレード先の戦力を温存しておきたかった思惑が働いたのかもしれません。
両チームのその後のキャップの動きも見ていきましょう。
マヴスはクリスティーを獲得して飽和状態になっていたSG選手のひとりであるクエンティン・グライムス($4.2M)をシクサーズに送って3&Dウィングのケイレブ・マーティン($9.1M)を獲得しています。もしデイヴィスがボーナスを受け取っていたら、ファーストエプロンでハードキャップがかかっているマヴスはこのトレードはできていなかったはずです。
レイカーズはこのトレードでサラリーをまとめてトレードに出した事により、セカンドエプロンのハードキャップになりました。この時、セカンドエプロンまでわずか$1.7M。
その後、ドンチッチのP&Rパートナーになるであろうセンターのマーク・ウィリアムズ($4M)をダルトン・コネクト($3.8M)とキャム・レディッシュ($2.4M)+指名権でホーネッツから獲得し、エプロンまで$4Mと余裕が生まれていましたが、レイカーズがウィリアムズのフィジカル検査で問題を見つけたために、このトレードは取り下げられています。これについても詳細は後述します。
ダラス・マーヴェリックスから見たトレード
25歳にして5年連続オールNBAファーストチーム・プレーヤーに選ばれ(ステフ・カリーやダーク・ノヴィツキーよりも多い)、今後もMVP候補になり続けるのは間違いない選手であるドンチッチをトレードした事により、プレジデント兼GMのニコ・ハリソンはメディアやファンたちから「史上最悪のトレードをした」とか「こんなバカなトレードは見た事がない」などの批判が投げかけられています。
ショックを受けたファンたちの中には、アリーナの外に集まってプロテストを行った人たちもいます。ファンのドンチッチへの愛とハリソンへの怒りが感じられるかと思います。
Protest taking place on the plaza of the American Airlines Center.
— Sam Gannon (@SamGannon87) February 8, 2025
Fans chanting “Luka, Luka, Luka!”#dallasmavericks #mffl #luka pic.twitter.com/4ozvn64iOF
The scene outside the American Airlines Center: pic.twitter.com/nRbMVXrSkr
— Tim MacMahon (@espn_macmahon) February 8, 2025
なかにはドンチッチのお葬式をあげるファンたちまで出てきました。
Fans in Dallas brought a coffin to American Airlines Center in memory of the Luka Dončić era ⚰️
— The Athletic (@TheAthletic) February 2, 2025
🎥 @McFarland_Shawnpic.twitter.com/LvjFdKUdos
なぜ、ハリソンはそのような「バカな」トレードをしたのでしょうか。
その理由がいくつかあげられてレポートされているので紹介します。
ディフェンス
ハリソンのESPNとのインタビューで気になった言葉は「ディフェンス」です。ハリソンはトレード後にESPNのインタビューで、「私はディフェンスが優勝をもたらすと信じている…私はオール・ディフェンシブ・センターとディフェンスのマインドセットがより良いチャンスを与えてくれると信じている」と話していました。
これは遠回しにドンチッチがディフェンスができないと言っているように聞こえます。むしろ今季のドンチッチのD-EPMはカイリー・アーヴィンよりも良いのです。ディフェンスが優勝をもたらすと信じているなら、E-DPMがマイナスのアーヴィンを先にトレードしなくてはいけないのではないでしょうか。(ちなみにディフェンシブ・レーティングでは、ドンチッチは109.3でアーヴィンは114.0とドンチッチの方がベター)
または、ドンチッチはディフェンスができないのではなく、ディフェンスをしないと言っている可能性もあります。確かにディフェンスをしない時も見受けられますが、昨シーズン途中にダニエル・ギャフォードとP.J. ワシントンをトレードした後のマヴスのディフェンスはリーグ7位にランクインしていているので、ドンチッチのディフェンスにムラがあったとしても、そこまで問題になるようには見えません。ファイナルズではセルティクスから狙われ続けていましたが…ひょっとしたら、ハリソンはプレーオフのディフェンスの事を言っているのかもしれません。
また、マヴスはトレード・デッドラインでギャフォードをトレードしてウィングのディフェンスを強化したがっているというレポートも出ていました。これもドンチッチのディフェンス力をカバーするためだと思われます。いずれにせよ、ハリソンのフィロソフィーに「ディフェンス」があるのは間違いありません。
そして、そのハリソンの発言を、「ドンチッチはディフェンスをしない」と捉えると、ドンチッチの最大の問題であり課題と言われている「コンディショニング」に繋がっていきます。
コンディショニング
マーヴェリックスがドンチッチのコンディショニングに懸念していたというレポートがいろいろなメディアからあがっているので紹介します。
マーヴァリックスがレイカーズにトレードを持ちかけた主な要因は、ドンチッチのコンディショニングに対する懸念があったためだった。ドンチッチは今シーズン、主に左ふくらはぎの負傷で22試合しか出場しておらず、球団内では彼の食事やコンディショニングへの怠慢な姿勢が耐久性に悪影響を及ぼしているとの不満が高まっていた。
また、マクマホンはSports Centerで次のようにレポート:
ルカは、コート上の48分間ではいつも競争心がとても強かった。しかし、マーヴァリックスはフラストレーションを抱えていた。正直、彼への投資は見返りが少なくなっていくと感じていた。なぜなら、コート外での競争心が欠けていて、一年通してNBA球団の顔として求められる中、24時間体制でそれに献身をする意欲がなかったからだ。確かに、彼にはコンディションを整えながらも驚異的な数字を残す才能がある。しかし、最終的にマーヴァリックスはルカ・ドンチッチがチームを優勝に導くとは信じられなかった。そして、それが今回の衝撃的なトレードにつながった。
マーヴェリックスはルカ・ドンチッチの耐久性、もしくはその欠如をとても懸念していて、彼のバスケットボールへの取り組み方が今後も問題であり続けると確信していた。
マーヴェリックスはドンチッチのコート内外での習慣に対するフラストレーションを抱えている事でよく知られていた。ヘッドコーチのジェイソン・キッドは公の場でも、そして直接ドンチッチ本人にも、コンディション管理や体重の増減、審判への絶え間ない抗議について頻繁に懸念を示していた。
ドンチッチはその批判を大きく気にすることはなかく、それが彼の習慣に大きな変化をもたらすことはなかった。
「シーズン中に40分もプレーしているのに体重が増える選手なんているのか?」と、あるチームソースは昨年ESPNに不満を漏らしていた。
マーヴェリックスは、もしドンチッチが変わらないのなら、逆に彼の周囲を変えて刺激を与えようと考えた。2023年8月、チームはディレクター・オブ・ヘルス&パフォーマンスのケイシー・スミスを解雇した。スミスはその後、ジェイレン・ブランソンが所属するニューヨーク・ニックスに雇われた。昨シーズン終了後には、ストレングス・コーチのジェレミー・ホルソップルとマニュアルセラピストのケイシー・スパングラーも解雇された。この3人はドンチッチがドラフトされる前からチームに在籍し、彼と強い関係を築いていた。
「私が好きな人たちはみんな首にされる」と、最近ドンチッチは不満を漏らしていたと、あるソースは言った。
しかし、その計画は裏目に出た。
昨シーズンの前、ドンチッチはフルタイムの「ボディチーム」を雇った。それは、スロベニア代表のストレングス・コーチであるアンジェ・マチェク、レアル・マドリードのフィジオセラピストのハビエル・バリオ・カルヴォと栄養士ルシア・アルメンドロスで、彼が自費で支払っていた。
しかし、その変化はより健康的で出場可能なドンチッチにはつながらず、チームソースがドンチッチのボディーチームとマヴスのスタッフの間のコミュニケーション不足について不満を漏らす中で、内部のフラストレーションは増すばかりだった。
過去6シーズン、ドンチッチは平均67試合に出場した。今シーズン、彼は27試合を欠場していて、それには過去3年間で4回目となる左ふくらはぎのケガをしてからの6週間も含まれる。彼は欠場中に体重が増え、チームのエグゼクティブたちを苛立たせたとソースは言った。11月下旬の11日間の欠場は、公式には右手首の捻挫になっていたが、実際には260ポンド台後半に膨れ上がった体重を落とす時間を与えるためだったとソースは話している。ハリソン&キッド体制の最初のシーズン序盤の2021年12月に同様の調整期間を取っていた。
それでも、コート上での彼のパフォーマンスは群を抜いていて、プレーオフで重要な場面で見事なプレーを見せ、ダラスをファイナルズへ導いた。
「彼が何をしようが関係ない」とあるオールスター選手はESPNに言った。「彼は毎晩33-9-9を記録するんだから」
ライバルチームのNBAコーチはこう言った。「毎年キャンプ入りする時に、彼が素晴らしい状態だって言ってたのに、今になってこんなことを言うのか?」
ソースによると、ドンチッチは1月下旬にふくらはぎのMRIを受けた時点で255ポンドだった。通常は250-255ポンドの間でプレーしていて、マヴスは彼の理想体重を245ポンドと考えていた。それによって、ディフェンダーを力で押し込む彼の強みを維持しつつ、俊敏性を最大限にし、ケガのリスクを最小限に抑えることができると判断していた。
ナイキ時代にコービー・ブライアントのワークエシックを見てきたハリソンにとって、ドンチッチのスタンダードは許容できるようなものではなかったのかもしれません。
The Athleticによると、ハリソンを含め、マヴスはこのドンチッチのコンディショニングの問題により、彼の体はみんなが思っているよりも早く壊れるかもしれないと懸念があったようです。そして、「それはいつの日かMVPになるかもしれない選手から先に進まなければいけないと感じるところまで来た」そうです。
ちなみに、ハリソン本人は栄養に関して熱心で、友人たちと会話をはじめる定番の挨拶の中に、「今日は何を食べた?」と言うものがあるそうです。ハリソンは仕事や勉強にも真剣に取り組んでいたようなので、ケガをして欠場している間に体重が増えてしまうドンチッチのプロ意識に疑問を感じてしまうのは仕方がなかったのかもしれません。
それにしても、マヴスからのもの凄いリークです(笑)。裏返せば、このトレードを正当化するのに必死だとも言えます。
カルチャーセッター
マクマホンは、「ハリソンがドンチッチのトレードの鍵は”カルチャー”だと述べた」とも言っています。
ダラス・マーベリックスのゼネラルマネージャー、ニコ・ハリソンは、25歳のスーパースターであるルカ・ドンチッチをロサンゼルス・レイカーズにトレードし、31歳のオールスターであるアンソニー・デイヴィスを獲得した決断について、「ビジョン」と「カルチャー」の重要性を強調した。ハリソンは、ヘッドコーチのジェイソン・キッドと共に、チームのビジョンとカルチャーを築いてきたと言った。
この事から、ハリソンはドンチッチがいくらチームのトッププレーヤーであっても、コンディショニングやディフェンスの意識が低い限り自分の理想とするカルチャーをつくれないという判断に至った事を示唆しています。
ハリソンは、ドンチッチがチームの目指すカルチャーに合わなかったのかという質問に対して、「私は選手について悪く言うつもりはない。カルチャーに合う人もいれば、カルチャーに貢献する人もいる。それらは別物だ。今回迎え入れる人々は、カルチャーに貢献してくれると信じている」と答えていました。遠回しに「Yes」と答えたと思っても良さそうです。
ハリソンの判断を支持しているオーナーのパトリック・デュマースは、ドンチッチのトレードについてインタビューを受けた時、「もしリーグの偉大な選手であるジョーダン、バード、コービー、シャックを見れば、勝つためだけに集中し、本当に毎日ハードに練習しているのがわかるだろう…そして、それがなければ、ダラス・マーヴェリックスの一員になるべきではない。それは私たちが求めている選手ではない。これについては私は譲れない。全球団がこの事を知っている。これが私がバスケットボール以外でやっている事だ。コンペティティブになる。勝つためにはこの道しかないんだ。もしバケーションを取りたいなら、私たち以外のところに行け…私が思うに、チームが勝つには、フォーカス、正しいキャラクター、正しいカルチャー、そして優勝という結果をつくりだすために、できる限りハードに練習する正しい献身が必要だ。そして、それをやらなければ負けてしまう」と答えていました。
ドンチッチはむしろマーヴェリックスから出られて良かったのではないかと思える程、ツッコミどころが満載なコメントです。このようなオーナーの発言やカルチャーへの質問の答えから、ハリソンはゲームでの数字よりもキャラクターを重要視したことが伺えます。
スーパーマックスへの懸念
ドンチッチはこのままマーヴェリックスに残っていれば、NBA史上最高となる5年$345Mのスーパーマックスを得られる権利がありました。しかし、このスーパーマックスには条件があり、ルーキー時代から同じチームにいる選手のみが得られる契約延長形態です。レイカーズにトレードされた今、ドンチッチはスーパーマックスを手にする事ができなくなりました。
ESPNのマクマホンは、そのスーパーマックスについてマヴスがどう考えていたか、次のように伝えています。
ハリソンは、トレードの目的は「チームを強化する」ことだと言ったが、ドンチッチの契約状況も考慮したと付け加えた。ドンチッチはこの夏に5年$345Mのスーパーマックスを結ぶ資格があり、リーグソースによれば、彼はその契約に合意する見込みだったそうだ。
ハリソンは、「彼の契約には注意を払うべき独特な点があった。他のチームが戦力を整えていて、彼がここに残留するかどうかを自分で決めることができる状況だった。私たちがスーパーマックスをオファーするかどうか、彼がオプトアウトするかどうか、それらすべてを考慮する必要があり、波乱の夏になる前に先手を打ったと感じている」と言った
ESPNのシェルバーンも次のように伝えています。
ドンチッチはこの夏、リーグ史上最高額となる5年$345Mの延長契約を結ぶ資格があった。ソースは、彼は契約を結ぶつもりだったと話していて、ダラスを離れる可能性を探るつもりがあるという兆候を見せたことはなかった。彼はすでに市内で新居を探し始めていた。チームソースによると、彼らはドンチッチが契約を結ぶことと、結ばないことの両方を恐れていた。
これらのレポートから、ハリソンがドンチッチにスーパーマックスを払う事に疑問を持っていた事が伺えます。そして、それは金額が問題ではない事が、次のエイミックの記事からわかります。
ドンチッチの延長契約は5年間で$345Mに達する可能性があり、これはキャップの35%に相当し、選手が受け取ることができる最大の契約だ。デイヴィスはすでに来シーズンから適用される35%のマックス契約を結んでいる。もしダラスが彼を1年半後に契約延長する場合、再び35%のマックス契約をオファーすることになるはずで、それは彼の37歳シーズンまで続くことになる。
その額面はデイヴィスでもドンチッチでもほぼ同じだ。その意味では、マーヴェリックスの論理はスーパーマックス契約を避けることではなかった。ダラスは、20代のドンチッチよりも30代半ばのデイヴィスを同じ額で選ぶという決断を下したのだ。
マーヴェリックスは、デイヴィスの獲得が新たなディフェンスの要となると考えている。
スタイン・ラインのマーク・スタインも同様に次のようにレポートしています。
マーヴェリックスがNBAファイナルズでボストン・セルティックスに一方的に敗れて以来、ドンチッチが、1)コンディショニングやコート外での食生活の管理を改善しない。2)リーダーやチームカルチャーを築く存在として成長しない。3)審判との問題でよく話題になる態度を改めない。4)年齢を重ねるにつれて健康を維持できない。リーグソースは、ハリソンが2021年6月にマーヴェリックスに加わって以来、チームとドンチッチはこうした問題に取り組んできたが、結局、彼が期待していた$350Mに近い5年のスーパーマックス契約を与えることはできないと結論づけたと言っている。
The Athleticは、「マーヴェリックスは決してドンチッチにメガディール(スーパーマックスの事)をオファーするつもりはなかったとソースが言った」とレポートしています。
マヴスは、スーパーマックスに相応しいキャラクター、ワークエシック、カルチャーをつくれるようなリーダーシップがあるのはどういう選手なのかの定義を見直し、ドンチッチに$345Mの価値はないと考えたのでしょう。なしにろ、世代を代表する選手を1巡目指名権ひとつでトレードに出す程の判断です。吐きそうな程考えて考え抜いたはずです。
ハリソンも「何もしないのが一番簡単で、皆から称賛されるだろう。しかし、私たちは本当にこの決断を信じている。時間が経てば、私が正しかったかどうかがわかるだろう」と言って、「10年後のことはわからない。その頃には私とJ(ジェイソン・キッド)は墓に入っているかもしれないし、自分たちで自分を埋めているかもしれない」と話し、その覚悟の程を見せています。
オーナーシップ
2023年12月にマーヴェリックスのオーナーシップがマーク・キューバンからアデルソン家に変わった事も大きな要因でしょう。ルカの幸せが最優先だったと言われているキューバンがまだオーナーでい続けていれば、ドンチッチをトレードに出す事はなかったと言い切れます。しかし、キューバンはドンチッチのトレードの件では全くの蚊帳の外で、それを知った時にハリソンにトレードをしないように頼んだそうですが、すでに手遅れだったとの事です。
スタイン・ラインのマーク・スタインによれば、「オーナーであるパトリック・デュモンは、ドンチッチに対してキューバンと同じような関係性もなければ、バスケットボールの決定に積極的に関与しようという意志も持っていなかった」そうです。
また、シェルバーンは、「デュモンは、マヴェリックスの長期的な財務の柔軟性を維持するためのビジネス上の決断としてこれを見ていたとチームソースは話していて、デイヴィスがカルチャーを作り、チームに新しいディフェンス志向のアイデンティティーを与えるというハリソンの構想を信頼していた」とレポートしています。
逆風
The Athleticのジョン・ホリンジャーは、このルカ・トレードを次のようにまとめています。
今回のトレードには、大失敗に終わるリスクがかなり高いように見える。今のマーヴェリックスは、高齢化しつつある上にコストもかかるチームになってしまった。さらに、自分たちで2027年から2030年までの間のドラフト1巡目指名権をコントロールできない。つまり、その期間にチームが低迷した場合、再建が極めて困難になる。カイリー・アーヴィンは来月33歳になり、デイヴィスも32歳になる。しかも、2人ともこれまでのキャリアでアイアンマンのような耐久性を見せたことはない。このコンビがウェスタン・カンファレンスのトップ争いにどれほどの時間関与できるのか、現実的な視点で考える必要がある
元マヴスの定量的リサーチ&デベロップメント(アナリストの事だと思います)で、ドンチッチからキレられてフロントから首にされたと言われていたハララボス・ヴォルガリスはと言うと…
これはスポーツ市場最悪のトレードのひとつ(もしかすると最悪なもの)になる。プライム中のトップ3に入る選手をトレードで手放し、そのリターンがひとつの1巡目ともうじき32歳になるアンソニー・デイヴィスだ。さらに2巡目を入れた事実は*絶妙*だ。ネッツは34歳だったKDでジョンソンとブリッジスで4つのプロテクションなしの1巡目+スワップを得て、ブリッジスはその後、5つの1巡目とトレードされた。
マヴスは昨シーズンのトレード・デッドライン後はトップ3のディフェンスで、NBAファイナルズでNBA史上最高のオフェンスではないにしても、そのチームのひとつであるセルティクスに負けた。もしディフェンスで優勝できると思って、ADを4でプレーさせ、PJに3 を守らせ、クレイに2を守らせ、カイリーに1を守らせるなら、幸運を祈るとしか言えない。マヴスは今自分や他人のためにショットをつくり出せる選手がロスターにたったひとりしかいない。それはカイリーで、彼はもうすぐ33歳になる。
他に付け足すとすれば、デニス・リンジーは昨年マヴスにいて、素晴らしいバスケットボール・マインドを持っていた。彼は今シーズンからピストンズに働きに行った。これについては好きなように考えてくれ。
ごめん、もうひとつだけ。この全てで最もおもしろい事は、これを秘密にし、誰にもこのトレードのアイディアをシェアしなかったペリンカに感謝する事だ。もしろん、彼はマヴスにいる脳みそを持った誰かがそれに気づいて中止させる事を避けたかったので秘密にしておきたかっただろう。または、とんでもないことだが、それが他チームにリークして、現実的なパッケージをオファーしはじめたら…ペリンカの勝利だ。
元ESPNのエース・レポーターのひとりだったザック・ロウもトレードから1週間経った後に次のような感想を述べています。
私はまだマーヴェリックスが*この*トレードをこのリターンで*この時*に--約束の地に連れていけないと結論づけた選手がファイナルズへ導いてくれたシーズン後のシーズンの途中に--したのが信じられないでいる。
そんなこんなでマヴスのデイヴィス時代は批判の嵐という超逆風の中ではじまりました。
そのデイヴィスもデビュー戦で内転筋のケガをしてしまい、少なくても数週間の欠場になってしまいました。現在マヴスはセンターが全員ケガをしてしまい、6'7"のオリヴィエ=マクセンス・プロスパーがセンターを務める事態となり、ウェスト8位になっています。直ぐ下には、1.5ゲーム差でドッドラインで戦力を強化したキングスとウォリアーズが迫っています。
ハリソンにとっては厳しい試練が続きます。これでプレーオフを逃したら殺害予告だけでは済まないかもしれません。それに加え、マヴスはドンチッチに最適化されたロスターをデイヴィスとアーヴィンを中心としたチームに変える時間も必要です。カルチャーも一石一夕でできるものではありません。
しかし、レポーターたちやファンたちが忘れている事があります。
それは、キューバンが意思決定から離れてからのハリソンは良い仕事をしているという事です。昨シーズンのトレード・デッドラインではワシントン、ギャフォードを獲得し、それまで負け越していたチームをNBAファイナルズに勝ち進めるチームに変えました。昨年の夏のクレイ・トンプソンとのFA契約におけるキャップワークも目を見張るものがありました。このオフシーズンでは、サンダーのサム・プレスティーと並んで最高な動きをしたGMだと思います(ハバラボス絶賛のリンジーはFA前にピストンズに引き抜かれていますが、彼が事前に絵を描いた可能性もありますね)。ハリソンのビジョンも理解できます。ここはハリソンのこれまでの実績を鑑みて、もう少し彼を信じても良いのではないでしょうか。もしかしたら、クリスティーがドンチッチをロックダウンする日が来るかもしれません(サイズ的に厳しいかな)。
いずれにしても、ハリソンの思い描くチームが形になり、結果が出るのは早くても来シーズンになりそうです。ハリソンの評価はこの数年にかかっています。
マーヴェリックスとレイカーズのトレード交渉の詳細
このトレードがビッグニュースになったすぐ後に、ESPNのマクマホンは、「ニコ・ハリソンはレイカーズ以外のどの球団ともドンチッチのトレードについて話し合わなかった。ハリソンは、1月7日にレイカーズがマーベリックスと対戦するためにダラスを訪れた時、ロサンゼルスのゼネラルマネージャーであるロブ・ペリンカとコーヒーを飲みながら交渉を始め、それが数週間にわたって進展していった。『この話は私たちの間だけに留めていた』とハリソンは言った」と伝えていました。
トレード要求をしていないスターのトレードと言えば、メディアにリークさせ、リーグの全チームにオファーを競わせて、その中から最高のリターンを引き出すのが定石。であるにも関わらず、なぜかハリソンはレイカーズとの極秘トレードを選択します。
ハリソンがそれだけデイヴィスを欲しがっていたという事の表れなのでしょうが、ハリソンの頭の中は一体どうなっていたのか?
それについて、ESPNのラモナ・シェルバーンが詳しく書いているので紹介します。
ダラスに7店舗あるAscension Coffeeのひとつに入ると、この高級カフェのシグネチャーである「ジャパニーズ・アイスドリップコーヒー」をつくるための高いガラスの塔がある。水がフィルターを通るのに12時間かかり、バリスタが窒素ガスと一緒にコーヒーをカップに淹れる。1月7日の朝、ダラス・マーヴィリックスのジェネラルマネージャーであるニコ・ハリソンは、アメリカンエアライン・センターから半マイル程度のホテル・クレセントコートのロビーにあるAscension Coffeeにレイカーズのジェネラルマネージャーであるロブ・ペリンカを招いて、NBA全体に衝撃を与えるであろう困難でデリケートなトレードトークをはじめた。
そしてそのほぼ1ヶ月後、レイカーズとマーヴィリックスは、NBA史上最高にショッキングかもしれないルカ・ドンチッチと、オールNBAのビッグマンであるアンソニー・デイヴィスのトレードをやってのけた。
A photo of the first coffee shop meeting between Rob Pelinka & Nico Harrison to discuss the Luka-AD trade has been released 👀
— NBA Retweet (@RTNBA) February 8, 2025
via @wfaa, h/t @LegionHoops pic.twitter.com/1HRjBQAjxE
ハリソンは早い段階で決断したとチームのソースは言った。ドンチッチのような選手をトレードする最良の方法は、自分が望むトレードを決めることであり、そのプロセスを公にすることではなかった。そうすることで、ドンチッチや彼のエージェントが自らの影響力を行使するのを避けることができる。それに加えて、契約を左右しかねないファンからの強烈な反発も回避できる。
ペリンカとレイカーズはその考えを理解していた。何も漏れてはいけなかった。一言もだ。彼らは過去の大型トレードで何度も同じ教訓を学んでいた。2011年、当時のNBAコミッショナーだったデイヴィッド・スターンがライバルオーナーからの圧力を受け、クリス・ポールのトレードを阻止した。
2019年、デイヴィスを獲得するための長期にわたる騒々しい交渉が、2018-19シーズンの後半を台無しにし、レイカーズのプレジデントだったマジック・ジョンソンの不名誉な退任の要因となった。そして昨年、レブロン・ジェームズをウォリアーズにトレードするというオーナー同士の驚くべき交渉が、最終的にジェームズのエージェントであるリッチ・ポールによって阻止された。
これらすべてのトレードは外部の力がトレードのプロセスを妨害した。この規模のトレードを成功させるためには、関与する人間の輪を小さくしなければならなかった。そして、ハリソンがこの極めてデリケートで極秘のプロセスを遂行できると信頼できた唯一の人物がペリンカだった。
ペリンカとハリソンはナイキの公式業務や家族同士のバケーションで、コービー・ブライアントと一緒に世界を旅した。彼らはブライアントのインナーサークルの一員で、お互いに頼り合っていた。2020年、ブライアントがヘリコプター事故で悲劇的に亡くなった時もそうだった。
これらすべてが、ハリソンが自身のキャリアで最大の賭けについて話し合う相手としてペリンカ以外に考えられなかった理由につながる。
マーク・キューバンは、レイカーズがこの規模のトレードを最後に成功させた時にその場にいた。彼は2011年末、レイカーズのパウ・ガソルとラマー・オドムを中心としたパッケージでニューオーリンズ・ホーネッツのクリス・ポールをレイカーズに送るという3チーム・トレードに反対したオーナーのひとりだった。
その時の会議は5時間にわたり、オーナーたちは、スモールマーケットのチームへの公平性やスター選手の移籍が球団の価値に及ぼす影響について激しく議論した。
当時のコミッショナーであるデイヴィッド・スターンは、これらの会議を強権的に仕切っていて、CBAが交渉されて承認されるまで、部屋にいる全員に携帯電話の電源を切らせていた。彼の命令を破った者は、厳しく叱責された。それが、癌の手術を受けていた父ジェリー・バスの代理を務めていたジーニー・バスがそのNBAの理事会に出ていたのと時を同じくして、兄のジム・バスと当時のGMミッチ・カプチャックがクリス・ポールのトレードを交渉していたことを知らなかった理由のひとつだった。
もし彼女がそれを知っていたら、彼女はそれがスターンの耳に入らないようにトレードを秘密にするよう主張していたはずだった。なぜなら、スターンはホーネッツの事実上のオーナーとして、そのトレードを承認または拒否する権限を持っていたからだ。
当時25歳だったポールは、今のドンチッチと同じ年齢だった。レイカーズは、ポールがブライアントの後継者としてフランチャイズの顔になると信じていたように、今もまた、ドンチッチがジェームズの後を継ぐと考えている。
しかし、スターンがそのトレードを却下し、ポールはライバルのクリッパーズへ移籍し、レイカーズはブライアントのキャリア最後の3年間と、その後の3年間をロッタリーで過ごし、後継者を探した。結局、2018年にジェームズがFAとして加入するまで、それは叶わなかった。
この経験は、レイカーズにトレードを最後まで秘密にすることの価値とリスクを教えた。
2019年、彼らはニューオーリンズとのデイヴィス獲得交渉が長引き、ドラフトした若手選手たちとの関係が崩れ、交渉の主導権を失うという苦い経験を再び味わった。
昨シーズンも、ジェームズのエージェントであるリッチ・ポールに、ジェームズがウォリアーズへの移籍を望むか尋ねた時に交渉が頓挫した。ウォリアーズ側がジェームズはそのようなトレードにもオープンだという情報を得て交渉を持ちかけたが、ポールが拒否したために話は立ち消えた。
今回は、ハリソン、デュモン、ペリンカ、バスの4人以外は関与しなかった。ポールも、ドンチッチや彼のエージェントも、アーヴィンや彼のエージェントも、ヘッドコーチであるキッドやレイカーズのレディックさえも口を出すことはなかった。
The Athleticによれば、ハリソンがリーグ中からオファーを受け取らなかったのは、「ハリソンは、もしマヴスがドンチッチをトレードしようとしている事が公になれば、球団の内部が壊滅的になる事を心配していた」からだそうで、「ジミー・バトラーでヒートが経験したように、不満なスターは頭痛の種になる」と考えていたからだそうです。
ハリソンがこのように静かに動くスタイルはナイキ時代に培われていたようで、ナイキでは「ザ・シールズ」と呼ばれるNBA選手の代理人の内のひとりだったそうです。そのザ・シールズは海軍の特殊部隊であるネイビーシールズにちなんで名付けられ、密かに動く事を好んでいたとの事。ナイキ時代にハリソンと働いていた人は、「もしそれがより大きなミッションを果たす事につながると信じるなら、彼は大胆な選択肢をとる。そうは言っても、彼は私がこれまで会った人の中でもっとも慎重なリスクテイカーのひとりだ。ニコには行き当たりばったりで無謀なところはない」とハリソンについて語っています。
The Athleticによると、「ダラスは約2週間前にレイカーズ以外の少なくとも1チームに対して、ドンチッチを別のスター選手とトレードする可能性について打診していた」そうです。それはスパーズのヴィクター・ウェンバンヤマではないかと言っている人たちもいます。
「そのオファーは断られたが、この過程で送られたメッセージは明確だった。ダラスでは問題が起きていた。そして、最終的にその恩恵を受けたのはレイカーズだった」
ロサンゼルス・レイカーズから見たトレード
レイカーズは、1月7日前までは2025年のトレード期限までにジェームズとデイヴィスを中心にロスターを強化することを想定していたそうです。しかし、マーヴェリックスからドンチッチのトレードを持ちかけられて、全てが変わりました。
レイカーズにとっては棚からぼた餅、いや、餅どころか小判が落ちてきたような展開です。1巡目指名権などのアセットがない厳しい台所状況の中、まだ25歳で世代を代表するようなスーパースターを獲得できるのです。断らない理由はありません。The Athleticのヨハン・ブハによると、「そのチャンスはレイカーズにとってあまりにも魅力的で、見逃すことはできなかったと、リーグ関係者やチーム関係者は話していた」そうです。ノートレード条項がなければ、レブロンですらトレードしていたのではないでしょうか?
そして、レイカーズは1巡目指名権ひとつという破格のお値段でドンチッチを獲得しました。
マーヴェリックスが2023年にフリーエージェントになるカイリー・アーヴィンをトレードで獲得した時に出した指名権は1巡目指名権ひとつ(2029年)と2巡目指名権ふたつ(2027年と2029年)だけでした。完全にレンタルなので、この指名権の数は妥当だったのかもしれません。しかし、それに比べ、これからプライムに突入するドンチッチには契約があと1年半残っています。アーヴィンよりもドンチッチの方が安く手に入るとはどんなロジックなのでしょうか?
このトレードはリークされないように秘密裏で進められていたため、エージェントや本人を通しませんでした。そうすると、レイカーズはドンチッチが長期的にレイカーズにコミットするかどうかがわかりません。ドンチッチが1年半後の2026年にフリーエージェントで他のチームに行ってしまうリスクもあります。これは後日取り上げたいと思いますが、2026年のフリーエージェンシー市場を見越して、キャップシートを調整しているチームが割と見受けられます。レイカーズの不安もやぶさかではありません。レイカーズはドンチッチのフライトリスクがある中、限りある指名権すべてを使ってしまう事はできなかったでしょう。
アンソニー・デイヴィスの市場価値が指名権3つだと仮定して、ドンチッチが指名権5つで獲得できると考えると、差し引き2で、マヴスは最低でも2つの指名権を得られるはずです。それにお互いのデイヴィスとドンチッチのフライトリスクの差を加味し、スワップなしの1巡目1つで落ち着いた感じでしょうか。または、レイカーズはクリスティーに1巡目ひとつの価格設定にしていて、1巡目4つと5つの取引に持ち込んだのかもしれません。
ジャスとのトレード交渉
レイカーズはこのトレードでシフィーノを引き受けてくれるチームにジャスを選びました。ESPNのシャルバーンによると、ジャズはシフィーノと2巡目指名権ふたつを獲得する事だけ知らされていたそうです。
問題はタイミングでした。当時ジャズはクリッパーズとドリュー・ユーバンクスとパティー・ミルズのトレードを交渉してたところで、ジャズのトレード成立の順番は、クリッパーズ→レイカーズでなければいけませんでした。
しかし、レイカーズはニューヨーク市でのニックス戦が終わってロスに帰る前にクリスティーにトレードを知らせたがっていたそうです。そのため、ジャズにクリッパーズとのトレードをニックス戦が終わるまでに終わらせるように頼んでいたとの事。おそらく、マヴスも他のトレード(シクサーズとの)を急いでいたので、レイカーズも急かされていたのだと思いますし、レイカーズもデッドラインまでにドンチッチ獲得以降の動きをしたかったので急いでいたのだと思います。
結局、ジャズがクリッパーズとのトレードを終わらせたのが、ニックス戦がはじまった20:30 ETあたりだったそうで、ドンチッチのトレードが発表されたのが12:15 ETでした。そのおよそ4時間の間に、トレードの事をまったく知らされていなかったデイヴィスにトレード・キッカーの取り消し交渉をして、トレード内容を調整しなければいけなかったと思われます。デイヴィスはトレードの事を知った時には自宅にいて妻と映画を観ようとしていたそうなので、ひょっとしたらレイカーズの試合を見終わった23:00 ETあたりからのキッカー交渉だったのかもしれません。かなりスピーディーな展開で、レイカーズもマーヴェリックスも事前にかなりシュミレーションをしていた事が伺えます。
そして、このトレードで気になるのはレブロン・ジェームズがどう思ったのかです。
レブロン・ジェームズ
これまでジェームズは補強をするようにフロントオフィスにプレッシャーをかけていく側でしたが、今回は事前に相談もなく共にチームを支えてきたパートナーのアンソニー・デイヴィスをトレードされた上に、自分より上の選手がやってくるのです。ジェームズにとっては想定外の展開だと言えます。それだけにジェームズのメンタルが心配になります。
The Athleticのヨハン・ブハは、トレードを知った時のジェームズについて次のように伝えています。
ジェームズはこのトレードに動揺していなかったとリーグのソースは言った。彼は、土曜日の夜にマディソンスクエア・ガーデンでニックスを破り、トリプルダブルを記録した後、ニューヨークで家族と一緒に夕食を取っていた。その時、エージェントのリッチ・ポールからトレードを知らされた時はショックを受けた。ポールはデイヴィスのエージェントでもある。そのソースによると、ジェームズが最も気にかけていたのは、トレード後のデイヴィスの感情だった。
ジェームズがデイヴィスを気にかけるのも当然です。デイヴィスは1月26日に投稿されたシャムズとのインタビューで、チームにトレードでセンターを獲得するよう遠回しに求めていました。まさかこの時、ペリンカが裏で自分をトレードしようとしているとは思っていなかったはずです。トレードの知らせを受けた時には相当なショックを受けたでしょう。ただ、デイヴィスはすんなりとトレードキッカーを取り消しているので、納得するには時間はかからなかったようです。
トレード自体のジェームズの考えについて、ブハは、「これは単に彼がロスター変更を望んだからあった訳ではなく、レイカーズが必要とした"ビジネス上の決断"だと見ていた」と伝えていて、ジェームズもレイカーズの動きには理解があった事を示唆しています。ただ、それはデイヴィスのトレード対価がドンチッチだったからだっと思われます。
ウィンドホーストによると、レブロンは何年もドンチッチとプレーする事を「夢見ていた」そうで、「彼(ジェームズ)は(それを)本当に、本当に求めていたが、それが実現できるものとは思っていなかった。ルカがナイキ内で移動すると決めた時、レブロンは彼を自分のシューブランドに来るようにとてもハードにプッシュしていた…彼をリクルートしようとしていた。彼は彼らが一緒にプレーするビジョンを見ていた」そうなので、ジェームズにとってデイヴィスのトレードは嬉しい誤算だったのかもしれません。
チームの中心はドンチッチへ
トレード後のレイカーズは、もはやチームの中心はジェームズではなく、ドンチッチかのように動きました。
シェルバーンによると、レイカーズに来たドンチッチはペリンカに、「自分はヴァーティカルなロブの脅威があるセンターとプレーした時にベストなプレーができる」と伝えたそうです。同じESPNのデイヴ・マクメナミンも同様なレポートをしていました。
ペリンカ曰く、ドンチッチを獲得した後にホーネッツからうまい具合にセンターのマーク・ウィリアムズの売り込みがあったそうです。かのカート・ランビスもウィリアムズにお墨付きを与え、ペリンカはそのチャンスに飛びつきました。ペリンカは、ウィリアムズ獲得のために、去年の1巡目指名であるダルトン・コネクトとキャム・レディッシュ、それに2031年の1巡目指名権(プロテクションなし)と2030年の1巡目指名権スワップをホーネッツに送るトレードに合意しました。(このトレードでは、ウィリアムズがドンチッチよりも高く売れたとジョークのネタになっていました)
後に、このトレードはレイカーズ側がウィリアムズがフィジカルにパスしなかったとして取り消されています。(このトレードを取り消す規定が面白いので、こんど取り上げようと思います)
この時に新たに出てきた情報では、ペリンカがドンチッチにトレードできる可能性があるセンターのリストを渡し、ドンチッチに誰がいいか選ばせたのだそうです。マクメナミンは、「ルカ・ドンチッチが選んだのはウィリアムズだった…彼がそれを選んだ」と伝えています。
デッドラインも過ぎてしまい、ビッグの補強はバイアウトか海外やGリーグの選手でしかできませんが、重要なのはそこではありません。それまでジェームズやデイヴィスがトレードをプッシュしても出し渋っていたアセットを、レイカーズはまだ1試合もプレーしていない選手のために解禁にしたのです。これはドンチッチのフライトリスクを想定しての事だと思うので、当然と言えば当然の判断ですが、それは、レイカーズはドンチッチのチームにシフトした事を意味しています。
今後のチームづくりの焦点は、いかにドンチッチにフィットする選手を集められるかになるでしょう。
レイカーズのキャップシート
レイカーズの狙いがドンチッチをチームに留める事だとすると、気になるのがサラリーキャップです。
ドンチッチはこの夏にレイカーズと4年$229Mのマックス契約延長ができます。予想されているのは、3年(2+1)$165Mの契約延長です。そうすればドンチッチは2028年に10年選手としてキャップの35%を占めるマックス契約ができるようになり、生涯年棒を最大化する事ができます。レイカーズは躊躇なくドンチッチが望む契約延長をオファーをするでしょう。
その場合、レイカーズの2026年のキャップスペースは現段階でおよそ$80M近くになり、10年選手とマックス契約する事が可能になります。その時にはジェームズが引退していると考えると、ドンチッチと組めるスターを得るのはここがチャンスです。
その時のオールスター級の選手には、デミアン・リラード、ケヴィン・デュラント、カイリー・アーヴィン、ジェームズ・ハーデン、ブラッドリー・ビールらがいます。彼らはすでに30代半ばで、ドンチッチのタイムラインには合わないでしょう。それよりも若い選手では、ザック・ラヴィーン、トレ・ヤング、ディアーロン・フォックス(今年スパーズと契約延長する見込み)がいます。
フリーエージェントのセンターには、ドンチッチ同じドラフトクラスで1位指名だったデアンドレ・エイトン、マヴスではうまくいかなかったクリスタプス・ポージンギス、エイリアンの異名を持つヴィクター・ウェンバンヤマ(スパーズと契約延長するのは間違いないでしょう)、チェット・ホルムグレン(サンダーと契約延長するのは間違いないでしょう)、今年オールスターに選ばれたジャレン・ジャクソンJr.(今年グリズリーズと契約延長する見込み) らがいます。
センターのロールプレーヤーなら、アイゼィア・ハーテンスタイン、マヴスで一緒だったダニエル・ギャフォードやデリック・ライヴリー、ロバート・ウィリアムズ、ジェイレン・ダーレン、今回狙っていたマーク・ウィリアムズやウォーカー・ケスラーもいます。
ウィングではミケル・ブリッジス、アンドリュー・ウィギンス、パオロ・バンケロ、ジャバリ・スミス、キーガン・マレー、ダイソン・ダニエルズ、ケイソン・ウォレス、タリ・イーソン、PJ・ワシントン、DFSがフリーエージェントになる予定です。我らが八村塁も忘れてはいけません。レイカーズのディフェンス面での課題もここで解決できるかもしれません。
ご覧のように、ここにあげた選手のほとんどは契約延長をしてしまい、競合も多いため、結局はお目当の選手はトレードでしか手に入らないかもしれません。ただ、その頃はチームづくりの自由度は格段にあがることは間違いありません。ドラフト、そして今年のフリーエージェンシーでの動きもそれに続く布石となり得るので、今後のレイカーズの動きに注目です。
ドンチッチのフィット
気になるチームへのフィットに関しては、あのバスケットボールIQがあれば問題ないでしょう。ただ、それとどうジェームズとの相乗効果を生み出すのかはまた別の話です。ドンチッチも自分よりもリーダーシップがあるアルファタイプの選手とプレーした事がないと思うので、ジェームズとのプレーには注目していきたいと思います。
特にドンチッチは、現代スポーツ界で最も徹底したコンディショニングをしていると評されているジェームズのワークエシックを間近で見る事により、体への意識が変わるかもしれません。そもそもドンチッチのプレースタイルは運動能力に依存していないので、体をケアすれば30半ばまでプライムでいられるかもしれません。もしそうなれば、このトレードはドンチッチにとってはキャリア最高のターニングポイントとして振り返る事ができると思います。
そのジェームズも自分よりも良い選手とプレーする事ははじめてだと思うので、史上最高の選手のひとりと言われている彼が、どうドンチッチに適応していくかも興味深いところです。
マヴスはドンチッチがいた時は常にP&RのPPPがリーグ5位以内に入っていました。レイカーズはその軌跡を辿り、ハリソンが見放したルカ・ボールで優勝を狙うのでしょうか。今後レイカーズがどのような選手を揃え、どのようなアイデンティティーを持つのか楽しみで仕方ありません。そして、ドンチッチにはコンディショニングを徹底的に見直してもらって、プレーオフでハリソンとマヴスを見返しようなプレーを見せて欲しいと思います。