
#2-7 北海道名寄市あったかICT物語【シーズン2(導入編)】
エピソード7「孤独に陥らないあたたかいシステム」
執筆・インタビューを担当するのは・・・
こんにちは!
「名寄市医療介護連携ICT導入・運用アドバイザー(令和2&3年度)」の大曽根 衛(地域包括ケア研究所)です。
前回に引き続き、酒井博司先生(名寄市立総合病院 副院長・患者総合支援センター センター長・名寄市医療介護連携ICT協議会 会長)にお話を伺います。

★地域包括ケアは語り合うところから
ー大曽根
酒井先生、後半もよろしくお願いします。
ー酒井
はい、よろしくお願いします。
―大曽根
連携室の室長になった時期と、高齢心不全などによる連携への意識が変わってきたことの流れがある中で、ICTにつながってきたかと思いますが、そのあたりについてお伺いしていきたいと思います。
―酒井
そうですね。
僕は、地域包括ケアシステムがしっかり立ち上がっていかないと自分の今抱えている高齢心不全のパンデミックをうまく乗り越えていけないなという風に思っていたわけですね。
地域包括ケアシステムは市町村単位でやらなければいけない部分が多いので、誰が中心に行政で取り組んでいるのか、と確認していく中で、それは包括支援センターの方で、それで橋本さんにつながってくるわけですね。

―大曽根
橋本さんとの出会いはひょんなことからでした(シーズン1エピソード*)
―酒井
そうそう。
橋本さん自身が名寄市立総合病院との協働や連携が大事だと思っていたと思うんですね。
会って話すうちに、なんとか名寄に地域包括ケアシステムを作りたいよね、良い形にしたいよねという、共通の目的が確認されたんです。
それで2017年にワーキンググループが始まったんですね。
―大曽根
そうでしたね。
―酒井
橋本さんがいなかったら…難しかったかもしれない。
橋本さんは、地元愛がある人だし、公務員ぽくないところもあってね。
そう、公務員だからいろいろ制約はたくさんあると思うけど、そこに縛られたくないと思って頑張ってきた人じゃないかなと思って。
僕の中ではすごく感覚が近いと感じているんです。
地域をみていくうえで、医療も必要だし医療介護合わせて地域包括ケアって考えないといけないという認識で、さらに言うと、もっと地域包括ケアは広いと思うんです。
町づくりそのものだなって。
―大曽根
そういうイメージはどこから来たんですか。
―酒井
最初は無かったと思う。
医療は地域において大切なインフラみたいに思ってたけど、さまざまな理由で既にそれが無くなった地域もあって。
だから、医療の枠組みだけでは充分ではなく、地域そのものを創生していく観点というか、自分の中で「願い」みたいなのがあることに気づいていくんですね。
特に橋本さんと話していると、そういう想いがすごくしてくるんです。
―大曽根
橋本さんって、与えられた範囲だけを淡々とやってる方じゃないですもんね。
―酒井
違うんだよね。なんかこうぱっと伸びしろを見つけてつなげていくんですよ。
―大曽根
ほんと面白いようにつなげていきますよね。
―酒井
だから、僕も一緒に仕事していて楽しいんですね。
人を通して、共鳴して、集まったり繋がったりするんだなと改めて思います。

―大曽根
お二人が出会って意気投合した次の一歩として、まず地域包括ケアを考えるワーキンググループを立ち上げてみるっていう動きが、みんなで共鳴を確認し合うというか、創り出すような面白い動きだなあって感じていました。
難しさもあったと思うんですが、ワーキンググループの動きは先生からはどう見えてたんですか?
―酒井
そうですね、最初の頃はそれぞれみんな熱い想いを持っているのがわかって、いろんな意見を安心して言い合える場で良かったですね。
同じようなことを考えてる人がいることや、おもしろいアイデアもあるんだな、はじめて良かったなと思いました。
でも、現実にカタチをつくっていく段階になった時に、壁にぶつかったというか、具現化していくというのは簡単ではなかったですね。
―大曽根
たしかに本当にたくさんの大事な視点やアイディア、意見が出てましたね。
―酒井
そう、それがあったから、守屋さんが来てくれたことで、そこに足りないものが加わり、少し集約化して、現実化していった気がします。
でもあれだけ夢を語れる人が名寄にはいるんだって、とても心強かったです。
あの時の場があったことで、今でもその人たちを通じて人の繋がりの輪が拡がった価値は大きかったと思います。
―大曽根
連携の土壌づくりのひとつに間違いなくなってましたね。
―酒井
はい、なってましたね。
その時の議事録も残っているんですよ。
その時に出た想いや夢の話、たくさんの発想やアイディアは、これからの次の段階でまた現実化していくものが出ていくといいなと思ってます。
医療介護の連携に関わらず、まちや地域のことについてもたくさん話しましたしね。
―大曽根
繋いでいけるといいですね。
―酒井
今回、医療介護連携ICTというひとつ新たな形を実際につくることができたので、それに続くようにあの時のアイディアをひとつひとつ現実のものにしていけると良いな、と思いましたね。
★ICTが果たせる役割と補う必要があるもの
―大曽根
いいですね!
そして、実際にICTを形にしていくプロセスですが、事例検討会をやったり、先行トライアルをおこなったりしましたが、先生からはどのようなことを心掛けていたんですか?
―酒井
僕のテーマとしては、今後5年10年先を見ていく視点も大事にしないといけないと思っています。
自分だけでなく次世代の若いドクターとともにやっていくことも大事だと。
彼らは、救う医療として日進月歩進化する先端医療を担うハードワークの中、本当に一生懸命やっています。一方、高齢心不全に代表される、癒やし、支える医療も大切です。両者は、車の両輪であることを次世代と共有したいと思っています。その中で、介護を含めたチーム医療というのもより大事になっていくと思うんですね。
簡単なことではないけど、どうやってそれを繋げていくかを模索しています。
―大曽根
たしかに大事なテーマですね。
―酒井
それからもうひとつ。
地域医療介護連携において、ICTというツールはできたけど、医療と介護って全く違う文化でずーっと動いてきたものが、患者さん・利用者さんを中心にひとつになっていく必要がある中で、そこに向けてまだまだたくさん課題がある。
意識のある人たちが出てきているので、その方々をしっかりと繋ぎ合わせてていきたい。
もっともっとお互いを知り合って、お互いを認め合って、お互いに必要なんだってことを両方から感じることができるといいなと思いますね。
簡単ではないけど、地域包括ケアってそこをやらないと上手くいかないんだよなと感じています。

―大曽根
ICTだけあったら、ほっといたらそうなるみたいものではないですね。
―酒井
そうです、そうです。
その為にはICTだけでなくさまざまなことをやらなきゃいけないですね。
withコロナの時代ということもあるので、うまくオンサイトとオンラインを組み合わせて、お互いにコミュニケーションをしっかり取っていったり、お互いに勉強し合う学びの場も必要だと思います。
常に近づけていく努力をしつづけることかなと。
少しずつ医療側からも介護側からもその芽が出てきてもいる気がします。
―大曽根
いいですね。
ケアマネさんのお話をお聞きしていても、明らかにICT導入プロセスを経て、ドクターとの距離が近く感じたり、医療側から介護に対する関心や理解を持ってもらえてきている感じがすると。
―酒井
そうですね。今はまず高齢心不全というひとつのテーマで医療介護連携の様々な取り組みが始まりましたが、これだけでは地域包括ケアにはならないので、これも簡単なことではないけど他の診療科にも拡がっていくようになると良いなと思います。
本当に医療と介護の人たちが、ざっくばらんにいろんな話ができるような関係が生まれればいいなと願っています。
―大曽根
理想の関係ってそこなのかもしれませんね。
先生にとってこのICTが無い時代とある時代で一番大きく変わったことは何ですか?
★人間が孤独に陥らないあたたかいシステム
―酒井
そうですね、今まで自分の目の前の患者さんに向き合って一生懸命やってたけど、日本の地域医療の問題として、どこでも専門医がいて同じ治療をしてもらえるという理想とのギャップが大きくなってきていると思うんです。
ICTがあることで、全てではないけど、医療情報をもとにきちっと連携できる、リアルタイムに共有できていく世界はこれからますます加速していくと思うんですね。
もちろん、ある日突然実現する世界にはならないけど、その世界ができていくと、どの地域にも専門医が複数人いなければいけないという配置の考え方なども変わってくると。
そうすると、この広大な道北をカバーできる医療の形も変わっていくと思います。
地域医療におけるひとつの光明になりうると思うわけで、僕自身ICTを知らなかったらこういう発想はできなかったなって感じています。
―大曽根
見える景色が変わったわけですね。
―酒井
実際にやれそうな部分があるというイメージが掴めた感覚はありますが、自分たちだけでは難しいので、関係する所とさまざまな連携をとっていけたらいいなと思います。
地域医療でがんばっている医師が困った時に助けてもらえるような形ですね。
地域では、孤立感だったり情報なども閉ざされてしまうような中で頑張るので、そういう中で頑張るっていうのはね、なかなかしんどいものがありますからね。
繋がってる感があるというのは、とても大事です。

―大曽根
医療で始まったポラリスネットワーク(ver1.0)ですが、それがさらに発展し、さらには医療介護の連携におけるポラリスネットワーク(ver2.0)が重なってきているので、いろんな安心感が出てきますね。
―酒井
うん、人間が孤独に陥らないようなあたたかいシステム。
そういうためにも、今回のICTはとても大事なツールなんだなあと思います。
―大曽根
本当にそうですね。
―酒井
医学教育の観点でいうと、若い先生の教育やサポートにも使えるのも良いなと思います。
いろいろな可能性を感じます。
―大曽根
いいですね!
名寄で始まった点の動きが、名寄の中で「面」になっていくことと同時に、道北全体でも「面」になっていくといいなと感じました。
酒井先生、ここまでお話してきて今改めてどんなこと感じていますか。
―酒井
こうして自分の流れを話していると、偶然にこのような人生が作られてきてるわけじゃないような気がしてならないんだよね。
偶然だって言われればそうなのかもしれないけど、そこにはひとつの大きな流れの中に自分がやっぱりいるような、導かれているようなものがあるような気がしてならないわけです。
話していて、必然だと感じざるを得ない。
―大曽根
本当にいろいろ繋がってましたね。
★自分の弱さと強さ
―酒井
こういう風に見えても、辞めたいなって思ったり、逃げたいなって思ったことがたくさんあったんですよ。
だけどね、その時にいっつも思うのが、自分が何をやりたくて医者になったのかっていうことなんですね。
僕の原点って何なのかなっていうのを考えるようにして、背を向けたくなったり辞めようと思う時には「ちょっと待て、本当にここで辞めていいのか。今までの人生、何を大事にしてやってきたのか」って振り返るんです。
その時に、地域を守りたいとか医療の格差をなくしたいとか、自分の中にいろいろあることを再確認するんです。
立場の弱い人、高齢者、病の人はもちろんですし、地域も、みんな大変な思いをして地域で生活してる人もたくさんいますし。まそうすると「もう少し辛抱してやってみようか」と思った時に、どういうわけか助力してくれる人が目の前に現れてくれたりするんですよね。
―大曽根
不思議なものですね。
―酒井
大曽根さんの存在もね。
僕の深く自分の中にある願いっていうか想いをね、こうして引き出してくれる。
それは僕だけじゃなくて、色んな人の根っこにある想いっていうのを引き出してくれる人って僕は思っています。
内面にあって、とってもとっても大事なもの。
―大曽根
ありがとうございます。
それはとってもうれしいです。そういうことがきっかけとなって、いろんな人の想いが重なり合って、動いていくのだと信じています。
みんなの想いが場に出たら、その灯を消さないように、みんなが扱えるようにしていく。
その灯が拡がっていくようにサポートできていればよいなと、いつもいろいろ反省しながらやっています。
―酒井
うんそうだね。
優しくね、もう強風が吹いたらパッと消えてしまうかもしれない。
大曽根さんは、そうならないように優しく見守りながらも灯を少しずつ広げていってくれた部分っていうのはやっぱりあるんじゃないかなと思います。
一人一人の可能性や地域の可能性など、そういうものを大事にしてると思うんだよね。
大曽根さんから、こうせいああせいってこと言わないでしょ。
―大曽根
言わないですね(笑)。
最後にありがたいお言葉まで、ありがとうございます。
先生の背景までお聞きできて、本当に一緒にプロジェクトを進めてこられたことを光栄に思います。
引き続き、良いカタチに育てていきたいですね。
―酒井
はい、やっていきましょう。
ありがとうございます。

シーズン2エピソード7は酒井先生の後半パートでした。
※内容はインタビュー実施時点(2022年4月13日)のものになります。
シーズン2はここまでです。
この後も、「人」「ストーリー」に焦点を当てながら、名寄のICTの動きを共有していきたいと思いますので、ご覧いただけるとうれしいです。
続いてシーズン3では、本格運用前後でどのような変化があったのか?訪問看護ステーション、訪問歯科、介護事業所、訪問薬剤師等・・・多職種の視点からの物語をひも解いていきます。

★★名寄市あったかICT物語の構成★★
【シーズン1(導入前夜編)】
【シーズン2(導入編)】
· エピソード6:「医師としての紆余曲折の全てが今につながる」
【シーズン3(運用編)】
· エピソード4「前編:薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ」
· エピソード5「中編:薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ」
· エピソード6「後編:薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ」