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#5-3 北海道名寄市あったかICT物語【シーズン5(3年経過の現在地編)】

エピソード3「あー!そうだったんだ!『あー体験』の宝物紹介(1)・・・地域連携会議in名寄⑥より」

シーズン5エピソード3は引き続き宮腰さんから、ICTの取り組みを通じての気づきや価値を報告いただきます。
 
―大曽根(地域包括ケア研究所/名寄市ICT導入運用アドバイザー)
エピソード2での名寄市立総合病院内での展開状況、とても興味深いものでした。
循環器内科外来看護師係長の宮腰七蘭(ななか)さんをはじめ、関係者からもお話いただきました。
 
エピソード3では「あー!そうだったんだ!『あ~体験』の宝物紹介」ということで、宮腰さん自身がICTの取り組みを通じて気づいたこと、本質的な価値だと思うことついてお話いただきたいと思います。
 
最近この『あ~体験』ということばを使ってよく宮腰さんがお話をされているんですよね。
とても興味深い視点です!
 
では、宮腰七蘭(ななか)さんよろしくお願いいたします。


 
―宮腰(名寄市立総合病院外来看護係長)
 
改めてみなさん、宮腰です。よろしくお願いいたします。

そうなんです。
いろいろと事例をまとめていると、どの事例も「あ~!」「あ~!」と言っていて、地域と連携することは『あ~体験』の連続なんだなと気づいたんです(笑)
 
2年間、循環器内科外来でICT(Team)を使ってきて、心不全以外にも、高齢の患者さん、認知症の患者さんなどに多く活用していて、その中から3つの事例を通してみなさんに『あ~体験』の宝物紹介をしていきたいと思います。
 

★あ~体験ケース①:病院と地域のチームで病状悪化の理由を共有し、療養をサポート


まず最初の患者さんの事例です。
 
この患者さんは80代の悪性リンパ腫疑いの方でした。
胸水増加と穿刺を繰り返していらして、訪問薬剤を開始して状態が安定した方です。
 
ちなみに今日、各事例をご紹介するにあたって、世界観として左と右に分けてみました。
 
『左側の世界』・・・私たちがあまり地域と連携できていなかった世界
『右側の世界』・・・2年経って地域と連携した世界
です。

私たちがまだ連携していなかった『左側の世界』では・・・
ご本人さんが、胸水増加を繰り返して外来にいらっしゃるんですが、
「お薬飲んでいます」「訪問薬剤師さんも来てるので管理してくれています。」「認知症の妻がいるので、私が入院してしまうと1人での生活が難しいので心配です」とお話されていて、外来に来るたびに、胸水が1Lほど溜まっていて、毎回外来や救急外来にかかって胸水穿刺を繰り返していた患者さんだったんです。
呼吸器内科の先生が主治医でしたが、患者さんもしっかりしてそうに見えてお薬も飲んでいると言っているので、病状が悪くなったのかなと考えて、処方薬を増量していったんです。
 
一方で、
私たちが地域と連携していく『右側の世界』では・・・
地域包括支援センターの方や訪問薬剤師さんと響働していくと、
訪問薬剤を本人が断ってしまい現在は支援に入っていないと教えていただき、さらには「袋いっぱいの残薬があって、ご本人の認知機能もかなり悪そうですよ」と情報をいただきました。
 
私たちは、この時「あ~、飲めてなかったんだ・・・」
と分かったんですね。
 
ご本人も「大丈夫」とおっしゃっていますので無理にサービスも導入しにくく、包括の方とも相談し、遠方の家族さんに連絡をして一度ご受診の同行いただくよう依頼しました。
ご家族も状況を聞いて、お父さま(患者さん)に「薬剤師さん必要だよ」とお話いただいたことで、訪問薬剤を再開することになりました。
 
そうすると、みるみるうちに元気になっていき、胸水増加もなく元気になられました
この方はテニスがご趣味だそうで、今年の夏にテニスも再開されたようです!
 
もし「左側の世界」のままだったとすると、おそらく胸水増加を繰り返されてどこかのタイミングで入院になっていたと思うんです。
入院してしまうと認知症の奥さまはきっとご自宅でおひとりで住むことが難しくなり、施設や遠方のご家族のところに行かれることも考えられます。
「右側の世界」では、「あ~、奥さんとご本人さんが住み慣れた環境での生活が続けられて本当に良かったな」と感じる体験がありました。
 
 

★あ~体験ケース②:「もしもの時の病院」との繋がりをもちながら「おうちに帰りたい」をサポート


 
続いてお2人目の事例をご紹介します。
 
この方は70代の男性で肺がんのターミナルの患者さんでした。
最期をご自宅で迎えたいというご希望があり、訪問診療に切り替えてギリギリまでご自宅で過ごせた方です。
 
私たちが連携していない「左側の世界」では、これまでだとドクターが転院先にお手紙(情報提供書)を書きます。
そして、外来看護師は事務的な関わりのみで、「いついつ、どこどこの病院にかかってくださいね」くらいでした。
 
あとは、「繋いだ先の在宅での様子がわからない」ということもありました。
また、ご本人やご家族にとっては、病院が変わることや先生・看護師が変わることにとても不安があったんですね。
 
ちなみに、この患者さんは、第1希望は「おうちで亡くなりたい」ということだったんですが、第2希望もあって、「ギリギリまでおうちで過ごして、最後の数日だけだったら入院してもいいかな」というご希望だったんです。
 

 
連携のある「右側の世界」では、訪問診療所の看護師さんと包括支援センターの方と響働しました。
これまでの治療や、現在のつらい症状、第1希望、第2希望などご本人さんやご家族がどんな想いで転院先に行くのかなど、ACPに関する情報も共有しました。
 
今回ICTを使った連携がメインの話題ですが、当初はまだこの患者さんけっこう動けていらしたこともあって介護認定は取っていなかったのでICTが繋がっていなかったので、電話でやり取りをしました。
改めて、連携はICTだけじゃないなと、ここで押さえておきたい点です。
 
電話で情報共有した後、ICTにも登録し、ご家族にも「私たち、連携のICTで名寄市は繋がってるんですよ」とお伝えしたら、「家に戻った後も、情報やり取りしてくれてるんですね」「とても安心です」と話してくださいました。
 
 
在宅に繋いだ後も、訪問看護師さんが投稿してくださっている様子をこちらでも拝見させていただきました。
 
痛み止めの量が増えてきたな/酸素を使う量が増えてきたな/呼吸が苦しくなってきてるなと。
逆に、ご自宅で過ごされているので、「あ~、ご家族ととってもいい時間を過ごせているなぁ」と感じるような投稿も拝見できました。
とはいえ、もしかしたらこの病状の悪化だと、第1希望は叶わなくて「あ~、もしかしたら入院になるかもしれないな」っていうようなところも少し予測できて、主治医の先生にも報告していました。
 
最終的に当院に入院されて、4日ぐらいでお亡くなりになられたのですが、患者さんのご家族から「最高の最期でした」とおっしゃっていただけたんですね。
そのお言葉も、Teamの方に「感謝のお気持ちいただきました」と共有させていただきました。
 
今日は主治医の渡邊先生も会場にいらっしゃるので、医師のお立場からひと言いただいてもよろしいですか?
 
―渡邊先生
みなさん、おつかれさまです。呼吸器内科の渡邊です。
 

この患者さん、とても人生観がしっかりされていらした方でした。
肺がんの末期の方をいろいろ診てきましたが、最期どのように過ごしたいかがなかなかブレてしまう方が多いのですが、この方はご自宅で最期まで、もしくはギリギリまでご自宅で過ごして、最後数日間だけはもう眠らせてほしいというはっきりしたお気持ちがあった方なので、なるべく寄り添ってあげたいなと思いました。
 
ご家族のサポートのご負担も考慮しながらも、宮腰さんがいろいろと連絡を取ってくださり、日に日に状態が弱ってくる中で、「どのタイミングで受診がいいか」「どうなってきたら入院した方がいいか」などこまめに連絡が取り合えたと思います。
その結果として、ご希望でもあったギリギリまで家で過ごすことができたケースでした。
 
私自身も、ここまで深く関わることができた患者さんがそれほど多くなかったこともあり、背景情報なども触れることができ、とても勉強にもなりました。
このようなケースが今後も増えてくることもあると思うので、ICTを使って、在宅からどのタイミングで入院するか、訪問診療としても、どのタイミングで介入していくかなど、も考えていけると思います。
あらためてこの方に関わることができ良かったです。ありがとうございます。
 
―宮腰さん
先生、ありがとうございます。
本当に「時々入院、ほぼ在宅」の時代がこれからどんどんやってきた時に、地域と病院がしっかり連携し、患者さんの願いを叶えていくことが、このICTの連携の中に可能性が高まるのではないかなと思います。
1日でも長くおうちに居られるというのは、「ICTがあったから」という気もしております。
 

★あ~体験ケース③:「お孫さんと**したい!」をみんなでサポート


最後のケースとして、80代の男性の方で心筋症、心不全末期の患者さんでした。
 
「お孫さんの入学式に参列したい」、「お孫さんと旅行に行きたい」という願いがある患者さんでした。
地域と病院、家族みんなが響働して、この2つの願いを叶えることができました。
 
今までの連携のない「左側の世界」では、なかなか先生からの外来でのICの内容を共有する機会はほとんどなく、各職種がバラバラにACPの情報を持っていたように思います。
この患者さんの願いを一緒に共有する場がなかなかなく、「旅行に行きたい」とおっしゃっているけど、「どれぐらいの運動負荷なら耐えられるのかわからない」であるとか、あと私たち病院側では「介護側が患者さんの願いに寄り添うためにどんな動きを今取っていらっしゃるのかわからない」という状況でした。

連携のある「右側の世界」ですと、先生から外来でお伝えした病状や、患者さんやご家族が思ってるACPの内容をICTに投稿し、医療と介護で、病状と願いと共に「どうしたら叶えられるか」を共有しました。
 
その中で、やはり厳しい内容のICですと患者さんはショックを受けてしまわれるのですが、ご自宅に帰られた後、どのような反応だったのか/どこまで受け止められているか/どんなふうに理解されているのかなど、介護の方々がICTに情報を共有してくださいました。
これらの情報を共有し合うことで、主治医の先生にもお伝えすることができ、「もう少しこの部分をご本人にきちんとお伝えした方がいいかもね」であったり、「逆にここは少しセンシティブになってらっしゃるので、もう少しやわらかくお伝えしていった方がよいかもしれないね」と患者さんとのコミュニケーションの大事な判断材料にもなりました。
 
そして、入学式と旅行の日程ですね。
医療と介護みんなで共有して、「このピンポイントで、ここに行くためには、受診日をどうしたらいいか」「過負荷を避けるために車椅子など、どの程度レンタルしたらいいか」などICTや訪問看護師さんが直接外来に来てくれるなどして検討していきました。
訪問看護さんはイベント直後の状況を教えてくださり、「ちょっと旅から帰られてきて、今このような状況だから少し受診早めた方がいいかもしれません」と投稿いただいたり、外来看護師は受診時の状況を地域の方にお返ししていくというようなことを連携しました。
 
この患者さんですが、この2つの願いを叶えた後にお亡くなりになられましたが、「あ~、チーム一丸で願いを叶えるサポートができて本当に良かったな」という事例でした。
 
  

★いろんな『あ~体験』があることを発見!

一部ではありますが、ご紹介してきた『あ~体験』ですが、こうしてまとめてみていくと、いろんな「あ~」があったなと気づきました。
 
「あ~、そういうことだったのか!」という【発見】だったり、
「あ~、元気そう!で良かった」と【安心】だったり、
「あ~、もしかすると***かもしれない」という【予測】だったり
「あ~、よかったな!」という【嬉しさややりがい】だったり。
 
連携のある『右側の世界』では、病院での一瞬の関わりの中だけでは知りえない「あ~」がいっぱいあふれているなと思います。
 
ICTで連携することによって、
介護の方々が投稿してくださる情報で生活が見えるので、看護に本当に活かせる実感があります。
 
そして、患者さんの人生に同伴することが少しでもできたとすると、やはり「看護の役割」を果たせていることにもつながり、とてもやりがいに満ちる看護が今できているなと感じています。
 


★『あ~体験』の連続がつくるもの~新たな看護師の働き方改革

 『あ~体験』の連続がつくるものは何かな?と考えてみました。
 
冒頭でもご紹介した、2年前にICTを開始しようとした時に感じた、「時間も体力も消費されている私。時間ないのにこんなことできないわ。やらないきゃいけない業務が増えてヘトヘト・・・。」。
 
でも、『あ~体験』に気づき、その連続で「右側の世界」を生きていくと、「エネルギーも時間も消費していた感覚」から「毎日がとても充実しいてるような感覚があって、業務と捉えていたICTの連携が看護そのものに今はなっているな」と自信をもって言えます。

 
「左側の世界」では、私たちは体力的にも精神的にも消耗する感覚が強かったですが、「右側の世界」では、元気でいきいき「看護」そのものに誇りを持って働けていると思います。
 
 
「役割を果たす」ということを考えた時に、自分たちは何をしなければならない人なのか?という使命を思い出すことなのかなと思っています。
 
働き方改革が注目されていますが、例えば時間外の削減や何かを削っていく、効率を良くするといったイメージが私にはありますが、やっぱり大事なのは「自分たちの役割を果たして丁寧に医療や介護をしていくことで、自分たちの新たな働き方改革ができているんではないかなと思っております。
地域でひとつのICTがあることで、医療・介護・行政が三位一体で、正確な情報をタイムリーに共有・連携できています。
私たちの元気の源、『あ~体験』の宝庫だなと今は思っております。
 

 
最後になりますが、医療だけでは支える限界がやっぱりあるなと日々感じています。
医療と生活の双方の視点、今後はさらに必要になってくると思っています。
 
市外からも注目されている名寄の地域包括ケアモデルをさらにあちこちで実践していき、
「名寄っていいまちだな」「ここに住むと安心だな」という状態をみんなでつくっていけたらいいなと思います。

 
―大曽根
宮腰さん、『あ~体験』のお話ありがとうございます。
 
これ本当にぐっときます。
ICTの導入前からそして導入後もこのような集まりなどで話してきましたが、効率性や便利などの「機能面」だけを追求していくICTではなく、地域包括ケアといテーマで使うからこそ、ご本人の人生の物語に関わるうえでとてもあったかいもの(「価値」)が増えていく道具にしていこうと進めてきました。
 
まさに、その実践の様子が伝わってくるだけでなく、職業としての誇りや働き方改革にまで拡がるお話で、さらに「あ~体験」というとてもステキな表現でとても感動しました。
まさに「名寄あったかICT物語」そのものですね!
 
続いてのエピソードでは、介護側の『あ~体験』について橋本さんからお話しいただきます。

※内容は2024年12月時点のものになります。
 
→シーズン5エピソード4へ:お楽しみに!


 ★★名寄市あったかICT物語の構成★★

【シーズン1(導入前夜編)】

·        エピソード0:「名寄ICT物語、始めるにあたって」

·        エピソード1:「つながったら動いてみる」

·        エピソード2:「焦りとICT」

 【シーズン2(導入編)】

·        エピソード1:「想いをカタチへ①」

·        エピソード2:「想いをカタチへ②」

·        エピソード3:「名寄医療介護連携ICTの概要」

·        エピソード4:「ケアマネジャーから見たICT①」

·        エピソード5:「ケアマネジャーから見たICT②」

·        エピソード6:「医師としての紆余曲折の全てが今につながる」

·        エピソード7:「孤独に陥らないあたたかいシステム」

 【シーズン3(運用編)】

·        エピソード1:「名寄ならではの訪問看護を探究し続ける」

·        エピソード2:「訪問歯科がある安心感と連携のこれから」

·        エピソード3:「利用者さんの笑顔のために」

·        エピソード4「前編:薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ」

·        エピソード5「中編:薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ」

·        エピソード6「後編:薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ」

 【シーズン4(運用編②~医療機関~)】

·        エピソード1「道具の使い方と生身の情報~風連国保診療所」

·        エピソード2「そっと寄り添い架け橋になる 患者総合支援センター(前編)」

·        エピソード3「そっと寄り添い架け橋になる 患者総合支援センター(後編)」

【シーズン5(3年経過の現在地編)】

·       エピソード1「節目と場のデザイン~地域連携会議in名寄:概要編」

·      エピソード2 「院内でも地道にコツコツ~拡がるICTの裾野・・・地域連携会議in名寄⑥より」

·       エピソード3「あー!そうだったんだ!『あー体験』の宝物紹介(1)・・・地域連携会議in名寄⑥より」

·       エピソード4「あー!そうだったんだ!『あー体験』の宝物紹介(2)・・・地域連携会議in名寄⑥より」


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