アトランティス幻視 崩壊前夜15

三人は石の神殿を出ると
足早に町の中心部へと向かう

夕暮れに向かう夏の空が
まだ明るく道を照らしている

しかし先程までは賑やかだった街が
今は異様なほどに静まり返っていた

その静けさが逆に鼓動を早くさせ
三人はさらに道を急いだ

居住地を抜け水路に差し掛かれば
センターツリーの姿が見えてくる

しかしながらそれはいつもの
緑溢れる豊かな姿ではなかった

アトランティスのちょうど中心に位置し
そのシンボルたる堂々としたその幹も
ドームの天井を覆い尽くすほどに繁るその葉も
すべてが白く変わり果てていた

これは一体
言葉を無くす黒曜に
天狼星は小さく呟いた

あれはおそらく
氷というものだ
遥か昔
氷でできた星を見たことがある

白く凍てついたセンターツリーを前に
立ち尽くす主たちの頬を
流れてきた冷気がふわりと撫でる

センターツリーのあたりから
異様な冷気が吹き出している

青鷲は体をぶるりと震わせた

空は夕暮れに迫りつつある
このまま夜を迎えれば
街全体が凍りつくだろう

なぜ突然ツリーが凍ったのでしょう

青鷲の言葉に天狼星ははっとする
あまりの異様さに思考が止まっていた
異変はツリーから始まっている
朱斗のもとへ急がねばならない

天狼星は表情を引き締める

青鷲
この風は汝の体に障る
居住区の様子もおかしい
花依を探し
共に水の神殿に向かってほしい
隼たちも戻ってくる頃だ

答えようとして青鷲は自分の体が
小刻みに震えていることに気づいた
指先の感覚がまるでない

思わず自分の掌を見つめる青鷲に
天狼星は重ねて告げる

この風は汝の体に障る
長く留まれば器を失うだろう
早くここから離れよ
花依も気掛かりだ

青鷲は何か言いかけたが
吹き付ける冷気に諦めたように首を振ると
自らを抱え込むようにして立ち上がり
深く一礼し
少しふらつきながら居住区の方へ戻っていった

その後ろ姿を見送ると
天狼星はツリーに向き直る

黒曜
目隠しの結界を頼む
朱斗さまのもとへ急ごう

黒曜は無言で頷き
懐から石を取り出すと
ふうっと息を吹き掛けた

そして二人は
センターツリーに向かい
歩き始めた

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