第4章 壁にはシャープな作りの丸い時計が掛けられ、長針と短針がまるで弟をおんぶするお兄さんのように10の数字の上で仲良く重なり合っている。床は安価な長尺シートではなく高級感のある木目調のフロアパネルが敷かれており、壁や天井もそれに合う様に茶色のチェック柄で統一されていた。裸の白熱灯と間接照明がとても良い雰囲気で、備え付けられているテーブルや椅子も、その光沢感からきっと良いお値段がするものなのだろう。店内のBGMであるJAZZ風の洋楽に紛れて聞こえる機械音さえなければ
第三章 「木星」 赤いきつね、と印刷された蓋を3分の1ほど剥がしてカップにトポトポとお湯を注ぐ。線の少し上くらいまで。最後のスープまで美味しく味わうためにはこのくらいが丁度いいのだ。硬麺が好きな私はタイマーを4分20秒に設定した。 3、2、1、ピロロン♪と携帯が出来上がりの合図を告げたので蓋を全て剥がし、頂きます、とひとりごちて麺をすする…のはまだ早い。2枚ある油揚げを箸で突き、中に詰まっている出汁を全体に広げるのが先だ。それをしないで油揚げを食べるとしょっぱい
「望郷」 白野桔梗は紗倉の本名だ。彼女が遠い日の記憶を遡るとき、それはいつも決まってここから始まる。 それは彼女にとって最も古い記憶。それは彼女にとって最も美しい記憶。 父とはもう会えないのだろうか。異変に気づいてからその疑問を持つまでにどれほどの時間を有したのか定かではなかった。ただ、ひと月か二月か、父が帰らなくってからそれくらいの月日が経った時、幼き日の紗倉は不意にそう思ったのだ。
〜あらすじ〜 病を患う母の看病に身も心もすり減ってしまった紗倉はある日、職場の上司に沖縄行きの往復チケットをもらう。母を1人にすることに思い悩むも、頼れる先輩の勧めもあって沖縄一人旅を決意した彼女は旅先で出会った青年と子供との奇妙な共同生活をすることになる。愛するとはどういうことなのか、どうすれば大切な人を大切にできるのか、紗倉はその答えを模索していく。 あなたは答えを知っていますか?