【短話】朝の乳酸菌【昼会③】
夏休みに入り誰にも会わずのんびりと暮らしたかったが我がちょっと変わった学科には休みなど無い。ちょっと変わった学科由来の夏季集中補講が有るからなのだが、補講などと言うほとんど通常登校と変わらない、午前中は補講のカリキュラムで埋まるし午後は午後で他の補講や実習などでほとんど埋まる。当然土曜日や祭日も関係ないので夏休みとは名ばかりの実質1.5学期だ。まぁ、好きで選んだ学科なので仕方がない、それに悪目立ちしたくないので補講はそれなりにまじめに受けている。
朝1番のカリキュラムは8時30分開始だが、それとは別に個人的にちょっと変わった学科の自習練習の為に6時頃には校舎に入る。朝の6時と言えども真夏のこの時間はもうじんわりと暑い。登校するだけで汗をかく。
学校の各所には紙パックジュースの自動販売機が設置されている。毎日と言う訳ではないが学科棟の隣の自動販売機でコーヒー牛乳を買う、今日に関してはの喉の渇きを感じるのでもう一本別のジュースを購入して校舎に入った。
教室とは別に空いていれば自由に使える練習室がある。人目の少ない奥の練習室で荷物を広げ自習練習の準備に入る。ちなみに自主練習の主な内容は「観察」と「再現」だ。
良く見て「観察」し理解することが「再現」するために必要なスキルとなる、集中補講でも当然「観察」のテクニックを教えてくれるし練習もする、しかし不器用な飯田要には皆に追いつくためにも「観察」の自主練習は必要なのだ、「再現」は「観察」さえできれば意外と何とかなるのだが。教室で飯田要が目立たない様にする為に上手くも無く下手でも無い平凡で箸にも棒にも掛からぬ程度の技術を積極的に作る必要がある。その為の自主練習は欠かせない。
早速「観察」の練習をするために観察対象をセットする。「再現」の練習も併せるので紙と鉛筆も準備する。「観察」と「再現」を繰り返し合間にコーヒー牛乳を飲む・・・ゆっくりと朝の時間が静かに流れる。
一時間も過ぎたころ他のクラスメイトもぽつぽつと登校し始めたようだ。少しずつ人の声と物音が響きだす。要も一息つきもう一本買った紙パックを取り出す。そろそろ「観察」するモチーフに飽きてきたので紙パックを試しに「観察」する。
ヨーグルト飲料のこのジュースはヨーグルッペと言う商品名で白地の背景に青いインクでアルプスの少女ハイジに登場するような山の風景と民族衣装の少女が描かれている。そして牧草を表緑色。爽やかなデザインでこの時期にはよく合うイラストだ
手に取りくるりと回し注意文を読みテーブルの上に置く、買ったときそれなりに冷たかったヨーグルッペはぬるくなり冷たさの名残で表面に水滴がついていた。
「観察」中にふいに目に入った一文に噴出した。噴出した勢いでそのまま咽込む
「ゴホ・ゴホン・・ウヘヘヘエェ」
笑いが止まらない箸が転げてもおかしい年ごろとは女子だけでの事では無い。そろそろ人が増える時間に目立ちたくはない!でも笑いが止まらない!!
笑いを無理矢理押さえようと息を止め腹筋に力を入れる。しかしふいに先程の一文にまた目が留まり笑いのツボが再発する。もう此処まで来ると笑いを止めようと思えば思う程笑いが沸き起こる悪循環だ。
それでも必死に笑い声をかみ殺そうとするが噛み切れない鼻から漏れる顔が真っ赤になる、肩が震える。
奥の目立ちにく場所にいてよかった。隣の練習室には誰か入ってきたようだ
何人かこの練習室の様子を伺たようだが利用者が居ると分かるとすぐに去っていった。必死に笑いを堪えている姿は誰にも見られていない。タブン。
それから暫くしてやっと笑い波が収まり落ち着くことが出来た。深呼吸を2,3度。危なかった・・・この時間に一人でゲラゲラ笑うとアブナイ奴認定されてしまう。こんな訳の分からない状態で目立つのはごめんだ、落ち着いた・・・落ち着いた・・・・大丈夫。
気が付くともうそろそろ補講の教室へ移動する時間だ。道具を片付けジュースのパックを取ろうと手を伸ばした瞬間にあの一文がまた目に入る。
笑いが再発する。大爆笑だがボッチスキル「気配を消すLv.1」の効果を最大限に発動させ笑いを噛み込む・・・が、多分気配は消し切れ無かっただろう・・・肩を震わせ机に突っ伏してとにかく笑い声だけは殺したが暫く笑いが止まらなかった。
笑いで顔を真っ赤にして目に涙を溜めてやっと起き上がったが時間は8時45分を少し回っていた・・・・遅刻か・・・・っく!!
一瞬補講をさぼるか悩んだが遅刻の方が被害が少ないと思い急いで補講教室へ向かった。
今まで要が座っていた机には一本のヨーグルッペが残されていた。
※ヨーグルッペは南日本酪農協同株式会社の商品で九州の心の飲み物です。
たのしいは正義!この言葉を胸に楽しめるコンテンツで在りたいとおもいます。(*´ー`*)