マーケティングの新常識:エビデンス・データで裏付けるブランド戦略
エビデンスベースドマーケティングとは
エビデンスベースドマーケティングとは、従来のマーケティング理論をデータで再検証し、新たな戦略を提案するアプローチである。従来の理論はしばしば経験や直感に基づいていたが、エビデンスベースドマーケティングは実証データに基づき、より効果的なマーケティング戦略を構築することを目指している。本記事にて紹介する書籍の『戦略ごっこ―マーケティング以前の問題』では、マーケティングやブランディングの常識を事実ベースで洗いなおし、新たな洞察を提供している。
新規顧客 vs 既存顧客
新規顧客と既存顧客のどちらが重要かという議論は長く続いているが、成長に対するインパクトは「新規獲得>ロイヤルティ向上」である。新規顧客の獲得が成長の鍵となることがデータで示されている。例えば、新規顧客の獲得は企業の成長に大きな影響を与え、既存顧客のロイヤルティ向上よりも効果的であることが多い。
また、顧客関係管理にかかるコストは変動が大きく、既存顧客の管理コストは新規顧客とほとんど変わらない場合がある。ロイヤル顧客が必ずしも収益性が高いわけではなく、逆にコストがかかる場合もある。
顧客ロイヤルティの真実
顧客ロイヤルティについても多くの誤解があり、上位2割の顧客が全売上の50~60%程度しか占めていないというデータがある。さらに、ヘビーユーザーの安定性も高くなく、1年で半数が入れ替わることが多い。これは、同じ人でも時期によって購買頻度が変わるためである。実際には、多くの顧客はウルトラライトユーザーであり、その貢献が売上の半分近くを占めることがある。ウルトラライトユーザーは年間1回以下しか購入しないが、小さなブランドにとっては顧客基盤に占める割合が大きくなる。
効果的な広告予算配分
広告予算の配分についても新しい視点が求められる。消費財においては、長期的なブランド構築に60%、短期的な購買喚起に40%の配分が効果的である。一方、サブスクリプションモデルでは、ブランド構築に74%、購買喚起に26%の配分が推奨されている。また、広告ROIを考える際には、トータルROI、インクリメンタルROI、マージナルROIの3つの視点が重要である。特に、インクリメンタルROIは、追加で行ったマーケティング活動によって得られる増分リターンを評価するための指標であり、次にどの媒体に広告を出すとROIが高くなるのかを考える際に有用である。
ブランド成長の新たな視点
ブランド成長の鍵は、差別化ではなくカテゴリーエントリーポイント(CEP)の拡大にある。ブランドとCEPの結びつきを強めることで、多くの顧客基盤を獲得することができる。データによれば、ブランドの成長は特定のターゲットセグメントだけでなく、あらゆるセグメントから新規顧客を獲得することで実現される。また、広告予算の分散による小規模な広告ではなく、広範囲にリーチする広告戦略が求められる。ブランドとCEPの結びつきを強めることで、需要が発生したときにブランドが想起される確率を増やすことが重要である。
まとめ
エビデンスベースドマーケティングは、データに基づく新たなマーケティング手法である。
新規顧客の獲得は、既存顧客のロイヤルティ向上よりも成長に寄与する場合がある。
ブランドの成長には、カテゴリーエントリーポイント(CEP)の拡大が重要であり、差別化だけでは不十分である。