サイコパスバー「社会の扉」<ウィスキーフロート>
■子供の頃は「損得勘定」という思考が無く、気が合えば誰とでも遊んでいた。 だが大人になると「損得勘定」で人と付き合うことが多くなる。それは長い経験で培った「ずる賢さ」がそうさせている。 だがそこには「意外性」もなく、全て自分の想像のつく「想定内」の範囲で止まってしまう。 自分をプラスに変革させるような「想定外」な出来事/人物と出会うには、この「損得勘定」を捨てる必要がある。 筆者談
「マナツさん」が来店してから1週間が経過した。
ジョウはその時、お客さんである「マナツさん」に弱音のような愚痴に等しい言葉を吐いてしまった事をずっと「反省」していた。
(前エピ<ブラックルシアン>を参照)
なぜあんな「カッコ悪い」ことを言ってしまったのだろう・・・。
ジョウはBarのマスターとして「猛省」すると同時に、ある別の変化を感じていた。
それは昨日から明らかに「客数」が増えているということだ。
昨日はド平日の「水曜日」にも関わらず、バーカウンターの席が満席になった時間があった。
特に何も「イベント」ごとがないのにだ。
バーカウンターが満席になったことは「OPEN初日」と「花火大会」と「ハロウィン」この3つだけであった。
アルバイトを雇う余裕がないので、その日は非常に忙しかったことを覚えている。
今日も2~4名のお客が3組来店しており、ジョウは有り難い反面、少し「困惑」していた。
理由が掴めないので素直に喜べないなぁ・・・。
ジョウはこの客入りがどうしても信じられなくなり、真相を掴む為にカウンターの2名のお客さんに、何処で当店を知ったのかを伺ってみた。
お客A
「あぁ、それはマナツさんのSNSを観て知りました。」
お客B
「お店の雰囲気も良くてマスターが面白い人だって書いてありましたよ。」
ジョウは唖然とした。
昨日と今日来店している殆どのお客は「マナツさん」に影響を受けた人達だったのかと・・・。
そして更に別のお客さんに話を聞くと、どうやら「マナツさん」はSNSのフォロワー数が非常に多く、ちょっとした「インフルエンサー的」な存在のようだった。
ジョウは何処か素直には喜べなかった。
その理由はなんなのか?
ジョウは自分自身の感情が分からなくなった。
その後もお客さんはポツリポツリながら訪れ、店内に「お客ゼロ」という時間帯は無かった。
そして最後のお客さんも帰り、時計を見ると閉店まであと30分に差し掛かっていた。
今日はもうこれで終わりだな・・・。
そうジョウが思っていたその時に、なんと「マナツさん」が来店してきた。
マナツ
「ジョウさん、まだお店大丈夫よね?」
そう話し掛けてきたマナツさんであったが、息が少し上がっていた。
走ってきたのだろうか?
そして今日も変わらず「スーツ」に高級そうなコートを着ていた。
その姿は「隙」ひとつも無い。
ジョウ
「ええ、かまいませんよ、どうぞ。」
ジョウはマナツさんをカウンター席に案内した。
マナツ
「ブラックルシアンちょうだい。」
マナツさんはまた「ブラックルシアン」を注文した。
そうとう「好き」なのだろうか?
ジョウ
「かしこまりました。」
ジョウはいつも通りに返事をし、いつも通り「丸氷」を作り始めた。
そしてその「丸氷」を作りながら、ジョウはマナツさんに昨日からの客数の変化を話し始めた。
ジョウ
「〇△■✕♬・・・という訳でどうやらマナツさんのおかげのようです。」
ジョウは昨日からの客数の上昇はマナツさんのおかげだと伝えた。
ジョウ
「ですが、何故か素直に喜べない自分がいるんです。」
ジョウはまた「心の声」を言ってしまった。
マナツ
「ウフフフ、少し分かるような気がするわ。」
マナツさんは「サザエさん」のような笑い声で返答した。
マナツ
「ジョウさん、ジョウさんが素直に喜べないという点は、自分のチカラでお客を呼んだ訳ではないということだと思っているんだけど、そうかしら?」
ジョウ
「はい、そうですね。」「所詮、他人のチカラを借りた結果だと思っています。」
ジョウは受け取る側からしてみたら、少し失礼な返答をした。
マナツ
「ジョウさん、じゃぁジョウさんが今まで成し遂げてきたものは、全て自分1人のチカラだと思っているの?」
マナツさんは少しだけ「シリアス」になった。
ジョウ
「はい、私は基本的に人に頼ることが嫌いでして、この店を立ち上げたのも私ひとりです。」
ジョウは作り終えた「ブラックルシアン」を無言でマナツさんに手渡した。
マナツ
「では業者にも頼らず全て自分でお店の内装/外装を作ったということ?」
マナツさんは少し深いところまで突っ込んできた。
ジョウ
「いえいえ、それはさすがにプロに任せましたよ。」
ジョウは右掌を左右に振るジャスチャーをした。
マナツ
「業者に頼んだなら自分ひとりのチカラじゃないと私は思うんだけど。」
ジョウはマナツさんの意図した考えが分からないでいた。
マナツ
「いい?ジョウさん、ヒトはひとりでは何もできないのよ。」「あなたに今必要なのは良きパートナーと人脈だと私は思うわ。」
ジョウ
「はい・・・。」
ジョウはどこか言い包められたような感じがしたが、ほんの少し納得する気持ちもあった。
マナツさんはその後、置かれた「ブラックルシアン」に口をつけて、話を少しだけそらし始めた。
マナツ
「でもまぁ、私的には混雑しているBarよりも、静かで人の少ないBarのほうが落ち着いて好きなんだけどね。」
マナツさんは急に笑顔になった。
マナツ
「だってTVドラマで観るBarのイメージって基本お客いないでしょ?」
そう言ってマナツさんは上品に「ウフフフ」と笑い始めた。
だがジョウはその気持ちがまったく分からないでいた。
マナツ
「ジョウさん、もう閉店よね?最後にもう1杯だけ頂くわ。」
マナツさんは時計を見ながら最後の1杯をジョウにねだった。
ジョウ
「はい、また同じものにしますか?」
ジョウはまた「ブラックルシアン」だと思っていた。
マナツ
「ウイスキーフロートちょうだい。」
マナツさんは意外にもウイスキー系を頼んできた。
ジョウ
「ウイスキーフロート、お待たせいたしました。」
ジョウはマナツさんのカウンターに「ウイスキーフロート」を置いた。
マナツさんはその「ウイスキーフロート」を右手で掴み、左手を腰に当てて立ち上がった。
マナツさん
「この店気にいっちゃったから、もうSNSに投稿するの止めるわ!W」
マナツさんは「皮肉」にも聞こえるような曖昧な言葉をジョウに贈った。
ジョウはこの時もマナツさんの意図したことが分からないでいた。
ウイスキーフロートの「カクテル言葉」。
それは「楽しい関係」
マナツさんはとても楽しそうだった。
<ウイスキーフロート>終