『大切な役割を神様から与えてもらったことに深い感謝の気持ちがあります』 ― バッハの無伴奏ソナタ&パルティータを20年ぶりに再録音した戸田弥生さんのお話
4月に20年ぶり2度目の録音となる2枚組大作「J.S. バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ」をリリースした戸田弥生さん。発売前から期待値の高かった本作だけに、すでにさまざまな絶賛の声をいただいています。
今回は戸田さんご本人に、本作の制作やレコーディングという仕事に対する思い、そして演奏家としての矜持とも言える言葉を伺うことができました。ぜひ下のリンクからアルバムを聴きながらお読みください。
───ヴァイオリニストにとってキャリアの節目で録音される印象があるレパートリーですが、ご自身でお感じになる20年前の録音(演奏)ともっとも違う点はどこでしょうか。
20年の間に、自分の大切な家族が出来、
音楽家としても1人の母親としても
大切な役割を神様から与えてもらったことに
深い感謝の気持ちがあります。
それは、私自身の中での
音への表情、生命力、となって表れていると思います。
───体の動きや楽器の向きがはっきりと捉えられるのは無伴奏作品の録音の楽しみのひとつですが、本作も演奏・録音ともにとても立体的で、ステージでのパフォーマンスをイメージしつつ音楽に集中することができました。
今回のレコーディング現場でご自身が特に意識されたことや、プロデューサー兼エンジニアの小野啓二さんとのお仕事で印象的だったことをお教えいただけますか?
エンジニアの小野さんとは
私の最初のレコーディングの
「イザイ無伴奏ソナタ全曲」からのお付き合いで、最も
信頼できる方です。レコーディングという
特殊な環境の中で、どれだけ
自然な音楽が出来るかは、
エンジニアさんと、演奏家のとても大切な
非常に緊張感のある時間の中での、信頼関係が非常に大切です。
───凄まじい集中力と体力を要するレコーディングであったことと思いますが、音楽そのもの以外に、例えばメンタルやフィジカル面で準備したことはありますか?
バッハの無伴奏は、
特にソナタの場合は、全身を使っての演奏になりますので
とにかく可能な限り身体を柔軟にする、疲労させないことを私の場合は気をつけていました。
だいたいのことは今までのレコーディングの経験などから想定できますので
なるべくコンサートに近い緊張感、
プラス
長時間に耐えられるだけの筋力は気をつけていました。
───この録音で素晴らしい音を聞かせている楽器(グァルネリ・デ ル・ジェス 1728年製作)について、その出会いや、どう感じているかなど、お教えください。
このグァルネリは
シャコンヌという楽器屋さんから長年お借りしております。
素晴らしい楽器を沢山持っておられる専門店で、
会長の窪田氏(本年の6月に、銀座で窪田氏のギャラリーが開店されます)
から直接この楽器を見せていただき、
ご親切にもすぐその場でお貸しいただいて、数日後のコンサートに演奏しました。
それからのお付き合いです。
私は、この楽器によって育てられ、さらに
柔軟な音楽作り、音色の色彩感、様々な素晴らしい発見があります。
楽器は演奏家にとっては、自分の腕前と同じくらい大事です。
───今後のレコーディングについてすでに計画やアイディアはお持ちでしょうか? 可能な範囲でぜひお教えください。
これから、さらに
バッハの無伴奏作品を大事に色々なところで演奏していく予定です。
ヴァイオリンの為の無伴奏作品…イザイなども
バッハと同様にたくさんの方にもっともっと聞いていただきたいです。
ヴァイオリンの無伴奏作品というと、難曲というイメージからか演奏される機会がそれほどは多くないかもしれません。
子供達などにもどんどん聞いてほしいです。
───本作をお聴きになる方へのメッセージ、または今後の活動についての告知などありましたらぜひ。
演奏家として、最後まで誇りを持って音楽を大切にしていくことが私の希望です。
どのような状況にあっても、音楽を深く感じ、また
それに向かって生きていけることに、心から
感謝しています。
■アルバムの試聴・購入はこちら