『水槽の恋』
最初に断っておく。
これは、男女両方から「女心がわからない」男に認定された、ぼくの恋愛(失敗)テクニックだ。つまり、読めば読むほど、非モテくんになる可能性が高い
モテたいのなら「モテモテテクニック伝授⤴︎」といった類の情報商材を買うことを勧める。中身はスカスカだとしても、「目指せモテ男☆」と道筋が明るければ、モチベーションは上がるだろう。
裏を返せば、こちらはモチベーションサゲサゲの内容。その点、よろしく。
【分からないもの】
女心とは一体--。
これが生まれてから今日(三十代半ば)にいたってもわからない。失礼は重々承知だが女心たるものが、果たしてこの世にあるのだろうか、と首をかしげたくなるレヴェル。
つまるところ、あるんだかないんだかわからないものが女心。そりゃあ当然、「わかっていない」と男女に言われる。女心はあるのか、あるのなら一体なんなのか--この初歩すらままならない、男の語る非モテテクニックだ。
【話さないスキル】
前置きが長くなりすぎて自分に引いている。
さっそくチャプター1に移りたい。恋愛において重要なのは「話さない」こと。黙っていても安心、といった恋愛関係を望むのは古今東西、老若男女同じだろう。
そのような自分の見当にもとづき、ぼくはデートで黙っていても安心できる男と信頼されるために、あえて話さない。デート中は、自分の口はないことになっている。
と、なると。
話さなくていい、話すとしても最小限のデートプランを立てよう。悩めるなら、まずは映画をおススメする。少なくとも2時間ほどは無言でいられる。とはいえ、その前後に話すだろう?との声が聞こえるので伝えておく。
前後の前は極力会話を少なめに、後も極力会話を少なめに--なんと言えばいいかわからないが、まあ、そういうこと。
待ち合わせ場所は映画館にしておく。上映開始ギリギリの時間に待ち合わせるように、タイマーをセットしておこう。そうすれば言葉数は少なく済む。
ここで大事なのは、月並みすぎる話をすること。
天気の話、交通機関の混み具合など、当たり障りのない、いや、なさすぎる話をするべき。間違っても映画の話などしないこと!主演の誰々が、監督の誰々が、と話すと、会話が長くなる。
実体験を紹介する。もちろんセルフ誤爆。
とある映画を観にデートに行った。ところが、やらかした。これから映画を観るというのに、観たい映画について話してしまった。観る直前に、相手は興ざめだ。自分で自分に引いてしまいもした。
黙っていても安心できる男から、遠ざかってしまうというわけ。
肝心なのは、観た後だ。「食事いく?」などと言うと、食事の席で口数は増えてしまう。食事中に映画がどうとか、身の上話をするのは、女心のわからない、悩める男たちにおススメできない。
--実は、童貞なんだよね。こんなことを言い、誤爆しようものなら、100年の恋もストロングゼロだ。それならデート中は鼻呼吸だけするほうがマシだ。
もう一度言う。目指すのは、黙っていても安心できる男だ。
代替案は次のとおり。映画を観終わった後に「この後どうする?」と訊かれる前に「明日朝早いから」と、お急ぎモードだと伝える。そうすれば、観る前の超絶当たり障りのない話と「急いでいる」だけで終わる。
--俺は黙って映画を観る。黙って帰る。といった具合に、背中で男を証明するのだ。
【セカンド】
ここまでで、1回目のデートはどうにかなる。だが2回目も映画というのは、相手に失礼だ。でも極力、話数は少なめにいきたいところ。
そこでぼくが選ぶのは水族館。
なぜ、テーマパークじゃないのか、ネズミではないのかという声が聞こえる。待ち時間が長くなる可能性を考えたら、とあるランドは絶対に控えるべきだ(列待ち中にケンカするカップルを見かけたことがある)。
女心の「わかる」メンズならテーマパークも楽々クリアだが、我われは違う。そもそも、女心が存在するのか「わからない」のだ。
となると、だ。
待ち時間が少なく、あまり話さなくてもOK--。水族館一択になる(ならないけれどもぼくの中では一択)。
水族館のメリットは水槽のなかの生き物をずっとみていられるということ。飽きないのだ。小魚が群れをなして、スイミーのように動く。ペンギンが勢いよく、駆ける。海亀が目を閉じて、あくびをする。
--目を奪われてしまう。
デート中に歩きながら「あの魚キレイ」と言えば、相手は(思ってなくても)「キレイ」と返すだろう。「海も水族館もキレイだったけれど〇〇ちゃんが一番キレイだよ」と、「キレイ」を活用しきれば、モテ偏差値は東大生並みかもしれない。
が!我われは女心がわからないメンズ、非モテ民だ。
誤爆してしまいかねない。
「『月がキレイですね』は"夏目漱石がI love you"って意訳したんだよ」とか、非モテ民の使うキレイはシチュエーションがあっていないうえに、文脈もおかしい。なんならキレイの使い方を間違えている。
それなら使わないのが無難だ。キザな言葉で惚れさせようとして誤爆するのが、我われ非モテ民ということ。
まあここらへんは言語学者がいつかどうにかしてくれるだろう。新たな学問領域になればいいのだ。
過去にぼくは失態を冒した--ヤラかした経験がある。とはいっても、「キレイ」活用の誤爆ではない。
クリスマスの水族館デートではぐれてしまったのだ。
まずは水族館内の生きとし生けるものたちに目を奪われ、当時のぼくはカメラ撮影に集中してしまった。気がついたら前後左右にデート相手がいなかった。
ここで45点くらいは減点されていたハズだ。
チェックメイトとなる出来ごと--。
同日、クリスマスの夜に水族館で花火が上がるという、粋なイベントがあった。はぐれてしまったことへの気まずさから、ぎこちなくなってしまったぼくは、発作的に花火の写真撮影に気を取られてしまった。
またもや、はぐれた。
となれば、減点数の合計はマイナスにリーチしていても何ら不思議ではない。
そんなことにも気づけず翌日にフルスイングで告白をした。告白する前に、ロッキーのテーマソングで自分を奮起させるくらい意気込んだが、答えはお察しの通りだ。
ぼくが女性なら水族館に閉じ込めるだろうが、その娘の対応はとても大人だ。今では優しいフりかたに感謝だ。
【秘訣】
つまりは、デート相手と話さず、デート相手から離れてしまえば、実る恋も実らない。これが非モテ男になる手っ取り早い方法の一つと思える。
裏を返せば、ここに書いてあることを「回避」すれば、減点数は減るのかもしれない。この内容を何に生かすか、生かさないかは、あなた次第。
外向きの成就する恋ではなく、水槽のなかに恋心をとどめることになる、極上のテクニックとだけ添えて締めくくる。
(了)