アーティストとエンターテイナーの違い

（2019年に別媒体で投稿したブログ記事を加筆修正したものです）

今回は自分がこれまでの留学生活の中で気づいた、舞台に立つ人間として感じるやりがいには、2種類あるんじゃないかっていう話。

僕は自分を表現するために音楽をしているわけではない

僕は音大で「プロテスト・ソング」という授業に参加していた。

社会に対して自分が訴えかけたいものを曲にして発表する授業。

みんながどんどん曲を作っていく中、僕はやっとの思いで日本の過労死の現状を嘆く曲を作り上げた。先生やクラスメイトからの評価はよかったのに、僕はなぜかそこまでうれしく思わなかった。

次に作る曲のテーマ決めに苦労していると、先生が「あなたの中にある溢れる思いを音で表現すればいいのよ」と言ってきた。その時気づいたことがある。

『音で表現したいほど溢れる思いがねえわ』と。

別に感情を感じないとかそういうわけではなく、何かムカつくことがあったとしてもそれを音楽で表現することに興味がないんです。

そのことを先生に正直に伝えたら、「あなたは自分が表現したいものがないのになぜ音楽をやっているの？」と真剣に聞かれた。

うーむ、僕はなんのために音楽をやっているのか。

僕はアーティストである前にエンターテイナーだ

僕は「自分の中にあるものを、様々な媒体を通して自分の体の外に表現する人」のことをアーティストと呼ぶんだと思っている。

一方でエンターテイナーは、「手法はなんであれ、自分を通して周囲の人を楽しませる人」だと思っている。

僕の勝手なイメージだけど、0から1を生み出すのがアーティストで、1あるものを10にも100にもするのがエンターテイナー。

中には両方の要素を兼ね備えた人もいる。

想いや感情を言葉や音符で表現する作曲家・作詞家はアーティスト。

人から与えられた歌を歌い、踊りを踊り、その作品の魅力をたくさんの人に伝え、たくさんの人を楽しませるアイドルはエンターテイナー。

自ら曲を作り、自らの声と体でその曲を演奏し人を楽しませるシンガーソングライターはアーティスト兼エンターテイナー。

こう考えるとわかりやすいかな？

そう考えたとき、僕がやりがいを感じるのはエンターテイナーとして音楽を演奏しているときだと気づく。というか、音楽を演奏していなくても、人を楽しませられていたらそれで幸せなのではないかとすら思う。

僕にとって音楽とは、人を楽しませるいくつもの手法の中で、僕が一番最初に出会ったものというだけのことなのではないか。

だから僕はダンスやお芝居も好きだし、人前で司会をして笑いを取るのも好きだし、マジックとかで人を驚かせるのも大好き。

僕にとって一番大事なのは、僕が何をやりたいかより、僕のパフォーマンスを見てくれる人が喜んでくれるかどうか。

ときにアーティストの中には、周囲の批判をものともせずに自分の表現したいことを追求する人がいる。ジャズの歴史を見ていっても、自身の表現したい音楽を追求したがゆえに聴き手が離れていったアーティストがたくさんいる。

そこまでして自己表現と向き合える人たちのことを尊敬はするけど、僕はそうはなれないし、なりたいともあまり思わない。

もちろん自己表現をしつつ、たくさんの人に受け入れられる作品を発表するアーティストの方々もたくさんいて、それはそれで素晴らしいことだと思う。僕が大尊敬するMJとか星野源さんなんてその典型。

僕の場合は、ほかの人が作曲したものを「こんな風に演奏してくれ」と言われたとして、そこに自分のクリエイティブなエッセンスが1ミリも入っていなかったとしても、僕が演奏することでたくさんの人が楽しんでくれるならやりがいを感じる。

一方で、一切クリエイティブな作業が嫌いなのかというとそういうわけでもない。
何もないところから作り上げるのは苦手でも、すでにある作品に「もっとこういう要素を付け加えたらより効果的に伝わるのではないか。もっとお客さんが喜んでくれるのではないか。」といったことを考えるのは好きだし、そういうアイデアが出るスピードには自信がある。

あくまでアイデアを出す際の視点が、自分の表現したいことなのか、お客さんが見たいことなのか、が違うだけ。

みなさんはアーティスト派？エンターテイナー派？

僕自身のことをだらだらと書いてきましたが、みなさんはこれを読んで何か自分自身について気づいたこととかありますか？

舞台芸術に関わる人もそうでない人も、このアーティストとエンターテイナーという2つのタイプで自分を分析してみると、自分が仕事をするうえで大切にしている本質的な部分が見えてくると思うんです。

どっちがいい、どっちが悪いとかではなく、単純に自分はどっちのタイプかがわかれば、今後自分の進路を選択していくうえで結構使える指標になる気がするんですが・・・。

これはあくまで僕自身の個人的な分析です。

でもこれを読んでくれている誰かが、何か新たに自分に関して気づいたことがあったらいいなーなんて思っています。では。