「男であっても(性的な)誘いを断るのは難しいやで」の体験
本当ごめんだけど
— みどり4 (@mdriiiii333333) January 20, 2025
出世のために偉いおばさんとヤれって言われても
普通に帰るんだが。
出世のため。そんな大層な報酬がなくとも性的な誘いを断りきれないことはある。タイトルの主語のデカさのわりにn=1の話だが、ある。あった。
して、俺はかつての経験を書く。
以下に記される事態(がよくないことだったと今になって振り返るの)は、俺の薄弱な意思が原因という面もある。また、社会的な問題と結びつける気持ちもなければ、性差の分断を生じさせるような議論にのるつもりもなく、そうした話題の材料にされることも目的としていない。
さて。
俺は大学を中退し、編プロを経て、出版社に就職した。正確ではないが、20歳頃だったと思う。
編集者としての能力は今以上になく、1から10まで周りの人に教えを乞いながら、企画を出し、書籍の編集に取り組んでいた。が、成果が出ることはなく、誤植は出すが、重版は出せない有様。発売スケジュールを落とすことすらあった。回収も経験した。典型的な、仕事ができない人間だった。
当時、編集部には、二人のエース女性編集者がいた。AさんとNさんとする。2人は同い年で仲が良く、俺より10歳ほど年上。いわゆるキャリアウーマンといった存在で、Aさんは喫煙所でたまに会うも会話は弾まず定型的な雑談のみをする先輩、Nさんは隣席で俺の仕事の相談によく乗ってくれるメンターのような先輩であった。
俺は二人のつくる本をすばらしいものだと思っていて、編集者として尊敬の念を抱いていた。企画会議でも後押ししてくれるようなコメントをくれ、ありがたく思っていた。企画が通らない、つまり本をつくらないと会社での存在意義が皆無になるので、会議におけるポジティブコメントは重要だったのだ。
が、いつからか、Aさんとの喫煙所での会話が(おかしな雰囲気に)変わっていった。
「なかたはNのことどう思ってんの?」
「お世話になってるんだから飲みにでも行ってきたら?」
そんな具合。経験がないなりに「ああ、これは外堀を埋められるっちゅうやつやな」と疑いを持った。
上に書いたような話をAさんから何度かされた後、根負けした俺は残業中にNさんを誘い、大陸系中華居酒屋に行った。
当時の俺はといえば、Nさんのことを仕事の面で好意的に思っており、さらに酒を愛しているゆえ飲み会に行くこと自体は嫌でなかったし、実際に楽しく過ごした。会社での雰囲気とは違うNさんを不思議に思いつつ、紹興酒を炭酸で割りながらたくさん飲んだ。
翌日、Nさんと顔を合わせると、彼女は周囲にはバレないように、だが、俺には何らかの思いを伝えたいようで、いつもと同じ「おはよう〜!」という挨拶をしてくれながら、奇妙に破顔していた。
その日だったか、Aさんと喫煙所で遭遇するや、上気した表情で尋ねられた。
「飲み会どうだった?」
飲み会に行ったことを知っている奇妙さから、俺が以前抱いていた疑いは確信に変わった。楽しかった旨を伝えると、Nさんの魅力を滔々と語られる。
その一つひとつに、俺は「そうっすよね」「ほんまいい本つくりますよね」「いつも勉強させてもらってます」なんて答えていた。それらはすべて本心だった。しかし、Nさんに対して恋愛感情はなく、Aさんの外堀を埋めてくるコミュニケーションには辟易してもいた。
それから何度か同じような繰り返しがあり、そのうち田園都市線沿いのNさんの家に誘われた。布団乾燥機でぬくぬくになったそれに一緒に入るよう誘われた。
嫌な気はしなかった。が、嫌な気もした。
好意を向けられることそのものは嫌ではなかった。が、搦めとられているような気であった。
当時の俺の気持ちを正確に思い出すことはできない。シゴデキ上司とザコ新人という権力勾配があったから俺が誘いを受けざるを得なかったのか。俺もいくらか乗り気であったのか。そもそも異性の家の敷居をまたぐことにあまりに無頓着だったのか。わからない。が、一つ目の要素がゼロということだけはあり得ない。
無論、ここまでの文章は俺の主観によるもので、Aさん、Nさんの立場からすると、また違った考えもあるだろう。また、Nさんからの誘いを断ったからといって、俺の仕事における悪影響はおそらく軽微であった。それでも、Nさんからの誘いを断れなかった俺がいた。
男であっても性的な誘いを断るのは難しいやで。少なくとも俺はそうだったやで。
忘れたい話でもあるし、忘れたくない話でもある。そんなところ。