微分音の魔境!サジタルノーテーションその①【037】
こんにちは、こんばんわ、ユートピア!
変拍子兄さんのお時間です
以前、こういう記事を書きまして、
ラスボスとしてあらわれた、謎の象形文字を覚えていますでしょうか??
謎ですね…まったく意味が解りませんね
微分音の音程を記号として書くのなら、
先ほど記事にあげた情報でも、十分だと思います。
記号のボキャブラリを増やすことよりも、実際に体感したり、作曲するほうがはるかに重要ですから
ぶっちゃけ、今回の記事は知らなくてもいい類の話です
僕も使う予定はありません。
後悔することにもなりかねないので、この辺で諦めておくのが吉です
ですが、
好奇心が強い、謎があったらとことん追求したい!
という熱くて頭のおかしい、一部の微分音マニアの方に向けて、
この話をまとめていこうかと思います。
日本語でサジタルノーテーションについて言及されてる記事はまずないので
貴重な話にはなりますが
世の中にはこんな緻密に作られた無駄知識体系があるもんだな…と関心していただけると幸いです
この記号について、まだ解明できてない部分もありますので
自信をもって語れない部分もありますがお付き合いください。
さあ、魔境の中の魔境へ、足を踏み入れていきましょう
◆サジタルノーテーションとは?
そもそも、この変な形の記号は何なんでしょう?
「サジタルノーテーション」と呼びまして
サジタ=矢 のことを指しています
(↑公式ページもあります)
かなりハイレベルな微分音記号なのですが
現状の最も細かいヘルエリノーテーションと比較しながら
サジタルノーテーションの特徴を解説していきましょう
特徴1:パーツが組み合わさり、バリエーション豊富
特徴2:分割がめちゃくちゃ細かい
特徴3:平均律モードと純正音程モードがある
特徴4:記号が階層分けされている
特徴5:パーツごとに音素が決まっている
特徴は概してこの5つです
順番に解説していきましょう
特徴1:パーツが組み合わさり、バリエーション豊富
サジタルノーテーションは
様々な形状をした、矢印が登場してくるのが最大の特徴で
非常に多様なバリエーションがあり
いったい何種類あるのか? という途方もない記号群です
サジタルノーテーションのリストがありまして
ここに記載されているものでは200種類を越えます
とても覚えきれるものではない。
https://web.archive.org/web/20180821150637/http://sagittal.org/Sagittal2_character_map.pdf
ですが、
これらの記号はいくつかのパーツの組み合わせでできていまして
パーツの組み合わせによって多様な記号群を形成しています
ヘルエリノーテーションも記号が多かったのですが
パーツが云々というレベルの話にまではいきませんでした。
ヘルエリノーテーションでは
倍音の素数が増えるたびに新しい記号が必要になってくるのですが
サジタルノーテーションでは、すべてパーツの組み合わせで解決してしまします。
そのため、意外と構成要素は少なく
縦方向が4つ、横方向が4つ 計8種類のみです
これらの向き・組み合わせによりバリエーションが爆発的に増えていきます
特徴2:分割がめちゃくちゃ細かい
サジタルノーテーションは、N分音という発想で作られているようで
半音→4分音→5,6,7,8・・・・
という半音を細かく分割するのが非常に特異です
ここでは16分音までしか記載されていませんが
ある形態は半音を52分割しています
まあ、624平均律ってとこですかね
ここでいうN平均律はもはや解像度の指標になってしまいます。
(※追記1
52分割する形態に加え、拡張記号を使用することで
最終形態では半音を233ステップに分割することが解りました。)
一方、ヘルエリノーテーションでは何分音という発想が弱いのです
つまり、11分音とかやろうとおもったのなら
ヘルエリノーテーションでは歯が立たないため
言葉で説明するしかなくなってしまいます。
記号の敗北ですね。
つまり高度な分割音程をやる際はサジタルノーテーションが適しているということ
特徴3:平均律モードと純正音程モードがある
細かく分割して出現した、矢印たちは純正音程にも対応してまして
それぞれの記号に純正音程が割り当てられています
(素数リミット37まで)
ヘルエリノーテーションでは素数リミット61ですので
倍音の素数リミット具合はヘルエリノーテーションに劣ります
といっても37-limitと61-limitの違いは50歩100歩ならぬ
50^100歩100^1000歩…
どっちも必要以上に細かいので比較する気も失せてしまうほどの細かさです
(※追記2
拡張記号を使用し、近似を活用することで61-limit まで対応できることがわかりました。このことからヘルエリは表意文字としての側面が強いのに対して、サジタルは音程の位置を示すという側面が強いようです。)
厄介な点として
どのサジタルがどの純正音程なのか、
この対応が結構複雑に作られていてわかりづらいです
(まあ、後付けですから)
そのため純正音程を表現したい場合はヘルエリノーテーションには劣りますね。
サジタルの肩を持つなら、純正音程同士の幅の関係性が
わかりやすくなってたりするというところですかね…
例えば、
ヘルエリノーテーションでこの↓ 2種類のノートが出てきたとき
この2つのおおよその幅ってわかりますか?
いや、知らんがなって話ですね
左側は大体10分音、右側は大体4分音なので
20セントと50セント、30セント差
6分音 かあ…って考えます
この思考のデメリットは
ひとつの記号が何分音か決まっていて、
記号同士の比較のため一度セントに直して考える必要がある
一方でサジタルの場合
このように書きます
おや…?
矢印の左側+矢印の右側で完全な矢印なのでは…?という直観が働き、
矢印右側の幅って…?と考え
8分音ゾーンを探して、8分音x3か!ということに気づきます
どっちの思考が楽なのかは人によるところはありますが
サジタルノーテーションではこのような視覚的処理なことがしやすくなっています
(おわかりでしょうか… もう手書きで書くしかないというこの状況…)
特徴4:記号が階層分けされている
サジタルノーテーションは非常に多いことには間違いありません
実際にはそれは最終形態まで含めるとそうなるだけで
ステップアップできるように作られていました
このように、サジタルノーテーションの中に小集合が何個かあって
町→市→区→県→国 のような階層構造をなしています
サジタルノーテーションのもっと基本的なサブセットが
スパルタンセットという小集合で
13-limitまで表記可能な純正音程のサブセットです
スパルタン→アテニアン→トロヤン→プロメテアン→
へラクリアン→オリンピアン という風に拡張していきます
このサブセット名が古代ギリシャ的世界観で名付けられてるのが趣深いですね。
(考古的な言語解読をしてる気分になる。)
特徴5:パーツごとに音素が決まっている
その記号、どう読むのか?というのは
文字の基本的なスペックとも言えるでしょう
# シャープ b フラット
という風に呼び方がわかるからこそ、使えるわけで
更に...
# -is ♭ -es
という風に ソルミゼーション(音名唱法)用の読み方まであると完璧です
残念なことにヘルエリノーテーションにはそれがないのです。
記号の正式名称もセプティマルコンマとかアンデシマルサードトーンとか
やたら長い名前で、短い読み方もない
つまり、「読む」というシチュエーションについてあまり考えられていません。
しかし、サジタルノーテーションにはそれがある
ここまでくると、もはやサジタルノーテーションは
微分音言語といっても差し支えないでしょう
今回はサジタルノーテーションの特徴を語る記事ですから
深くは語りませんが、一例を紹介しましょう
上向き(音程をあげる)の場合 -i
下向き(音程を下げる)の場合 -o
という風にアイ/アオの二重母音の形式をとります
フォルマントからみても上がイ、下がオっていうのは非常に良いですね~
次にサジタルが複数合わさるとこのように発音が変化します
おわかりですね!
左側の形と右側の形に対応する音素があってそれをくっつけてるのです
さらに面白いのは左側だけの場合
なるほど、二重子音となるわけですか!
しかもダブった場合はhがつく
手書きでやるしかない!というところがクリティカルなデメリットなんですが、発音のルールは音素で徹底して構築されている点は目を見張るものがあります
↑こちらが、発音などの詳細がかかれたサジタルノーテーションリストです
◆〆
最後に比較表でまとめです
この表サジタルひいき気味で書いたけど
ヘルエリでも十分すぎるんだよなあ…
というわけで、サジタルノーテーションがいかなるものか
なんとなくわかったことでしょう
ですが、今回の話これだけのボリュームがありながら
サジタルノーテーションの表面をさらっと触っただけで
肝心な中身については、全く触れられておりません!
サジタルノーテーションその①はこの辺で終わることにしまして
次回はサジタルノーテーションのパーツについて語ることにしましょう
恐らく、記号の意味についてはまだ触れません
「俺は…何をやってるんだ?」って気分になるので、
この辺で、帰ることをオススメします