第二章「望郷」
「望郷」
白野桔梗は紗倉の本名だ。彼女が遠い日の記憶を遡るとき、それはいつも決まってここから始まる。
それは彼女にとって最も古い記憶。それは彼女にとって最も美しい記憶。
父とはもう会えないのだろうか。異変に気づいてからその疑問を持つまでにどれほどの時間を有したのか定かではなかった。ただ、ひと月か二月か、父が帰らなくってからそれくらいの月日が経った時、幼き日の紗倉は不意にそう思ったのだ。
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