古代の蚊はオスも血を吸ってた⁈ 蚊の吸血能力進化の謎
ブンブンと羽音を立てて血を吸いにやってくる蚊は、私たちを悩ませる最も身近な生き物です。
しかし実際に血を吸うのは産卵前のメスだけであり、オスが私たちに危害を加えることはありません。
ところがオスの蚊も最初から血を吸わなかったわけではないようです。
レバノン大学(Lebanese University)、中国科学院(CAS)、パリ国立自然史博物館(MNHN)の研究で、約1億3000万年前の琥珀化石からオスの蚊も吸血能力をもっていた証拠が発見されました。
これはオスの蚊が進化のどこかで血を吸うのをやめたことを示しており、非常に興味深い発見となっています。
研究の詳細は、2023年12月4日付で科学雑誌『Current Biology』に掲載されました。
参考文献
元論文
The earliest fossil mosquito
https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(23)01448-3
ライター:大石 航樹(Koki Oishi)
愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
血を吸うのは「産卵前のメス」だけ
蚊は約1億7000万年前の恐竜時代にあたるジュラ紀に出現し、いくつかのグループに分かれながら進化を続けてきました。
現生するグループには、吸血性のない「ホソカ科(Dixidae)」「ケヨソイカ科(Chaoboridae)」、カエルの血を吸う「チスイケヨソイカ科(corethrellidae)」、そして人やその他の動物の血を吸う「カ科(Culicidae)」がいます。
私たちに最も身近なカ科には、世界に約3000種類が存在し、うち日本には約100種がいます。
蚊は吸血によって病原菌を媒介する危険な生物であり、マラリア・デング熱・黄熱などの伝染病の原因となっています。
特にアフリカなどの熱帯地域では年間50万人の死者が出ており、人類を最も死に至らしめている生物です。
その一方で、血を吸うのは「産卵前のメスだけ」であるのをご存知でしょうか?
蚊は人を含め、牛や豚、馬、ニワトリの血を吸っていますが、それらはすべて「交尾後のメス」なのです。
蚊の主なエネルギー源は糖分であり、オスもメスも普段は花の蜜を吸って暮らしています。
しかし産卵前になると、メスはたくさんの卵を産むために糖分だけでなくタンパク質などの栄養が必要となります。
そうした貴重な栄養源を持っているのは人間や動物なので、産卵前のメスは危険を承知で私たちの血を吸いにやってくるのです。
そのため、メスの蚊の口吻(こうふん)は、動物の皮膚を突き刺せるように鋭利で頑丈なものとなっています。
これと対照的に、オスの蚊の口吻は皮膚を突き刺せるほど強くないため、そもそも動物の血が吸えません。
彼らはメスと違い、花の蜜を吸って平和に暮らしているのです。
ところが新たに見つかった化石は、オスの蚊もかつて吸血能力を備えていたことを物語るものでした。
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