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追憶ノ彼方 〜黒い蛇と赤い蛇に気を付けろ〜

部屋で寝ているある日の事だった。

隣の部屋がバタバタとうるさかった。
訪問販売と争っている、そんな感じの雰囲気で少し目を覚ました。
時刻は何時頃だったのだろう。

すると次第に鈴の音と共に呪文の様な声が複数重なって聞こえてくる。

自分の部屋にも来たようだ。
すると

ドアの下から長い緑の葉っぱを差し入れて玄関を掃除するように左右に動かしていた。

気付けば葉先は玄関を抜け部屋内まで届いており、部屋の入り口のドア下を抜け左右に、まるで触手で何かを探しているように動いていた。

玄関からの距離から推測しても日本に存在する植物ではない、何と形容したら良いのだろう。近いのはバナナの木の葉、そんな大きさの枝葉だった。

鈴の音と呪文の様な呟きが徐々に近くなり部屋のドアの磨りガラスの前に人がいるのが映った。
どうやって入って来たかは知らないがドアの下の隙間から枝葉を入れる様な危険な連中だ。

怖くなって110番をしようとスマホを探して手を動かした。
その時、手が枝葉に当たってしまった。

すると、いるでねぇか、と扉が開き背の低い老婆が3人部屋に入ってきた。

僕は飛び起きた。

老婆はそれぞれ顔にペイントし民族的な衣装を着ていた。
部屋に入るなり呪文の様な囁きの様な歌を歌い部屋内を踊り回った。
先ほど隣の部屋に侵入し、騒いでいたのはこいつらだったのだ。

僕は必死にスマホを取ろうと手を伸ばしたが1人の老婆に先に取られてしまった。

おぉ?こっちかえぇ?と1人の老婆が下半身を触ってきた。
違う、と僕は答えた。
何度も狂ってると叫んだ。

するともう1人の老婆が、おぉ?金かえぇ?と聞いてきた。
違う、と僕は答えた。
気付けば3人の老婆に囲まれ身動きが取れなくなっていた。

そしてもう1人の老婆が言った。

黒い蛇と赤い蛇に気を付けろぉ。

儀式のお香の様なエスニックな匂いを残して彼女らは消えた。

忽然と消えた。

暫く経つと反対の隣の部屋から同じ様な騒ぎ声が聞こえてくる。

僕はそこで意識を失った。


どれくらい時が経ったのだろう。
目覚めると僕は全く見知らぬ部屋にいた。
ここは日本なのだろうか?

言葉では形容し難い独特の形の家具や、色褪せた様な色彩が美しい様式の部屋だった。

部屋のテーブルの上にはまだ新しい機械の様なものが置いてあり、布が掛かっていた。

それが3つほどくっついて並んでいた。

よく見ると、
お買い上げ有難うございます。
クーリングオフするには、、、

そんな文言が書かれていた。
ここが何処かすら分からないのに、やられた!という感情が最初に出てきた。

さっきの老婆の儀式は異様さを演出して巧妙に契約させられてしまったのかも知れない。
クーリングオフしなければ。

そしてここから逃げなければ。
しかし部屋に出口らしき扉はない。
近隣の住民ももしかしたら監禁されているかも知れない。
パニックになり怒りと恐怖が僕を支配した。

ふと、気付くと僕は夜の道に1人で立っていた。

怒りと恐怖の感情で美しい様式のあの部屋を破壊してしまったのかも知れない。

その地は草木が茂り、道が一本長く続いていた。
全く見知らぬ土地なのに、僕は何故か帰り道を知っていた。


朝になって目覚めた。
隣の喧騒も誰かが侵入した形跡も、そこには残されていなかった。

安心感と謎の残念感、恐怖が僕を襲った。
夢の中に何かを落としてきてしまった気がした。

黒い蛇と赤い蛇に気を付けろ。

この言葉だけが強く頭に残っていた。

そんなある日の夢のおはなし。

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