閉館してしまう「京都みなみ会館」へ行ってきたとのこと
「京都みなみ会館」が閉館するという報せがあった。理由は“厳しい経営状況が続き収益の見込みも立たないこと”だという。そこで、俺は東京から現地へと足を運んだ。これまで一度も訪れたことがない映画館にもかかわらず。
いったいなぜか。18歳まで広島で育った俺は、昔から「京都みなみ会館」にいつも妙な連帯を感じていたのだ。というのも、気になる映画の上映情報を調べると、地元の映画館(鷹野橋サロンシネマ、シネツイン、横川シネマ……)と、「京都みなみ会館」という文字が、毎度のように並記されている。広島と同じく東京での公開開始から数ヶ月遅れた日時とともにだ。俺にとって、京都みなみ会館は文化資本格差における被差別側の嘆息を、手前勝手に共有させてもらっていた映画館のひとつだったといえる。そんなこんなで、一度はその姿を拝んでおきたいとなった。
劇場は京都駅から中心街とは反対方面に歩いて10分強。周囲には遊興施設はほとんどなく、お世辞にも商売をやっていくうえでいい立地だとはいえない(開館当初はピンク映画館としての営業だったそうなので、それにはうってつけか)。しかし、俺はそれがむしろいいと思った。凪の中で孤高に営業を続けてきた事実。大型ショッピングセンターの中にある映画館とは真逆の姿勢に感じられ、もう気高いとさえ思った。
「Japan Community Cinema Center」がかねて指摘しているように、シネコンの本格化以降、日本では“映画館数は減少”し、“スクリーン数は増えている”。そして、観客数の推移はほぼ横ばいだ。そうなると、当然ながら1作品あたりの観客数・収益は減少する。単純に考えれば、シネコン方式の営業形態が経営面では優位となる。京都みなみ会館が“厳しい経営状況が続き収益の見込みも立たない”となるのも、さもありなんといったところか。
もちろん経営難の理由は一つではないだろう。コロナ禍であったり、更新期を迎えたデジタル映写機への設備投資負担、遊興の多様化……。なんにせよ、ミニシアターの経営は大変なようだ。クラウドファンディングを募る劇場も少なくない(むしろ多い)。そして、悲しいかな、ミニシアターの閉館にも、あまり驚かなくなってきた。
しかし、悲しいニュースばかりではない。
近年はミニシアターの館数が増えてもいるという。東京都墨田区に昨年9月開業したストレンジャー。「人口が30万人いないと1スクリーン経営が成り立たない」という業界の通説なんのその、人口わずか1万6千人の鳥取県湯梨浜町の廃校で営業を始めたジグシアターもそのひとつか。地元・広島で新たに開館したシネマ尾道も振り返れば15年もの間、上映を続けている。終わる命もあれば始まる命もある。逆風が吹き荒ぶなかで、新しい発想でミニシアターを立ち上げる新世代の上映者は少なくない。心強い。
俺には金がないので直接的な支援は難しいが、少なくとも、「あんなのミニシアターじゃねえよ」「魅力的な劇場じゃねえじゃねえか」と老害のような非難をせず、応援する立場でありたい。京都から帰る新幹線でそんなことを考えた次第。
……なんて書くと、「俺は文化に資する人間でござい」みたいでむずがゆいが、俺はただ、俺の趣味として、映画館で映画が見たいだけなのだ。本来映画は映画館で見ることを前提につくられていると思うし、なんにせよ現実からの逃げ場として映画館が街にあってほしいわけだ。映画館を出て酒を飲みながらの帰路で思いを巡らす最高の時間をどの街でも味わいたいわけだ。旅先でふらっと地域のミニシアターに入るわくわくを楽しめる機会が減ってほしくないわけだ。
なんだか、恥じらいもなく感傷的な文章だな。まあ、歴史ある一つの映画館がなくなってしまうわけだ。仕方あるまいというわけだ。