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#1-1 北海道名寄市あったかICT物語【シーズン1(導入前夜編)】
エピソード1「つながったら動いてみる」
大曽根(地域包括ケア研究所)
こんにちは!(社)地域包括ケア研究所の大曽根衛です。
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今回から実際に北海道名寄市における医療介護連携ICTの導入の裏側をひも解いていきたいと思います。
前回エピソード0で予告させていただいたように、橋本いづみさん(名寄市健康福祉部こども・高齢者支援室地域包括支援センター所長、保健師)にインタビューしていく形式で2回に分けてお伝えしていきます。
それでは、橋本さん、よろしくお願いいたします。
橋本(名寄市健康福祉部こども・高齢者支援室地域包括支援センター所長)
こんにちは!
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大曽根
まずお聞きしたいのは、今いろいろ振り返ってみて、ICT導入というのは橋本さんにとってどんな体験・経験だったりしたのかなと。
なにか感じていらしたことはありますか?
★多職種連携の重要性に気づくきっかけ
橋本
実は、入職した時から今までの30年以上を振り返ってみると、制度的な変化も多くあり、その時その時でいろいろな職種の人や全然畑違いの専門職の人など関わりが変わってきました。
私だけでなく、名寄市内の専門職の皆さんの気持ちだとか考えが重なり合わせながら進めてきたら、結果としてICT…、「ツールとしてのICT」に到達したんだと感じています。
大曽根
なるほど。興味深いですね。
短期間の振り返りではICTのみにスポットライトが当たってしまうけど、長いキャリアにおけるさまざまな関わりひとつひとつが線になってつながった結果として、ICTというツールの必要性が浮かんできたと。
そんな感じでしょうか?
橋本
そうですね。保健師になって1986年(昭和61年)に名寄市役所に入職したんですよね。
その時は介護保険なんて全然ない老人保健法が出来た3,4年後ぐらいだったんです。
それだけでもすごい今までとがらりと違った制度になってみんな大変だって言ってたんですけど、制度と共に私の周りも変わっていきました。
一番大きな影響があったのが、「上川北部地域リハビリテーション推進会議」です。
名寄市立病院が事務局になって、上川北部圏域で地域リハビリテーションを進めていこうと、多職種で在宅生活を支えていこうという連携ですね。
この会議には部会がいろいろあり、保健所が主催のネットワーク部会というのが立ち上がっていて、そのほとんどの部会員がリハビリテーション職だったんです。士別市と名寄市の作業療法士、理学療法士がほとんどの部会員でしたが、その中にいらしたケアマネさんから私にも参加しないかと声をかけてくださったんです。
2011年(平成23年)くらいだったと思います。
みんなで何かイベントや研修会、事例検討会などを企画していくというものでした。ある時、幕張で行われたセミナーにパネル発表しに行った際に「地域包括ケアシステムについて」の講演を聞いて、「地域包括ケアってそういうことなんだ!」って、初めてストンときたり。
そういうことを通してネットワーク部会の中でいろんな良い刺激をもらいました。
で、道内各地のネットワーク部会の団体が集まって実践報告する会があったのですが、その中で北見など何ヵ所かICTを導入してるところがあったんですね。
そういった話を聞いてICTを使って連携できるんだなぁということが分かったというのも、そもそものきっかけだったかと思います。
大曽根
橋本さんにとって部会の参加は、今に繋がる大事な出来事だったんですね。
橋本
はい。
とある事例検討を行う時に、士別市の作業療法士さんとペアになって、利用者さんの実際の担当ではなかったのですが、お宅に伺わせていただき、その利用者さんの動きを動画として10分間くらい撮らせていただいたんです。
二人でその帰りに、利用者さんのケアプランの改善ポイントなどを自然と話し合っていました。
その時に、一人で考えるよりも、他の職種の人と一緒になって、自分は自分の専門性の視点を持ちながら話し合ってひとつのものを作り上げていく、それが利用者さんの為にすごい良いものになっていくんだろうなって思ったんです。
そして、「そういうことをやっていくのってすごい楽しいよねって」すごい盛り上がりながら帰ってきたりしたのも大切な体験でした。
大曽根
それはとても素敵な体験というか気づきだったんですね!
あったかい!
ネットワーク部会が立ち上がる前っていうのは、あまり多職種で一緒に勉強するなどの機会は橋本さんに限らず名寄では少なかったのですか?
橋本
はい。介護だったら介護、医療だったら医療など、部分的な多職種勉強会などがあった程度なんじゃないかなと思います。
大曽根
上川北部地域リハビリテーション推進会議の部会の存在があって、医療と介護の枠を超えた多職種の勉強会の場ができ、その中で地域包括ケアへの理解が深まるきっかけもあった…ということですね。
その後はどうなっていったのですか?
橋本
この部会の取り組みは2014年(平成26年)か2015年(平成27年)くらいだったと思うのですが、道の補助金の期限もあり、毎月の運営や参加もそれなりに負担もあったことなどから、終了になりました。
大曽根
そうだったのですね。もうひとつ、ネットワーク部会とは別に多職種での集まりが始まっていたようですね。
★「見える事例検討会」によって繋がったもの
橋本
はい、「見え検」というマインドマップを活用した「見える事例検討会」です。
2013年(平成25年)から5年くらい、多い時に年に3,4回ぐらいおこなっていたと思います。
ネットワーク部会はあくまでも、部会に参加されてる方の中での活動でしたが、「見え検」はもう少し広く色んな人を呼んで集まっていたので、多職種で何かひとつのケースを検討していくみたいな感じでいくと、本格的なのはこの「見え検」が最初って感じだったと思います。
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大曽根
「見え検」によって、変わっていったことはどんなことですか?
橋本
「見え検」やる前は、顔見知りだけどそんなに…なんていうかな。みんなで集まって飲んで騒いでみたいな感じのことはあったんですけど(笑)、「見え検」はひとつの事例を通して深く話合っていくので、それまであった医療と介護の関わりだけでなく、医療ももっと具体的に薬剤師さんなどが入ったり、異業種の警察や弁護士が入ることもありました。
敷居が高いと勝手に思っていた人たちが参加してくださったことで、今では普通に臆せず話ができるようになったということも多かったです。
大曽根
いいですね!見え検をやろうという流れはどのように起こったのですか?
橋本
A先生というユニークなドクターがいらしたんです。
2011年(平成23年)に実施された医師会主催の研修会で、テーマが認知症に関する多職種連携についてで、A先生が介護の人たちも来ないかいって声かけてくれたんです。その講演で、地域包括支援センターの連携なども話があり、医師の口から地域包括支援センターという言葉が出てくるなんて初めてだったので、これは何だろうと思っていたら、「見え検」の紹介があったんです。
その後、見え検のファシリテーターやりたいねという話になり、まず名寄市内から2人、旭川で行われたファシリテーター養成講座を受けに行きました。
名寄に戻ってきて、まず「見え検」紹介のセミナーで事例検討会を実際にやってみたら、そこに参加してくれたみんなが名寄地区でも「見え検」で事例検討会をやっていきたいね、という希望が多かったんです。
大曽根
ここまでのところでちょっと感じたことがあるんですけど、ある方からのちょっとした声かけみたいなことをきっかけに、誰かにまた声かけたり、何かアクションしてみたら、何かに新しい価値に繋がっていく、みたいなことがありますよね。
職種とか立場を越えたちょっとした小さい声かけをきちんとつなぎ合わせているイメージ。
橋本
はい!私それが言いたかったんだと思います!
何か自分で動いてるっていうよりも、誰かがいいタイミングで声をかけてくれていたなって。
大曽根
そこは、ひとつポイントですね!
その後「見え検」はどうなっていくのですか?
橋本
実は、今は全然やっていないんです。けっこうファシリテーターとしてパワーが必要で、徐々に私の体力がなくなってやらなくなってしまったんです(苦笑)
大曽根
橋本さん、ある意味筋トレしていた感じですかね(笑) 「見え検」という手法を継続することが目的というよりは、「見え検」を通じて、職種を超えてみんなで連携していくことの重要性を、地域にインストールしてくれた意味ですごく貢献した取り組みだったのですね。
橋本
はい、そうなんです。
ある時、保健所主催の「見え検」を市立病院で行なったんです。
なぜ市立病院でやったかというと市立病院のドクターや看護師さん、リハ職や薬剤師さんたちなど多くの職種の方にも是非参加してもらいたいなって思ったので、それだったら市立病院で行なえば市立病院の人たちみんな参加しやすいんじゃないかなって。
院内の声かけを率先してくれた看護師さんもいて、ふたを開けたら凄い集まってくれたんですよね。
その中に酒井博司副院長(循環器内科)がいらした。
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★医療におけるICTキーパーソンとの出会い
大曽根
ICTのキーパーソンの先生方ですね。
橋本
はい。
「見え検」って実はドクターの言葉は影響力が強いのでなるべく最後にコメントを言ってくださいという事例検討会なんです。
ずっとお二人の先生方は流れを聞いてくださって、最後にそれぞれの視点からいろいろ教えてくれたりコメントしてくれました。
そして、患者さんの生活状況が分かるってことは、ドクターにとっても必要なことだ、ってコメントをおっしゃってくださったんです。
この患者さんは、事例検討会を経て、早めに入院することにつながって、治療してもらってその後元気に退院したんです。
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大曽根
多職種での事例検討会が命を一つ繋いだわけですね!そして、命を繋いだだけじゃなくて、ICTのキーパーソンの先生ともつながった。
橋本
はい。そんな経過があって、施設の利用者さんも自宅で過ごす高齢者の方も安心して過ごしていくためには、やっぱり医療が土台にあることって大切だと、医療と介護の連携を深めたい!と強く思ったんです。
けど…しかし…ってとこなんですよね。
大曽根
そうですね。
医療側からも介護側からも連携を深めるというのは簡単なことではないですよね。
★ケアマネジャーインタビューで見えてきたこと
橋本
はい、現状を知ろうということで、2015年(平成27年)5月から6月にかけてケアマネさん一人ひとりにインタビューをしました。
ケアマネさんたちの業務において医療との連携状況が実際にどうなのか、やはり見えてきたのは「医療の敷居の高さ」でした。
電話やFAXなどのコミュニケーションツールの課題、何度も同じ話をしなければいけない、情報の正確性などの課題が多く聞かれました。
連携が十分にできてないことで患者さんに不都合が生じてしまうケースも実際にあり、ケアマネさんの本来の役割を満たしていればもっとうまくいくということが想像できました。
このインタビューからしばらくたってからですが、酒井先生が名寄市立総合病院の地域医療連携室の室長になられました。それまで酒井先生は救急のリーダーだったんです。
これを境に連携室の体制や意識が変わっていったようにも感じます。
大曽根
なるほどですね。
このあたりから連携の動きのステージが一段変わりそうですね。
それでは、エピソード1はここまでで、次回エピソード2でこの続きを見ていきましょう。
橋本さん、ありがとうございました。
橋本
ありがとうございました!
※内容はインタビュー実施時点(2022年3月2日)のものになります。
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★★名寄市あったかICT物語の構成★★
【シーズン1(導入前夜編)】
【シーズン2(導入編)】
· エピソード6:「医師としての紆余曲折の全てが今につながる」
【シーズン3(運用編)】
· エピソード4「前編:薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ」
· エピソード5「中編:薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ」
· エピソード6「後編:薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ」