新しい伝統との出会い ["有松絞り/tactor"_vol,1]
本格的に秋を感じる気候が続きますね。
tactorの秋冬イベントもいよいよ、名古屋タカシマヤさんにて10/26(水)から一週間、スタートします。
tactorが半年に一度、大切にそして楽しみに続けさせていただいているこのイベント。今回も、22秋冬コレクションをほぼフルラインナップでご紹介いたします。
そして!
さらに!!
今回は初めての試みとして、このイベントのみでご紹介する限定アイテムを制作しました。
tactor初の、リミテッドアイテムです!(響きが素敵・・・!)
しかも、ただの数量限定ではなく、とっても素敵な伝統技術を施したアイテムなんですよ(ワクワクすぎます)
このnoteでは2回にわけて、その限定アイテム制作に至った経緯と、デザインの詳細をご紹介していきたいと思います。
地元愛知県の伝統工芸のことや、アイテムデザインの経緯、そしてその過程での素敵な出会いについて。
有松絞りとの出会い
今回の限定アイテムは、地元愛知県の伝統工芸である”有松絞り”をふんだんに施したもの。有松に拠点をもつ、山上商店さんとクリエーションをご一緒させていただきました。
地元愛知、そして尾州、有松
以前開催したtttt<tactor tactile textiles>のnoteでも触れましたが、私の地元愛知県やその周辺は、生地やファッションに関わる技術が集積するエリアです。
私は20代後半まで地元、愛知県小牧市で過ごしたのですが、改めて尾州や地元の価値を知ったのは実は、30代を過ごしたロンドンでのことです。
大手メゾンの生地開発担当やデザイナーが、当たり前のように生地産地としての尾州やその一帯の地域のことを知っており、彼らから改めて教えてもらう地元の歴史や魅力がきっかけとなり再度地元の素晴らしさを知ることができました(逆輸入的な感じでしょうか)。
自分のブランド活動をスタートさせた今は自然と、地元にゆかりのある素材や表現へと手が伸びることが多いです。
(実はブランドスタートからの出張回数も愛知県が一番多く、今も愛知から素材を取り寄せ、岐阜の縫製工場さんにお送りしたりしていると、一体私はなぜ東京にいるのだろう・・・?と不思議に思うことがあります笑)
そしてそんな愛知県には、尾州産地以外にも、ファッションや生地にまつわる魅力的な技術や伝統がたくさんあります。
今回ご一緒させていただいた、有松絞りもその一つ。
有松絞り
上記の通り、有松絞りというと、複雑な模様で施された藍色の染めだったり、お着物や浴衣だったりという崇高な、高級なものを思い描く方が多いのではないでしょうか。
私もその一人でした。
名古屋駅から少し離れた、有松地域を中心にしたその伝統工芸の存在や技術について知ってはいたのですが、毎日に身近な物というよりは遠い憧れの存在、という印象。
その、いわゆる有松絞りに対する印象をいい意味で思いっきり壊してくださったのが今回の山上商店さんとの出会いです。
新しい伝統、ヒートセット
有松に拠点を構える山上商店さんが大切に育てていらっしゃる技術は、ヒートセットという、有松絞りの形状加工に特化した技術をフィーチャーしたものです。
凸凹!
shaped resist dying!!
生地の形状記憶!!!
言葉の響きだけでもめちゃくちゃにかっこいい。とっても魅力的な響きですよね。ワクワクしてしまう。
tactorが大切にしているコンセプトのひとつである"視覚的な肌触り"に、山上商店さんのお力を借りることでさらに深みが増すのではないか。
新しい表現に挑戦できるのではないか。
と、新しい出会いへの期待を胸に、有松にお邪魔しました。
実際に拝見する”ヒートセット版有松絞り”技術はとても繊細で、そして洗練されているものばかり。現在進行形の、アップデートを繰り返している伝統なのだなという印象がビシバシと伝わるものでした。
(たくさんのサンプルのお写真をお見せすることが叶わずとても残念ですが、その技術をしっかりと今回のアイテムへと昇華させています!ので是非楽しみにしてください!)
素材に絞りを施すことでうまれる凸凹とした表情が魅力であることはもちろんですが、その絞った凹凸からうまれる影が素材そのものの印象を大きく変える点、そして、熱で加工した後の素材の少しペーパーライクな肌触りはとても新鮮で、実際に手で触れてはじめてわかる、五感に響く魅力も満載。
tactorのオーバーサイズなシルエット、アシンメトリーなアイテムに施したらどんなものに仕上がるのだろうか、この軽い収縮性をみなさんと一緒に楽しみたい、という心躍る想像が、すぐにむくむくと湧いてきたことを今でも思い出します。
そして、二つとして全く同じになることのない、人の手で行われる工程がとても多いことも。
思ったより全ての工程が手作業!(素直にそう思いました)、という贅沢なスペシャル感にも一気に魅了され、ご相談とお願いをして、今回の限定アイテムを一緒に開発していただくことになったわけです。
伝統の暖かさと優しさ、そして楽しさ
さて。
ここまで読み進めていただいて、おや・・・?と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そう、流れが・・・とてもスムーズに進んでいることです。
実は、オンラインではじめましてのご挨拶をさせていただいた後一週間で有松へお邪魔し、その一週間後にはもう実際の生地加工のサンプルをスタートしていただいていました。
もちろんその過程で、素材選びの試行錯誤、加工の調整や、デザインのご相談などにはしっかりと細かく時間をかけながら。
それでもこんな風に、はじめてお会いする方と、全く初めての挑戦を、スピード感をもって進められたというのはデザイナーとして正直あまり経験がないこと。
そこには、山上商店さんの大きな優しさと、プロ目線の繊細なディレクションがあります。
突然(本当に突然)やってきた何も知らない私と小さなブランドを快く迎えてくださり、細かな知識から、大きな加工の捉え方まで、詳細にそして丁寧にいろいろなことを教えてくださいました。(もちろんまだ学びの最中です!)
そして、チャレンジしてみたいことと、実際に実現可能であることの真ん中のあたりを一緒に考えてくださり(一緒にです、ここがありがたくてすごいところ)、その内容をわかりやすく組み立ててくださるそのパワーに、そうか、こういう方達の気持ちとお取り組みで伝統って進化していくんだ・・・という、じんわりとした感動と強烈な納得を覚えたこと。
とても新鮮な感情でした。
そしてなにより、有松絞りやお仕事のことをお話になる言葉の端々に愛情が溢れていらして、この現場の空気ごと、そして有松の雰囲気ごと、お洋服としてみなさんと一緒に楽しみたいなあと思いました。
それが今回の限定アイテムのビハインドストーリーの、一番真ん中の部分かもしれません。
そこには伝統や技術というタイトルを超える、長く続くものにしかない暖かさと優しさ、そして思いがけない新しさと楽しさがありました。
長く育まれてきた歴史の重みとでもいうのでしょうか。そして、なんだか人と生地との共同作業のような、魅力的で不思議な関係も添えて。
大切にしたい服を
サステイナブルというおおきなトピックを前にtactorがしていきたいこと。
ttttプロジェクトの中でも考えていたことですが、
これまで誰かに真摯に大切にされてきた、
これからも大切にしていきたいこと&大切にされていくべきだと思うことを、
これからも大切にしやすい形に変えてみなさんに届ける
こと。
この限定アイテムには、真摯に大切にされてきた伝統と、これからも大切にされていくべき技術がぎゅっと詰まっています。
その思いを大切に感じながら、tactorができる限りのデザインで、精一杯お洋服へと制作しました。
たくさんの手と思いがこもった一枚。
みなさんのクローゼットで、そして街で、新しい日常の一歩先を照らすものになったらとても嬉しいなと思っています。
というわけで、第一回目の今回は、まず限定アイテム制作に至った経緯をご紹介させていただきました。
長くなってしまったのですが。。。お洋服の後ろ側にある部分を、少しでもご紹介できていたら・・・!と思って書いていたら止まらなくなりました。それだけの魅力なんです!有松。おそるべしです。
とはいえ!一番大切なことはお洋服自体が素敵でかっこいいこと。ですよね。
次回vol,2では、限定アイテムについて具体的にご紹介していきます!